キャリアビジョンは、個人が将来的に実現したい自己像を描くための重要な要素です。
仕事や生活の各方面での理想を明確にすることで、具体的な目標設定が容易となり、モチベーションの源となるだけでなく、適切な機会を見極めるための指標としても機能します。
この記事では、キャリアビジョンの意味とその重要性、さらにはキャリアプランやキャリアデザインといった関連概念との違いについて詳しく解説します。
キャリアの自己実現に向けて、どのようにビジョンを描き、具体的な行動計画を立てるかのヒントを提案いたします。
目次
キャリアビジョンの意味とは?
キャリアビジョンとは、将来なりたい理想像を指す言葉です。仕事に限らず、ライフイベントやプライベート、生き方などの幅広い視点から、なりたい自己像を描くものです。どのような方向性で進んでいきたいかを示す指標であるため、実現可能性を考慮する必要はありません。
明確なキャリアビジョンを持つことで、理想とする方向へスキルアップをするというように、具体的な目標を立てやすくなります。具体的な目標が明確になることで、モチベーションの向上にもつながるでしょう。
類似する概念との違い
キャリアビジョンに類似した概念は、以下のように複数存在しています。それぞれの違いを理解して、正しく使い分けましょう。
意味 | 具体例 | |
---|---|---|
キャリアビジョン | キャリアの理想像 | 部下に頼られる上司になりたい |
キャリアプラン | 具体的な目標や行動計画 | 資格取得やコミュニケーションスキルの向上ができるよう毎日勉強をする |
キャリアデザイン | キャリアを主体的に設計すること | 3年後に資格取得、5年後にマネージャー昇格を目指す |
キャリアパス | 特定のキャリアを得るまでのプロセス | 管理職への昇格に必要なスキル、資格、職務経験 |
キャリアプラン
キャリアプランとは、キャリアビジョンに基づく具体的な行動計画を指します。なりたい将来像のために必要な経験や知識、スキルを理解し、その実現に向けて具体的な行動を考えることです。
例えば、「部下から頼られる上司になりたい」というキャリアビジョンであれば、以下のようなキャリアプランが考えられるでしょう。
- 実務面で頼られる存在になるために資格取得やスキル獲得に励む
- 周囲の変化に気づける観察力を身に付ける
- 下に対するコミュニケーションスキルを身に付ける
具体的な目標や行動計画に落とし込んだものがキャリアプランであり、その計画にはキャリアビジョンを考えることが必要です。
キャリアデザイン
キャリアデザインとは、キャリアプランを計画することを指します。キャリアプランをいつまでに実行するか、どのように実現していくかを、主体的に設計していくことです。例えば、「3年後に資格取得」「5年後までに昇格を目指す」などといった中長期的な計画が該当します。
また、中長期的な計画を考える上では、結婚や出産などのライフイベントを考慮して計画を立てます。例えば、「30歳までに結婚したいので、それまではスキル獲得に専念する」と、プライベート面も含めた計画が必要です。
中長期的かつ総合的な視点でキャリア形成を考えるのが、キャリアデザインだといえるでしょう。
キャリアデザインについての詳しい解説は以下の記事をご参照ください。
キャリアパス
キャリアパスは、企業内で一定のポジションを得るための道筋を指します。部長や課長、主任など、特定の役職に必要なスキルや知識を示したものです。また、どのような人事制度の中でキャリアを形成し、昇進していくかといった大まかな見通しを指すことがあります。
企業が社員に求める一定の基準を指す言葉であるため、社員個人が持つ理想を重視するキャリアビジョンとは異なります。キャリアビジョンは主体的である一方で、キャリアパスは企業側から与えられる受動的な意味であるという違いがあるでしょう。
キャリアビジョンが重要視される理由
キャリアに関する概念は複数ある中で、キャリアビジョンの重要性は近年高まっています。企業が社員のキャリアビジョンの形成支援を行うことが重要なのは、どのような理由からなのでしょうか。
変化に強い自律型人材を育てるため
社員自らキャリアビジョンについて考えることは、変化に強い自律型人材を育てることにつながります。現代においては、働き方の多様化やIT技術の進歩など、時代の激しい変化に対応できる人材が求められます。受け身ではなく主体的に考えて行動できる人材が必要です。
キャリアビジョンを明確に持った社員は目的意識が強く向上心のある人材といえます。変化に対応するために自学自習し、おのずと成長しやすいでしょう。
社員のキャリアビジョン形成を支援することで、自律型の人材を育て、変化に強い企業へと成長できます。
優秀な人材の流出を防ぐため
社員のキャリアビジョンに合わせた人材育成に取り組むことで、優秀な人材の流出を防げるでしょう。
現代では、少子高齢化による労働力人口の減少が懸念されており、企業においても、人手不足が進行する可能性があります。人材の流出を防ぐことが、安定的な経営には不可欠です。
一方で、終身雇用制度が崩壊し、転職を前提としたキャリアプランが一般的となりつつあります。特に、優秀な人材ほど転職によってキャリアアップする意欲が高いでしょう。そのため、自社ではキャリアビジョンが果たせないと判断されると転職されてしまう可能性があります。
優秀な人材の流出を防ぐためにも、社員一人ひとりが思い描くキャリアプランが実現できるような支援が必要です。
社員のモチベーションと生産性を向上させるため
キャリアビジョンの形成支援を行うことで、社員の仕事へのモチベーションと生産性を向上させる効果があるでしょう。
キャリアビジョンが具体化されると、社員が今取り組んでいる仕事に対して意味を見いだせるようになります。例えば、「この業務はコミュニケーションスキルの高いリーダーになるために必要」と感じると、モチベーションが高まるでしょう。
また、「自分がどのように仕事をしたいか」という価値観が明確になることで、これまで以上に仕事を工夫できるようになります。例えば、「顧客にとって話しやすい担当者でいたい」というビジョンがあれば、そのために最適な応対を考えるようになるでしょう。
社員一人ひとりがキャリアビジョンを持てると、仕事へのモチベーションを高められます。ビジョンに沿った創意工夫が生まれ、生産性やサービスの質の向上につながるでしょう。
キャリアビジョンの形成を支援する取組
自律的に考えられる優秀な人材を育成し、仕事の生産性を高めるために、キャリアビジョンの形成が必要です。企業として、社員のキャリアビジョン形成を支援するためには、どのような取組を行うとよいのでしょうか。
キャリアに関する情報発信
社内報や人事部発信のリリースなどを通して、キャリアに関する情報発信を行っていく取組が有効です。企業内における働き方や、キャリアパスを伝え、自社で達成可能なキャリアを社員全員が理解できるように発信します。
特に、部署の仕事が手一杯でキャリア形成に意識が向きにくい新入社員や若手社員に対して、積極的に発信することが大切です。新入社員研修や20代社員向けの研修の中で、キャリアビジョンについて伝えられる機会を提供できるとよいでしょう。
キャリア面談の実施
社員がキャリア形成のイメージや目標、達成のための行動計画を立てられるよう、キャリア面談を行う取組も重要です。
管理職や直属の上司が面談を行い、社員自らキャリアについて計画し、その進捗を継続的にフォローアップしていくとよいでしょう。管理職で行うのが難しい場合、メンター制度の導入やコーチングを外注するという方法もあります。
キャリア面談では、社員本人の話を否定せずに受け止める傾聴姿勢が最も大切です。社員の考えや価値観を肯定することで、主体的に考え、納得感を持ってキャリアに関する決定や行動を行えます。企業が求めるキャリアだけでなく、従業員個人に寄り添う姿勢が求められます。
人事制度の見直し
社員一人ひとりが描く多様なキャリアビジョンやニーズに合わせ、人事制度の見直しが必要な場合があるでしょう。キャリアビジョンを実現できるよう、自己申告制による異動や、社内インターン制度、フレックス勤務など、柔軟な働き方を支援する体制が求められます。
社員がさまざまな選択ができるよう、会社として仕組みを整えておくと、社員も自由にキャリアビジョンを描きやすくなるでしょう。
キャリアビジョンを描く2つのステップ
将来像を明確にすることで、仕事のやりがいを向上させるキャリアビジョンですが、具体的にどのようにして考えればよいのでしょうか。
ステップ1:キャリアの棚卸しと自己分析
キャリアビジョンを明確化するために必要なのは、過去の経験の振り返りです。学歴や職歴、経験した業務、スキルなどを書き出し、キャリアの棚卸しを行うとよいでしょう。
特に、これまでの人生において「譲れない部分」を明確にすることが大切です。例えば、「仕事よりもプライベートを優先したい」「困っている人を放っておけない」などの価値観です。
過去の体験を整理し、「自分ができること」や「優先する価値観」を振り返り、自己分析を深めます。自己分析からわかったことを今後のキャリアビジョンを立てていくために活用します。
ステップ2:目標設定と行動計画
次に、譲れない部分を基準にしながら、目標を明確化していきます。目標がイメージしづらい場合、以下のようなポイントで考えてみるとよいでしょう。
- 上司や先輩社員などロールモデルを探す
- どのようなスキル、特性を持っている社員が魅力かを考える
- 「○○のようになりたくない」という反面教師から逆算する
- 「35歳までに結婚し、一定の給料を得たい」などライフイベントから考える
目標や理想像が具体化されれば、次は実現のための行動計画を立てます。行動計画は、「何を実行するか」よりも、「どのように実行するか」を重視するとより精度の高い計画ができます。
例えば、「社内でトップセールスを目指したい」というキャリアビジョンを描いた場合、目指し方にはいくつか方法があるでしょう。「周囲を巻き込みながら目指す」「独自のスキルを磨く」などアプローチはさまざまです。
自分の長所や重要視する価値観に基づいて、アプローチ方法を決定していくと、個人に合ったキャリアビジョンを描けるでしょう。
キャリアビジョンのための企業研修例
社員一人ひとりがキャリアビジョンを描けるよう支援するには、企業としてどのような研修を行うと効果的なのでしょうか。キャリア形成は、人生を通して考えていく課題です。そのため、ライフイベントを考慮し年代別に研修を行うとよいでしょう。
キャリアビジョン研修を効果的に行うためのポイントと、各年代や対象別の研修例を解説します。
新入社員・20代
新入社員や若手社員は、新しい環境への適応が難しかったり、役割が不明確であったりすることで、不安を抱えやすいでしょう。また、キャリアの方向性が明確でなく、スキルや知識も不足しているため、キャリアアップの方法がわからないことが特徴です。
自分自身が成し遂げたい理想を明確化し、その実現に対して必要な行動を考える機会が必要といえます。そのためには、Will・Can・Mustという3つの視点を明確化できるようなワークがおすすめです。
「Will・Can・Must」とは、株式会社リクルートで行われている目標管理のためのフレームワークです。実現したいこと(Will)、実現に生かせる長所や課題(Can)、組織の中で必要なミッション(Must)を明らかにします。
研修で紹介した上で、日頃の業務の中で上司と達成状況の進捗確認ができるため、コミュニケーションツールとしても有効です。
参考:【Will-Can-Mustシート】リクルートの活用事例~メンバーの本当に実現したいことを対話する方法 | 株式会社リクルート
30代の中堅社員
30代になると、順調に経験を積み、一般社員からリーダーとしての役割を求められるようになります。また、結婚して家庭を持つ年代であるため、家庭と仕事のバランスを見直す時期です。役割の変化をとらえ、キャリアビジョンを考え直せるような取組が求められます。
役割の変化を加味してキャリアプランを考えていく際に役立つのが、「ライフ・キャリアレインボー」というキャリア理論です。人生における役割を労働者、親、配偶者、家庭人など8つに分けて、役割のバランスをどのように取っていくかを考えます。
以下のように、限られた時間の中で、どういった割合でそれぞれの役割を果たしていくかを考えていきます。仕事だけではなく、プライベートを含めたキャリア形成を支援するために効果的な方法です。
40~50代のベテラン社員
40代以降は、一般的にキャリア形成が落ち着き、頭打ち感から意欲が低下することがあります。自身の強みや特性を把握し、組織において自分らしさを発揮するにはどうすればいいかを研修で考えられるとよいでしょう。
50代以降は、役職定年や定年後の再雇用などを契機として一般社員に戻ることや、培ってきた専門性をどのように生かすかが課題です。シニア期に望ましい働き方や、キャリアの転換に向けた行動計画をサポートするような研修を行うとよいでしょう。
具体的には、以下のようなシートを用いて自分自身の強みや職務経験を棚卸しし、今後の働き方を考える研修がおすすめです。
引用:人材後半戦のライフ・キャリアシート(在職者用)│厚生労働省
参照:シニア人材の活用についてはこちらの記事もご参照ください
シニア人材とは - 活用のコツと雇用する際の注意点
管理職やリーダー層
管理職やリーダー層に対しては、社員のキャリア相談を行うための研修を実施するとよいでしょう。キャリア理論に関する内容や、共感や傾聴などのスキルなど、社員がキャリアビジョン形成を支援できる人材育成を行います。
社員に寄り添ったキャリア相談を行える人材を育成するには、知識や技術面だけでなく、意識にもアプローチする必要があります。例えば、「上司はリーダーとして厳しく接しなければいけない」という理想を持った管理職が、傾聴スキルを習得してもあまり意味がありません。
目指したいリーダー像を思い描けるよう、管理職自身にもキャリアビジョンを再考する研修を取り入れてみましょう。
キャリアデザイン研修の実施
この記事では、キャリアビジョンの意義とそれを支える概念―キャリアプラン、キャリアデザイン、キャリアパス―の違いと関連性について説明しました。また、企業が如何にして社員のキャリアビジョン形成を支援し、その過程でモチベーションと生産性を向上させるかについても言及しました。
キャリアビジョンを更に深く理解し実現するための手段として、キャリアデザイン研修が有効です。この研修を通じて、個人の将来像を明確にし、それに必要なスキルや経験を具体的に計画することができます。
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