
ヒューマンスキルとは、円滑な人間関係を築き、効果的なコミュニケーションを実現するための対人関係能力のことです。現代のビジネス環境では、専門知識や技術力だけでなく、チームワークを促進し、組織の成果を最大化するためのヒューマンスキルがますます求められています。
ヒューマンスキルの概念は、1955年にロバート・カッツが提唱した「カッツ理論」に基づいており、テクニカルスキルやコンセプチュアルスキルと並ぶ、重要な能力の一つとされています。また、コミュニケーション能力やリーダーシップ、ネゴシエーション能力、ファシリテーション能力など、具体的なスキルセットについても理解を深めることが重要です。
本記事では、ヒューマンスキルの重要性とその構成要素について詳しく解説します。
目次
ヒューマンスキルとは?
ヒューマンスキルとは、良好な人間関係を構築し、円滑なコミュニケーションを行うための対人関係能力のことです。自分の考えを相手に正確に伝え、相手の考えをより正確に理解するスキルが含まれます。
ビジネスにおいて、専門知識や技術だけでなく、「人」と関わる能力は重要です。特に、雇用の流動性が進んだ現代では、多様な価値観を持つメンバーとチームを組み、複雑な課題に取り組まなければなりません。そのために、ヒューマンスキルの重要性が高まっています。
ヒューマンスキルのもとになったカッツ理論や、他のスキルとの違いについて詳しく説明します。
もとになった「カッツ理論」について
ヒューマンスキルは、アメリカの経済学者ロバート・カッツが1955年に提唱した「カッツ理論」で体系化されました。カッツはマネジメント層に必要なスキルを次の3つに分類しました。
- テクニカルスキル
- ヒューマンスキル
- コンセプチュアルスキル
他の社員を指導し、チームで一定の目的を達成するためには、3つのスキルをバランスよく組み合わせることが重要とされます。そして、3つのスキルはマネジメント層のレベルに応じて、以下のように重要性が変化します。
- トップマネジメント(経営層):コンセプチュアルスキル
- ミドルマネジメント(中間管理職):ヒューマンスキル
- ロワーマネジメント(リーダー):テクニカルスキル
組織内で求められる役割に応じて、適切なスキルを開発する教育体制づくりが企業には求められます。ただ、ヒューマンスキルは、上記の図のようにどの層にも必要なスキルであり、共通して高めるべきスキルだといえます。
参考:Skills of an Effective Administrator│Harvard Business Review
テクニカルスキルとの違い
テクニカルスキルは、仕事のパフォーマンスに影響する手順やノウハウ、知識を指します。例えば、営業なら商品知識、経理なら会計知識、人事なら労務管理など、特定の分野に必要なスキルです。
一方で、ヒューマンスキルは、他者と関わり、チーム内で協力的な取り組みを推進する力を指します。他者の心を動かし、行動を変容させる側面を含むため、相手の理解や共感、関係構築などが重要となります。
テクニカルスキルとの違いは、対「人間」から学ぶ必要があることです。情報技術の発展により、テクニカルスキルはe-ラーニングなど他者から教わらずとも学ぶ手段はあります。ただ、ヒューマンスキルは対人関係の実践により培われる能力であり、根本的な習得方法が異なります。
コンセプチュアルスキルとの違い
コンセプチュアルスキルとは、「物事を概念的に捉え、全体像を把握する能力」です。抽象的な思考や戦略立案に関わるもので、組織全体を対象とするため主に経営層や上位管理職に必要な能力です。
一方で、ヒューマンスキルは「人との関わりにおける能力」であり、全ての階層で必要とされます。役職が上がるほどコンセプチュアルスキルの比重が増すものの、ヒューマンスキルも同時に重要だといえるでしょう。
【ヒューマンスキル一覧】8つの基本的な能力
ヒューマンスキルは単一の能力ではなく、さまざまなスキルから構成される総合的なものです。ヒューマンスキルを高めるために必要な8つのスキルについて解説します。
- コミュニケーション能力
- リーダーシップ
- ネゴシエーション能力
- ヒアリング・共感力
- プレゼンテーション能力
- コーチング力
- ファシリテーション能力
- 向上心と自己啓発意識
1.コミュニケーション能力
自分の考えを明確に伝え、相手の意見を正確に理解する双方向の対話力です。単に「話す」「聞く」だけでなく、状況や相手に応じて適切なコミュニケーション方法を選ぶ力も含みます。情報共有や対人関係構築の基盤となり、チームワークや意思決定の質を左右します。
ビジネスでは、会議での意見交換やプロジェクトにおける情報共有、顧客との商談などあらゆる場面で求められる能力です。
2.リーダーシップ
リーダーシップとは、チームを目標達成に向けて導き、メンバーの強みを引き出す能力です。指示や命令だけでなく、メンバーの自発性を発揮させ、チームとして成果を生み出す力を含みます。
特に、近年ではトップダウン型のリーダーシップだけでなく、サーバント(奉仕)型やコーチング型など、多様なスタイルの使い分けが重要です。指導型のスタイルに加え、社員が自由に創造性を発揮できる環境を形成することで、組織の活性化や生産性向上につながります。
3.ネゴシエーション能力
利害関係や相反する立場を理解し、Win-Winの関係を構築する交渉力を指します。単に自分の意見を押し通すのではなく、互いにとってベターな解決策を見いだす能力です。
ビジネスでは、さまざまな利害関係が交錯するため、納得できる合意形成が難しい場合があります。例えば、経営層が働き方改革として「残業時間の削減」を進めるとき、現場の社員は同じ業務量を短い時間でこさなければなりません。利害が対立する際に、管理職として経営層の方針に従いつつも、現場の意見も伝える交渉力が必要です。
4.ヒアリング・共感力
相手の話に耳を傾け、意図や感情を察知する能力がヒアリング・共感力です。多様な価値観を持つメンバーが増えるビジネス環境では、相手のニーズを正確に理解し、信頼関係を築く力が求められています。
相手への共感に重要なのは、表面的な理解にとどまらず、相手の「真の意図」に気づこうとする姿勢です。チームメンバーの感情の機微に気づき、フォローするように言葉がけをするリーダーが必要です。
5.プレゼンテーション能力
プレゼンテーション能力とは、相手の理解度や関心に合わせて情報を構成し、伝える力です。
例えば、取引先へのプレゼンテーションだと、顧客の課題への共感や解決策の根拠を持たせた提示などが挙げられます。
優れたアイデアや解決策があっても、相手に伝わらなければ価値が半減してしまうでしょう。特に、情報過多な現代では、簡潔で印象に残る伝え方が相手の行動を促すため、必要不可欠なスキルといえます。
6.コーチング力
相手の潜在能力を引き出し、自発的な成長を促すのがコーチング能力です。テクニカルスキルを教える「ティーチング」のように一方向的なものでなく、相手が自力で解決策を見つけられるようサポートします。
例えば、部下の「仕事とプライベートのバランスが取れない」という悩みに対し、以下のような点で考えるよう促します。
- 目標設定:理想の働き方とは何か?仕事以外で実現したいことは?
- 現状分析:優先順位の付け方、現在の業務内容と時間
- 行動設定:業務の効率化、オフの時間確保と活用の仕方
すぐに答えを与えるのではなく、まず目標を一緒に設定し、そのために何をすればよいかを考えるように質問を繰り返します。主体性を引き出し、自発的に問題解決できる力を育むため、部下の長期的な成長に重要なスキルです。
7.ファシリテーション能力
会議や議論を効果的に進め、全員の参加と建設的な議論を促す能力です。議論の方向性を調整しながら、多様な意見を引き出し、合意形成に導く力を指します。例えば、発言の少ないメンバーに意見を求めたり、決定事項と次のアクションを明示したりするなどのスキルです。
近年では、働き方改革の影響による会議時間の削減から、効率的な合意形成ができるファシリテーターの必要性が高まっています。チーム一丸となって進んでいくためには、ファシリテーターの存在が欠かせません。
8.向上心と自己啓発意識
自己成長に対する強い意欲と継続的な学習姿勢も、ヒューマンスキルには欠かせません。変化の激しい現代では、現状に満足せず、新しいことを学び自分を高めようとする姿勢が重要です。
また、自発的に学ぼうとする姿勢は、周囲の社員にもよい影響をもたらします。自身の成功体験や経験則にもとづく教育ではなく、積極的に学ぼうとする管理職の姿は、部下の意欲を高めるでしょう。
ヒューマンスキルを高めるメリット
ヒューマンスキルを高めるメリットとして、以下の3つが挙げられます。
- 組織のパフォーマンス向上
- 人材価値の最大化
- 時代に合わせた企業文化の進化
1.組織のパフォーマンス向上
ヒューマンスキルの向上は、業務効率と生産性向上につながります。円滑なコミュニケーションによって情報共有が活発になり、意思決定がスムーズになるためです。具体的には、以下のような変化が期待できます。
- 会議時間の短縮と意思決定の迅速化
- プロジェクト完遂率の向上
- チーム内の対立減少による業務効率化
- 顧客対応の質向上による売上増加
「会議がだらだら続く」「部門間の連携が不足している」などの組織課題に直面している場合、ヒューマンスキルを高めることが有効でしょう。
2.人材価値の最大化
高いヒューマンスキルを持ったマネジメント層が増えると、部下とのコミュニケーションの質が向上します。業務では表面化しない適性や能力を把握でき、個々の素質に応じた人材戦略を行いやすくなります。
また、社員は個性を生かした仕事をしやすくなるため、エンゲージメントが高まるでしょう。その結果、人材が定着しやすくなり、優秀な人材の流出を防げます。
3.時代に合わせた企業文化の進化
社員のヒューマンスキルが向上することで、相手の立場で考えられる人が増え、異なる意見も受容しやすくなるでしょう。その結果、失敗や否定を恐れずにアイデアを提案できる企業文化が構築されます。既存の文化にとらわれず、変化に強い創造的な組織づくりにつながります。
ヒューマンスキルを高めるトレーニング
ヒューマンスキルは生まれつきのものではなく、トレーニングにより開発可能とされています。社員を対象に実施できる3つのトレーニング方法を紹介します。
- 研修やワークショップへの参加
- アクティビティを通した学習
- 1on1ミーティング
1.研修やワークショップへの参加
体系的なプログラムを通して、理論と実践を学べる方法です。座学で知識を学び、ロールプレイにより自らの振る舞いについてフィードバックを得られます。また、他の参加者との相互学習で、多様な視点や考え方に触れられます。
研修例①:コミュニケーション研修
社内でのコミュニケーションを正しく行うため、話し方や言葉の選び方、傾聴方法などについて学びます。質問スキルを高めることで認識のズレが少なくなったり、情報共有が増えてミスを防止できたりするなどの効果があるでしょう。
【具体的なテーマ】
- 効果的な質問方法
- 非言語的コミュニケーションの大切さ(表情、しぐさ、声のトーンなど)
- アサーション(相手を配慮しつつ自己主張する方法)
- 1on1ミーティングの進め方
- オンラインでのコミュニケーション
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研修例②:リーダーシップ研修
リーダーシップ研修では、多様なリーダーシップスタイルを学び、状況に応じて最適なスタイルを用いる判断力を養えます。実務に近い問題解決を行うグループワークで、チームに合わせてスタイルを変える柔軟性も身に付けられます。
【具体的なテーマ】
- 状況別のリーダーシップ理論
- 自分のリーダーシップスタイルの分析
- チーム運営のグループワークを通した体験
- フィードバックによる自分の強み・弱みの理解
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研修例③:プレゼンテーション研修
プレゼンテーション研修では、資料作成と伝え方を座学やロールプレイを通して学びます。講師からのフィードバックだけでなく、受講者同士で相互に意見を言い合うことで、自己理解を深められます。
【具体的なテーマ】
- 資料構成の組み方
- ビジュアル資料の作成方法
- プレゼンテーションのロールプレイ
- 講師によるフィードバック
- 営業方法に関する知識
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2.アクティビティを通した学習
社内イベントでのアクティビティなど、実践的な活動を通じてヒューマンスキルを身に付ける方法です。実践的な体験学習は、知識の定着と応用力向上につながるため、研修で学んだ理論を生かす場として効果的でしょう。
具体的には、ロールプレイやビジネスゲーム、模擬交渉などを行います。実際の業務シーンを想定したシミュレーションを行うことで、実務的な課題に対応する力が身につきます。「座学だけでは退屈しそう」という研修を行う場合、エッセンスとして取り入れるとよいでしょう。
3.1on1ミーティング
部下との1on1ミーティングは、マネジメント層にとってヒューマンスキルを高める実践の場として活用できます。研修やアクティビティを通して学んだことを実践し、コーチングやヒアリング能力の向上がはかれます。
また、話をする部下も、上司のコミュニケーションスキルを体感し、学びにつなげられます。ヒューマンスキルの実践の場として、さらに部下への継承の場としても、1on1ミーティングを活用できるでしょう。
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ヒューマンスキルを高めるための姿勢
ヒューマンスキルは具体的なテクニックだけでなく、根底にある姿勢が重要です。知識やテクニックの習得に加え、マネージャーとしてあるべき姿勢を身に付けることで、真の意味でのスキル向上がはかれるでしょう。ヒューマンスキルを高めるために大切な3つの姿勢を紹介します。
- 相手に積極的な関心を持つ
- 多様な価値観を理解する
- 自分の弱点や限界を理解する
1.相手に積極的な関心を持つ
「積極的な関心」とは、相手の話を最後まで聞き、気持ちを理解しようとする姿勢です。人は自分に関心を持ってくれる人に対して心を開きます。そのため、関心のなさを感じると、必要最低限の情報しか共有しなくなり、信頼関係の構築が難しくなるでしょう。
積極的な関心を示すには、質問や相づちを増やしたり、目を見て話を聞く習慣を付けたりするなど、傾聴スキルを意識しましょう。「相手のことを知りたい」という積極的な関心を持ち、具体的な行動で示すことが大切です。
2.多様な価値観を理解する
異なる背景や経験を持つ人たちの視点を尊重する寛容さは、ヒューマンスキルの向上に重要です。この姿勢が欠けると、固定観念や先入観にとらわれ、多様な価値観を持つメンバーとの協力が難しくなるでしょう。
多様な価値観を理解するには、認識の幅を広げることが大切です。自分と異なる意見に触れる機会を意識的に設け、「なぜそのように考えるのか」と相手の立場で考える習慣を付けるとよいでしょう。
3.自分の弱点や限界を理解する
自分の弱点や限界を受け入れて、失敗や批判も成長の糧とする向上心がヒューマンスキルには重要です。
自分の弱みを認められないと、いざ部下から意見されたときに反発してしまいがちです。自分の成功体験にこだわり、相手を否定すると、オープンなコミュニケーションの妨げになります。
自分の弱みも含めて理解し、部下の意見からも積極的に学ぼうとする姿勢が、信頼関係構築には重要といえるでしょう。
まとめ
ヒューマンスキルは、あらゆるビジネスシーンで必要とされる対人関係能力であり、組織の生産性向上や円滑なチームワークに欠かせない要素です。特に、雇用の流動化や多様な価値観を持つ人々との協働が求められる現代では、専門的なスキルと並行してヒューマンスキルを高めることが重要視されています。
本記事では、ヒューマンスキルの定義やカッツ理論に基づく分類、テクニカルスキルやコンセプチュアルスキルとの違いを詳しく解説しました。また、ヒューマンスキルを構成する具体的な能力や、それを高めるためのトレーニング方法についても紹介しました。
ヒューマンスキルは、一朝一夕で身につくものではなく、継続的な学習と実践が求められます。研修や1on1ミーティングなどを活用し、日々の業務の中で意識的にスキルを磨くことが大切です。個々の成長が組織の成長につながるため、ヒューマンスキル向上に取り組むことで、より良い職場環境と高い成果を実現していきましょう。