
「キャリアとは何か?」ビジネスの場で頻繁に聞かれるこの言葉。単に仕事上の経歴を意味するだけでなく、実はその人の人生観や生き方そのものを表す重要な概念です。
本記事では、キャリアの本来の意味や関連する用語、現代におけるキャリアデザインの必要性と具体的な方法について解説します。
キャリア形成支援に積極的な企業が増える中、ビジネスマン個人としても自分のキャリアを主体的に描くことが求められています。キャリアデザインやキャリアパスに関する知識を深め、今日からのキャリア形成に役立ててください。
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目次
キャリアとは?本来の意味と定義
「キャリア」とは元々、個人の職業上の経歴や経験を指す言葉です。例えば「キャリアを積む」というと仕事の経験を重ねることを意味します。一般的には就職・転職歴、役職や職務経験などがキャリアと捉えられがちです。
しかし本来、キャリアにはもっと広い意味があります。語源をたどるとラテン語の「carraria」(荷車の通り道)で、人の辿る道筋や経路を指すようになりました。
厚生労働省はキャリアを「『経歴』『経験』『発展』さらには『関連した職務の連鎖』等と表現され、時間的持続性ないしは継続性を持った概念」と定義しています。また文部科学省では「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」と説明しています。これらから分かるように、キャリアは単に過去の実績ではなく、将来に向けて連続する成長のプロセスであり、その人の価値観や生き方と深く結びついているのです。
外的キャリアと内的キャリア
なお、キャリアには外的キャリアと内的キャリアという捉え方もあります。外的キャリアとは履歴書に書けるような職務経歴・役職・資格など客観的に見える部分であり、内的キャリアとは仕事に対する動機ややりがい、価値観の充足度など主観的で内面的な部分を指します。
例えば「〇〇会社の部長」という肩書は外的キャリアですが、「仕事を通じて社会に貢献している充実感」は内的キャリアと言えるでしょう。キャリアを考える際は、この両面を意識することが大切です。
キャリアに関連する用語:キャリアパス・キャリアプラン・キャリアデザイン
「キャリア」という言葉と組み合わせて使われる関連用語も整理しておきましょう。
代表的なものに
- キャリアパス
- キャリアプラン
- キャリアデザイン
などがあります。それぞれ意味が異なりますので、順に説明します。
キャリアパスとは
キャリアパスとは、組織内における職業上の道筋のことです。社員がどのような順序で役職や職種を経験し、ステップアップしていけるかというルートを示すものです。例えば「新人スタッフ → 主任 → 課長 → 部長」というように、社内で昇進・昇格していく典型的なパスが挙げられます。
キャリアパスを明確に示すことは、人事戦略上も重要です。従業員にとっては自分の将来像を描きやすくなり、目標に向けた努力の指針となります。企業にとっても、必要な人材育成や配置の計画が立てやすくなるメリットがあります。
注意したいのは、キャリアパスは一つではないということです。現代では専門職コースや管理職コースなど複線型のキャリアパスを用意する企業も増えています。
各人の適性に応じて「スペシャリストとして極める道」「ジェネラリストとしてマネジメントに進む道」など複数の道筋を示すことで、従業員の多様なキャリア志向に応えられるでしょう。
キャリアプランとは
キャリアプランとは、個人が立てる長期的な職業人生の計画です。将来どのような仕事に就き、どのように成長していきたいかという目標とステップを描いたものと言えます。
キャリアパスが会社側で用意された道筋であるのに対し、キャリアプランは個人が自主的に描くロードマップです。例えば「5年以内にチームリーダーになり、その後マーケティング分野の専門知識を深めて10年後には〇〇マネージャー職に就く」といったように、自分の夢や目標を具体化します。
キャリアプランには社内での昇進だけでなく、転職や独立といった選択肢も含まれます。自分の理想のキャリア像を実現するために、必要なスキルや経験をいつまでに身につけるか、といった行動計画を盛り込む点がポイントです。キャリアプランを立てておくことで日々の仕事のモチベーションが高まり、軸のブレないキャリア形成が可能になります。
キャリアデザインとは
キャリアデザインとは、自分の望む将来像を実現するために職業人生を主体的に設計することです。一見キャリアプランと似ていますが、キャリアデザインのほうが概念として包括的です。
キャリアプランが主に「仕事上の目標・計画」を指すのに対し、キャリアデザインは仕事だけでなくプライベートも含めた人生設計というニュアンスを持ちます。言い換えれば、キャリアプランが職業上の計画であるのに対して、キャリアデザインは人生の中でキャリア(仕事)をどのように位置付けるかという視点を含んでいるのです。
例えば「将来地方で暮らしながらフリーランスとして働きたい」というビジョンがある人は、それを実現するために必要なキャリアデザインを描くことになります。具体的には「30代までに都市部で十分な経験と人脈を築き、40代で独立して地方移住し、コンサルタントとして自立する」等、人生の節目を踏まえた計画になるでしょう。
キャリアデザインでは単に職務経歴を積み上げるだけでなく、自身の価値観や理想とするライフスタイルを明確にし、それに沿ったキャリア上の目標と計画を立てます。言わば、「自分らしい生き方」を追求するための行動計画がキャリアデザインです。
昨今は企業内でも従業員にキャリアデザインを促す研修が行われたり、個人でもライフイベント(結婚・出産・介護など)を見据えたキャリアデザインを考えることが重要視されています。
キャリアを考えることの重要性
ここまでキャリアの意味について説明してきましたが、ではなぜ今「キャリア」について深く考える必要があるのでしょうか。背景には、現代の社会・雇用環境の大きな変化があります。
終身雇用制の崩壊とキャリア自律の必要性
一昔前の日本では、新卒で入った会社に定年まで勤め上げる終身雇用や、年齢とともに地位や給与が上がる年功序列が一般的でした。その時代には、働き手が自分自身のキャリアについて主体的に考える必要性は今ほど高くありませんでした。組織の中で言われたとおりに勤めていればキャリア(=社内での昇進)は自ずとついてきたからです。
しかし現在、終身雇用や年功序列は崩れつつあり、転職が当たり前の時代になりました。技術革新による業界構造の変化や、グローバル競争の激化、不景気によるリストラ等により、「1社に長く居れば安心」という前提が成り立たなくなったのです。その結果、一人ひとりが自分のキャリアを自分で切り拓く意識を持たざるを得なくなっています。
また、働き方改革が進み、副業解禁やフレックスタイム・リモートワークの普及など、働き方が多様化しました。これに伴い、キャリアの描き方も人それぞれに多様化しています。ある人は一つの専門を極めるキャリアを望み、別の人は複数の肩書きを持つ「スラッシュキャリア」を模索するかもしれません。
このような状況下では、自分は何をしたいのか(Will)、何が得意か(Can)、周囲から何を求められているか(Must)を意識しながら、自らキャリアを設計していくことが重要になります。すなわち「キャリア自律」の必要性が飛躍的に高まっているのです。社会や会社にキャリアを委ねるのではなく、自分自身が舵を取り、変化に対応できるようキャリアデザインすることが求められます。
企業にも求められる意識改革
キャリアを個人任せにせず、企業が従業員のキャリア形成を支援する動きも広がっています。従業員の自律的なキャリア形成を後押しすることが、結果的に企業の成長にもつながるという認識が高まっているためです。
例えば、定期的にキャリア面談を実施したり、社内公募制度を設けて社員が手を挙げて異動できるようにしたり、研修でキャリアデザインを考えさせたりといった取り組みをする企業が増えています。社員一人ひとりが自分のキャリアと向き合い、考える風土を醸成することが、モチベーション向上や人材流出防止につながると考えられているからです。
つまり現在は、企業側の変化(雇用制度の柔軟化・支援策の整備)と働き手側の変化(キャリア意識の向上)が相まって、誰もが「キャリアとは何か」を考えざるを得ない時代になっていると言えるでしょう。
本記事の次章以降では、企業におけるキャリア支援の意義や具体策、そして個人がキャリア形成に取り組む方法についてさらに詳しく見ていきます。
企業がキャリア形成を支援する意義とメリット
従業員のキャリア形成支援は、個人にとって有益であるだけでなく企業にとっても重要なテーマです。この章では、企業側の視点からキャリア支援の意義と、それによって得られるメリットを整理します。
結論から言えば、企業が社員のキャリア開発を支援することは、社員のモチベーションや能力を最大化し、結果的に組織の業績向上につながるため、戦略的に非常に意義深いのです。
従業員のモチベーション向上
一人ひとりが将来のキャリアビジョンを描き、それに向けて成長を実感できる環境は、高いモチベーションを生みます。企業がキャリア支援(研修・面談など)に力を入れると、「自分は会社に大切にされている」という実感を社員が持ちやすくなり、仕事への意欲向上につながります。
人材育成に積極的な企業ほど社員エンゲージメント(愛着心・貢献意欲)が高まるというデータもあります。逆に将来展望が描けない職場では、どうしても日々の業務に追われ疲弊しがちです。社員のキャリア形成を支援することは、社員のやる気スイッチを押す有効な施策と言えます。
優秀な人材の獲得と定着
人材採用の観点でも、キャリア支援は大きな武器になります。特に向上心の高い優秀な人材ほど、自分が成長できる環境を求めるものです。「この会社なら自分のキャリアアップを応援してくれそうだ」と感じられれば、入社の大きな動機付けになります。
例えば求人票や採用ページで「キャリア形成支援制度充実」「○○研修や資格取得支援あり」などと打ち出す企業も増えています。これは応募者に対し「ここでは成長できる」と印象付けるためです。キャリア開発の機会が豊富な職場は人材市場において魅力的に映り、結果として優秀人材の確保に寄与します。
さらに入社後も継続してキャリア支援を行うことで、社員のロイヤリティが高まり定着率向上につながります。自分の成長が実感できる会社、人事と上司が将来を一緒に考えてくれる会社から離れたいと思う人は少ないでしょう。キャリア支援は採用から定着まで一貫して効果を発揮するのです。
生産性の向上と組織力強化
社員が主体的に学び成長する風土は、組織全体の生産性向上にも直結します。従業員が新たな知識・スキルを習得し続ければ業務効率や仕事の質が高まります。また「もっと成長したい」という思いがある社員は自主的に工夫や改善提案を行うため、チーム全体が活性化しやすくなります。
例えば社内での異動やプロジェクトローテーションによって部署間の知見交換が進むと、業務のボトルネック解消やイノベーション創出につながることがあります。キャリア形成を促す環境は社員のチャレンジ精神を育み、結果的に会社の競争力強化につながります。
逆にキャリア停滞を感じるとモチベーションが下がり、生産性低下や優秀層の流出リスクが高まります。そうした事態を防ぐ意味でも、企業は継続的なキャリア開発の機会提供が必要なのです。
組織のイノベーション促進・持続的発展
社員のキャリア支援に取り組む組織文化は、長期的な視点での組織発展にも寄与します。常に社員が新しいスキルや知識を身につけていれば、組織に新風を吹き込み変革を起こしやすくなります。
また、従業員が多様なキャリアを経験することで社内の人的ネットワークが広がり、部署間の垣根を越えた協力体制が生まれます。ジョブローテーション等で異なる部署の経験を持つ人材が増えると、「サイロ化」の打破にもなり組織全体で創造的な取り組みが起こりやすくなるでしょう。
このように、企業がキャリア形成を支援することは、社員個人の成長と幸福につながるだけでなく、企業自体の成長戦略の一環として重要です。次章では、具体的にキャリア開発(キャリア形成)とは何か、そしてそれにどう取り組むかを解説していきます。
キャリア開発(キャリア形成)とは何か
キャリア開発(Career Development)とは、個人の能力や職務経験の開発を中長期的に計画・実行していくプロセスのことです。簡単に言えば、「望ましいキャリアを実現するために、計画的に自分を成長させていく取り組み」を指します。
キャリア開発は個人にとって、単なる昇進や給与アップを目指すだけではなく、自己実現や働きがいの追求といった意味合いも含む包括的な概念です。自分の将来像に近づくために必要なスキルや経験を積み重ねていくことで、仕事人生の充実を図ります。
一方、組織にとってのキャリア開発は人材育成戦略の一部です。社員一人ひとりが成長することは、組織全体の能力向上につながります。そのため、多くの企業が研修制度や社内公募制など様々な仕組みを設けて従業員のキャリア開発を支援しています。
現代の急速な変化の中でキャリア開発が特に注目される背景には、前章で述べたような雇用環境・労働市場の変化があります。終身雇用が崩れ、技術革新やグローバル化で求められるスキルが目まぐるしく変わる今、「学び続け適応し続ける人材」であり続けることが個人にも企業にも求められています。
例えば、AIやデジタル技術の進展により、5年後には今存在しない仕事が生まれ、逆に今ある仕事の一部は自動化されているかもしれません。そのような不確実な時代でも自分の価値を発揮し続けるために、常に新しい知識を吸収しスキルをアップデートしていく必要があります。キャリア開発とは、そうした変化に対応できるよう自らを鍛え続ける営みなのです。
企業もまた、市場環境の変化に対応していくために社員のキャリア開発を促しています。組織の方針と個人のキャリア目標をすり合わせ、双方にとって有益なキャリア開発計画を立てることが理想です。
では、実際にキャリア開発に取り組むとどんな良いことがあるのか、次にそのメリットを具体的に見てみましょう。
キャリア開発に取り組むメリット
キャリア開発(キャリア形成)に積極的に取り組むことは、本人と所属組織の双方に多くのメリットをもたらします。ここでは主なメリットを整理します。
- 自分の成長と自己実現につながる
- 計画的にスキルアップや経験を積むことで、将来の目標に近づきやすくなります。キャリア開発の過程で得た達成感や自己効力感は、仕事のやりがいや人生の満足度向上につながります。
- 仕事へのモチベーション向上
- 将来の展望が見えると日々の仕事にも目的意識が生まれ、主体的・積極的に取り組めます。自ら目標を定めて努力することで、マンネリ化を防ぎ常に新鮮な気持ちで仕事に臨めます。
- キャリアの柔軟性・市場価値が高まる
- 新しいスキル習得や様々な職務経験は、自身の市場価値を高めます。結果として社内での昇進機会が広がるだけでなく、万一転職を考える際にも有利になります(選択肢が増える)。
- 企業にとっての生産性向上
- 個人のキャリア開発の積み重ねは、組織全体の力となります。スキルの高い社員が増えれば業務効率化やサービス改善が進み、企業の生産性や競争力向上に直結します。
- 組織の活性化・エンゲージメント向上
- 社員が主体的に成長を目指す組織は活気づきます。互いに刺激を与え合い、学び合う風土が生まれるため、新しい発想や協働が生まれやすくなります。社員のエンゲージメント(愛社精神)も高まり離職率低下にも寄与します。
以上のように、キャリア開発は個人の成長と会社の発展を同時に促す「Win-Win」の要素を持っています。もちろん実際には時間や努力も必要ですが、それに見合う大きなリターンが期待できるのです。
では、具体的にキャリア開発を進めるにはどのような方法があるのでしょうか。次章で詳しく見ていきましょう。
キャリア開発の具体的な方法
キャリア開発を実現するために、企業や個人が活用できる具体的な手法・施策はいくつもあります。ここでは代表的な方法を紹介し、それぞれどのような効果があるか解説します。
キャリア研修の実施
キャリア研修とは、従業員に自身のキャリアについて考えさせるための研修プログラムです。新人研修や若手研修の一環で行われることもあれば、キャリアの節目となる年代(30代研修・管理職研修など)で実施される場合もあります。
キャリア研修では、自分の強み・弱みを分析したり、将来の目標を言語化したりするワークが行われます。例えば「5年後・10年後の理想の自分像」を描き、それを実現するには今後どんな経験を積むべきか逆算して計画を立てる、という演習が典型です。
研修という比較的落ち着いた場を通じて、自分のキャリアに向き合う時間を持つことで、日々の忙しさの中では見落としがちな長期的視点に気づけるメリットがあります。また会社側にとっても、社員のキャリア志向や不安を把握する機会となり、その後の配置や育成計画に活かせます。
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キャリア面談(キャリアカウンセリング)の実施
キャリア面談は、上司や人事担当者が従業員一人ひとりと定期的に行うキャリアに関する対話の場です。年1回以上、評価面談とは別に実施する企業が増えています。
面談では「将来どんなキャリアを望んでいるか」「今伸ばしたいスキルは何か」「現時点での悩みは何か」などをヒアリングし、会社としてサポートできることを話し合います。従業員にとっては自分の想いを伝え、フィードバックをもらえる貴重な機会です。
例えば「将来的に海外営業にチャレンジしたい」という希望が聞ければ、会社側は必要な研修やポストの検討ができます。また上司から見て「あなたのこういう強みがもっと活かせる部署がある」といった提案が出ることもあります。
このようにキャリア面談は、社員の希望と組織のニーズをすり合わせる場となります。対話を重ねることでミスマッチを減らし、社員のキャリア形成と会社の人材活用を両立させる狙いがあります。
なお、企業によっては社外の専門家(キャリアコンサルタント)によるキャリアカウンセリングを提供するケースもあります。上司には言いにくい本音も第三者には話せることがあるため、有効な支援施策と言えるでしょう。
キャリアパスの提示
前述したキャリアパスを社内で明示することも重要な施策です。社員に対して「あのポジションを目指すにはどのような経験を積む必要があるのか」を示すことで、具体的な目標設定を支援します。
例えば人事部門で「専門職コース」「マネジメントコース」など複数のキャリアパスモデルを作成し、公表している会社もあります。それぞれのコースで求められるスキルや経験、到達できる役職の例などを図示することで、社員は自分の将来像をイメージしやすくなります。
キャリアパスを提示する際は、単にモデルを示すだけでなく、それをもとに上司とキャリアプランを話し合う場を設けると効果的です。「次のステップに進むには〇〇の経験が必要だから、今年は△△のプロジェクトに挑戦してみよう」といった具体的なアクションにつなげることができます。
ジョブローテーション(計画的人事異動)
ジョブローテーションとは、従業員に意図的に様々な部署・職種を経験させる人事施策です。特に若手~中堅社員のうちに複数部署を回ることで、視野の広い人材を育てる狙いがあります。
一つの部署・領域だけで長く働いていると専門性は高まりますが、視点が固定化する恐れもあります。そこで数年おきに違う部署に異動し、新たな業務にチャレンジすることで、適応力や総合力が養われます。
例えば「営業→企画→人事」と3部署を経験すれば、顧客視点・事業視点・組織視点の全てを持ち合わせた人材に成長できるかもしれません。将来的に幹部候補となる人材には計画的なローテーションを課す企業も多いです。
本人にとっても新しい環境でゼロから学ぶ経験は大変ですが、その分大きな成長機会となります。自分では気づかなかった適性が見つかることもあります。もちろん異動のたびに不安や負担もありますので、企業はフォロー体制(引継ぎ支援やメンタルケアなど)を整えることが大切です。
副業の推奨・社外活動支援
近年注目されるのが、社員の副業(複業)を認め推奨する動きです。一見本業以外の活動は会社にメリットが無いようにも思えますが、実は社員の成長につながる側面があります。
副業を通じて本業では得られない経験やスキルを習得できる可能性があります。例えばIT企業のエンジニアが副業で全く別業界のプロジェクトに参加すれば、新しい技術トレンドに触れたり異業種の仕事の進め方を学んだりできます。それを本業にフィードバックすることでイノベーションが生まれるケースもあります。
また副業が認められていると、社員は会社に縛られていない感覚から精神的なゆとりが生まれ、本業にも良い効果をもたらすという指摘もあります。「会社に頼らずとも自分で稼げる」という自信が自己肯定感を高め、本業のパフォーマンス向上につながるという考え方です。
もっとも、副業推奨には就業規則の整備や情報漏洩防止策など配慮すべき点も多くあります。労働時間管理や健康管理にも注意が必要です。しかし適切に運用できれば、社員のキャリアの幅を広げ、結果的に組織にも新たな知見をもたらす施策となります。
リスキリング(学び直し)の支援
リスキリングとは、現在持っているスキルを見直し、新たなスキルを習得し直す「学び直し」のことです。DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代、従来のスキルだけでは対応できない業務が増えています。そのため企業も社員に対し積極的なリスキリングを促しています。
具体的には、社内大学の設立、オンライン学習プラットフォームの導入、資格取得報奨金制度など様々な施策があります。重要なのは、会社が学習機会を提供・支援し、社員自ら学ぶ文化を育てることです。
社員が自主的にセミナーや勉強会に参加できるよう勤務時間を調整したり、研修受講を業務評価に組み込んだりする例もあります。特にデジタルスキルやデータ活用スキルは多くの業種で必須となりつつあるため、計画的に全社員に研修を受けさせる企業も出てきています。
リスキリングによって社員個人の市場価値は高まりますが、それを会社が支援することは「社外でも通用する人材」を社内に増やすことでもあります。短期的には転職を助長するリスクもゼロではありませんが、それ以上に社内人材の底上げ効果が期待できるでしょう。
リスキリングについては次の記事もご参照ください。「リスキリングとは - 意味と導入のポイントを解説」(KeySession)
以上、キャリア開発の主な手法を紹介しました。企業規模や業種によって取れる施策は様々ですが、ポイントは社員が「自分のキャリアについて考え、行動する」きっかけを与えることです。次の章では、個人が主体的にキャリアデザインを行う際のポイントについて述べます。
効果的なキャリアデザインのためのポイント
最後に、個人が自らのキャリアをデザインしていく上で押さえておきたいポイントを解説します。自分自身のキャリアを主体的に切り拓くためのヒントとして以下の事項を参考にしてください。
フレームワークを活用して自己を整理する
キャリアの方向性に迷ったら、まずフレームワークを使って現状を整理してみましょう。おすすめは「Will・Can・Mustのフレームワーク」です。
- Will(やりたいこと)… 自分が将来やり遂げたいこと、興味・関心のあること。
- Can(できること)… 自分が得意なこと、これまで培ってきたスキルや強み。
- Must(やるべきこと)… 周囲から期待されていること、役割上求められること。
この3つを書き出し、重なる部分に自身のキャリアの方向性を見いだす方法です。Willが弱いと「やりたくない仕事」を無理に続けることになり、Canが弱いと「理想ばかりで現実味がない計画」となり、Mustが弱いと「自己満足で組織や社会から評価されないキャリア」になりかねません。3要素のバランスを考えることで、自分らしくかつ価値を発揮できるキャリアを設計できます。
他にもSWOT分析(自分の強み・弱み・機会・脅威を整理する)やキャリアアンカー(自身が譲れない価値観を見つける)など、キャリア検討に使えるフレームワークはいくつかあります。そうしたツールを活用すると、自分の状況を客観視しやすくなるためおすすめです。
定期的な自己分析と振り返り
キャリアデザインは一度描いて終わりではありません。環境や自分の興味の変化に応じて軌道修正が必要です。そのために定期的な自己分析と振り返りを行いましょう。
具体的には、半年~1年に一度くらいの頻度で「この1年で得たもの・成長したこと」「逆に課題だと感じたこと」を書き出してみます。過去の経験を棚卸しすることで、自分が充実感を得た仕事や逆につらかった仕事の傾向が見えてきます。そうした自己理解が深まれば、「次はどんなことに挑戦すべきか」「どんなスキルを伸ばすべきか」が明確になるでしょう。
場合によっては他者からのフィードバックも有効です。上司や同僚、家族などに自分の強み・弱みを率直に聞いてみると、自分では気づかない意外な長所を教えてもらえることがあります。360度フィードバックなど会社の仕組みがあれば積極的に活用しましょう。
ロールモデルやメンターから学ぶ
キャリア形成において、ロールモデル(模範となる人)を見つけることは大きな助けになります。業界で活躍している人や社内の尊敬できる先輩など、「自分も将来あんなふうになりたい」と思える人物を探してみましょう。
ロールモデルの経歴や仕事への姿勢を研究すると、自身のキャリアの参考になります。その人がどんな経験を積み、どんな考えでキャリアの節目を選択してきたのかを知ることで、自分が今後身につけるべきスキルや取るべき行動が具体的にイメージできます。
身近に相談できる先輩がいるなら、メンターとして助言を仰ぐのも良いでしょう。仕事人生の先輩からのアドバイスは非常に実践的であり、また悩んだとき精神的な支えにもなります。社内制度としてメンター制度がなくても、自発的に信頼できる先輩・上司をメンター的に頼ってみるのがおすすめです。
中長期的な視点を持ちつつ変化に柔軟に
キャリアデザインでは長期的なビジョンを描くことが重要です。5年後、10年後に自分はどうありたいかを想像してみてください。
例えば、
「将来は〇〇の専門家として認められたい」
「経営層に加わって意思決定に関わりたい」
「海外で働きたい」
など、人によって様々な夢があるでしょう。その理想像を具体的に描くことで、今何をすべきかが見えてきます。
ただし同時に、環境の変化に柔軟に対応する姿勢も忘れないでください。世の中の状況や自分の価値観は時間と共に変わり得ます。当初の計画通りに行かないこともあります。そんなときは立ち止まり、新たな現実に合わせてキャリアプランをアップデートすれば良いのです。
要は、軸は持ちつつも頑なにならないことです。「こうでなければ成功でない」という狭い定義に囚われると息苦しくなります。むしろ色々な可能性を受け入れ、チャンスが来たら掴む柔軟さが、これからの時代のキャリア形成には求められます。予期せぬ異動や仕事の変化も前向きに捉え、自分の成長材料にしていきましょう。
年代別:キャリア形成のポイントと心構え
最後に、年代ごと(キャリアステージごと)に押さえておきたいポイントをまとめます。自分の今の年代に当てはめて参考にしてみてください。
20代:視野を広げ土台を築く
20代はキャリアのスタート地点。社会人としての基礎を身につけつつ、自分の適性や興味を探る時期です。
- 幅広い経験を積む
- 配属された仕事だけに拘らず、機会があれば色々な業務やプロジェクトに挑戦してみましょう。ジョブローテーションなどで得た異分野の経験が、将来思わぬ強みになることもあります。
- 基礎スキルを磨く
- ビジネスマナー、コミュニケーション、タイムマネジメント、ITリテラシーなど、どの職種でも必要となる基礎的能力をこの時期にしっかり身につけます。土台がしっかりしていると後の成長が違います。
- 自己分析を怠らない
- 仕事を経験しながら、「どんな時にやりがいを感じるか」「どんな作業が得意か」「逆に苦手なことは何か」を意識的に振り返りましょう。若いうちに自分の傾向を把握しておくと、30代以降のキャリア選択がスムーズになります。
- メンターや相談相手を見つける
- 信頼できる先輩や上司に相談しやすい関係を築いておくと◎。キャリアだけでなく悩み事を気軽に話せる人脈は、精神的な支えにもなります。
- 長期ビジョンを描き始める
- まだ漠然としていても構いません。「将来こんな人になりたい」というイメージを持っておくとモチベーションにつながります。5~10年後の理想像を思い描き、それに必要な経験を逆算して今できる努力を考えてみましょう。
20代は失敗しても大きなダメージになりにくい時期です。チャレンジを恐れず色々試す中で、自分のキャリアの方向性を少しずつ探っていきましょう。
30代:専門性を深めキャリアの軸を定める
30代はキャリアの伸張期。20代で培った経験をもとに、自分のキャリアの軸を固めていく時期です。
- 専門性の確立
- 自分が勝負できる専門領域を持ちましょう。エンジニアであれば特定の技術分野、営業であれば特定業界の知見など、「これなら任せてほしい」と言える強みを作ります。
- リーダーシップの発揮
- 30代になるとプロジェクトリーダーや後輩指導を任される機会が増えます。チームをまとめ目標を達成する経験を通じて、マネジメントスキルも磨いていきましょう。
- 人的ネットワークの拡大
- 社内外の人脈を意識的に広げることも重要です。異業種交流会に参加したり、業界の勉強会に顔を出すなどして、人との繋がりから新たな情報や機会を得られるようにします。
- ワークライフバランスの見直し
- 仕事が忙しくなる時期ですが、家庭を持つ人も増え始めライフイベントとの両立も課題になります。仕事と私生活のバランスを整え、燃え尽きないようセルフケアをすることも長いキャリアには欠かせません。
- 必要に応じ新しい挑戦も
- 現在の会社や職種に閉塞感を感じる場合、思い切って転職や留学・独立など新しい挑戦を検討するのも30代です。体力・気力が充実している今だからこそできる決断もあります。ただし衝動的ではなく計画性を持って行動しましょう。
30代は責任ある立場を任され、プレイヤーからリーダーへと役割が移っていく転換期でもあります。自分のキャリアを客観視し、軸を定めつつも柔軟に進路を選択していくことが求められます。
40代:さらなる成長とキャリアの再定義
40代はキャリアの成熟期。ある程度キャリアの方向性が固まった中で、更なる成長や変革に挑む時期です。
- 経営的視点の習得
- マネージャー層であれば、部署運営だけでなく会社全体を見渡す視点を持つようにします。財務知識や経営戦略の理解など、経営陣に近い能力を身につけることでキャリアの幅が広がります。
- 後進の育成
- 自分が培った経験やノウハウを次世代に伝える役割が増えます。良き指導者・メンターとして若手を育成することもキャリア上重要なミッションです。
- イノベーションへの挑戦
- 年齢とともに安定志向になりがちですが、40代こそ新しいことに挑む意識を保ちたいものです。社内で新規事業に手を挙げてみる、専門外の知識を学ぶなど変化を恐れず行動することで、もう一段成長できる可能性があります。
- グローバルな視野
- 可能であれば海外プロジェクトや現地法人勤務など国際的な経験を積むのも良いでしょう。グローバルな視座を持つ人材は重宝されますし、自身の市場価値も高まります。
- キャリアの棚卸しと再計画
- ここまでの約20年のキャリアを振り返り、自分の達成してきたこと・不足していることを整理しましょう。その上で「このまま現職で頂点を目指すのか」「新たなキャリアに踏み出すのか」など、50代以降を見据えた再計画を練るタイミングでもあります。
40代は体力的な衰えを感じ始める一方、経験値では社内でもトップクラスになっていく年代です。培ったものを活かしつつ、停滞しないよう自ら変化を起こしていくことで、充実したキャリアの後半戦に繋げていきましょう。
50代:キャリアの集大成と次のステージ準備
50代はキャリアの集大成を迎えるとともに、その先のセカンドキャリアを準備する時期です。
- 知見の集約と伝承
- 長年の経験で培った知識や技術を体系化し、社内に伝承しましょう。教育担当や顧問的な立場で組織に貢献する機会を持つのも良いでしょう。
- 戦略的思考の深化
- 経営層に近い立場であれば、会社の将来像や業界の行方を左右する提言ができるポジションです。培った洞察力をフル活用し、組織にとって最善の戦略を考えることに力を注ぎます。
- 社外活動への参画
- 業界団体や地域社会の活動など、社外での役割を持つことで自身の見識やネットワークをさらに広げましょう。それが本業にもフィードバックされ、自身の存在価値を高めます。
- 次世代リーダーの育成
- 組織の将来を担う人材を見極め、育てることにも注力します。自らの後継者を育成するくらいの心構えで、若手・中堅に経験を積ませ成長を促しましょう。
- セカンドキャリアの設計
- 定年退職や役職定年が見えてくる年代です。その後の人生をどう過ごすか、早めに計画して動き始めることをおすすめします。社内で得たスキルを活かし顧問・講師・起業など様々な道が考えられます。健康管理もしつつ、人生100年時代の働き方を描いてください。
50代は第一のキャリアのゴールが近づく一方、今までの自分を総括しさらに社会に還元できる貴重な時期です。同時に、その先に続く人生への備えも怠りなく行い、円滑にキャリアを次章へバトンタッチできるようにしましょう。
まとめ:キャリアとは「あなたの人生そのもの」
「キャリアとは何か?」という問いに対する答えは、「あなたの人生そのもの」だと言えます。職業上の経験の積み重ねは、あなた自身を形作り、人生を豊かにする一部となります。だからこそキャリアについて主体的に考え、デザインすることが大切です。
本記事で述べたように、現代は一人ひとりがキャリアの舵を取る時代です。環境の変化に対応しながら、自分の「やりたいこと・できること・求められること」の交差点を探し続けることで、きっと充実したキャリアと人生を歩むことができるでしょう。
また、企業にとっても従業員のキャリア形成を支援することは組織の活力と成長につながります。個人と会社が協力してキャリア開発に取り組むことで、双方にとって実りある結果が得られるはずです。
今日から是非、自分のキャリアについて改めて考える時間を持ってみてください。そして可能なら周囲とキャリアの話を共有し、情報交換やサポートし合える関係を築きましょう。キャリアとは一朝一夕に成し遂げるものではなく、継続的なプロセスです。長いスパンで見据えながら、一歩一歩着実に、自分らしいキャリアを歩んでいきましょう。
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