私が5ツ星ホテル在籍中に受講した5つの学び

正確な言葉遣いを学ぶ
日本語は世界でも特に難しい言語だと言われています。普通会話に加えて、丁寧語、尊敬語、謙譲語があるからです。そのような国は世界でも非常に珍しく、また残念ながら全てを完璧に使いこなせる日本人はごく稀です。
普段から意識して勉強をしているホテルスタッフでさえも、実際にプロの講師から正確な言葉遣いを学ぶと、いかに自分が勘違いした言葉を使用していたのかを自覚させられ、一皮剥ける感覚を味わうことができます。
例えば、「こちらの方~」などのいわゆる方角を指す「方言葉」です。
方言葉は別名、詐欺言葉と言われ、特に一流の接遇が求められるサービス業界に属している人は使用してはならないと教えられます。
また、ついつい語彙の間に何気なく使っていた「えー、」などの不用な音を無自覚に発言する癖など、慣れ親しみ染み付いた口癖の感覚を矯正するまでは、何ともむず痒い思いをしました。
講習では東京と大阪など、地方によっても言葉遣いの微妙な意味合いや、使い方が異なる場合があり、方言1つで相手が不愉快になる言葉なども豆知識として教わります。
VIPなどの社会的地位の高い人々や、高齢者はこうした言葉遣いをきちんと理解している場合が多い実情もあります。
そのため、お客様との信頼関係の構築には正確な言葉遣いが基本中の基本なのです。
この研修は接客業に関わらず、全ての社会人が行う必要性が高いと言えます。
上座、下座について学ぶ
レストランなどの席、車の中、エレベーターの中など、あらゆる場所において上座、下座というポジションが存在します。特に目上の人や、取引先の人には礼を失する事の無いように、それぞれの位置を明確に理解することが大切です。
この上座下座は世界共通ルールではなく、代表的な各国のポジショニングも合わせて覚えておく必要があります。
ホテル研修では、徹底してこれらの上座、下座について学びます。どんなシチュエーションでも自信を持ってお客様をご案内、フォローできるスキルはお客様からの信頼を得ることができます。
顧客対応時はもちろん、社内でもさまざまなシーンで必要なマナーですから、一般企業においてもこの知識は重要です。
テーブルマナーを学ぶ
ホテルでは特に料飲部、宴会部で実際にお客様にテーブルマナーを尋ねられる場面があります。お客様が安心してお食事を楽しめるように、フォローできる知識を持ち合わせておく必要があるのです。また、一般企業でも接待などで、お客様と共に食事をする機会もあるでしょう。食べ方でその人の”人となりが分かる”とさえ言われるのがテーブルマナーです。日本は特に和洋両方のマナーを覚える必要があります。
テーブルマナーも全てが世界共通ではないので、プロの講師の解説で、海外でのマナー違反の知識を深めることができます。
フォークとナイフの洗練された使い方、箸で綺麗に魚を食べる方法など、実際に体験しながら身に着けることは、自分自身のプライベートにおいても非常に大切で意味のある研修となります。
姿勢や立ち振る舞いを学ぶ
ホテルでは、必ず背筋を伸ばしたまま腰から折り曲げていく、美しいお辞儀の挨拶を行います。航空業界やデパートなどでも同様なお辞儀の接遇をしますが、プロの講師からは更にお辞儀の角度の意味やフォームの修正を学びます。お辞儀の他にも美しい飲み物の出し方、ペンの渡し方などを徹底して指導されます。
例えば企業においても美しい姿勢での挨拶は勿論、謝罪の場面では完璧なお辞儀姿勢を行う事で、謝意の気持ちが相手に伝わり易く、先方の気持ちが和らぐ効果があるので、是非カリキュラムに取り入れてほしいメニューの1つです。
伝達の研修
マナー研修の合間に気分転換を兼ねて行ったのが、伝達の研修です。10人程が長い文章をどれだけ正確に連絡し、伝え合う事が出来るかの伝達リレーをしました。意外と伝わらないのだな、という感覚や、何に気を付ければ上手く伝わるのかなどを工夫して行いました。
この研修メニューでは、どのように報告をすれば効率的に人に伝わるのか、気分を害さず伝えられるのかを学びました。伝え方は、お客様への対応はもちろん、上司と部下の信頼関係の構築や職場の人間関係にも影響してくるスキルですね。
海外で受講した研修

筆者が日本のホテル業界を離れて、オーストラリアに留学した学校で受講した研修をご紹介します。
FIRST AID研修
筆者が留学したオーストラリアの学校では、必須授業に「ファーストエイド」の入門取得研修がありました。オーストラリアでは医療関係は勿論、多くの人が集まるホテル、デパートなどの接客業や、マッサージ関係、スポーツ関係の施設の従事者、一般企業の責任者はファーストエイドの講習を受ける必要があります。
各消防署で行われる講習はかなり本格的な内容で実施されていました。AEDの使用方法、人工呼吸法など日本では運転免許取得の際に必要となりますが、更に
- 乳幼児の人工呼吸方法
- 骨折した人の接ぎ木の利用方法
- 肺が片方潰れた人の身体のポジショニングの方法
- 非常事態が発生した際の正しい退避行動
- 自然の中で毒虫に刺された場合の処置の知識
など、初級講座でもハイレベルな方法の内容の授業が行われます。
直接マナー研修とは関係がない様に思われますが、自分の身とお客様や他人の身を最低限救急隊が来るまで守るという、奉仕の心を養う事が出来る研修が、日本社会でも広く行われたら良いなと思います。
ディスカッション研修
海外ではにディスカッション研修が盛んに取り入れられています。筆者が受けたものは、8人程のグループで紙を渡されて、立体タワーを出来るだけ高く作る方法を考える指令が出たり、民間の裁判員制度について各班でメリットデメリットを発表する等の内容でした。
メンバー全員が対等に相談しながら真剣に討論し、制限時間がそれぞれ15分と区切られた中で、より優秀な班にはポイントが加算されて評価されました。
これもマナー研修と直接関係が無いように見えますが、設定を「社員対お客様」や「ご主人様対メイド」にして、正しい敬語や丁寧な立ち振る舞いが行えているかを、実践トレーニングとして応用し他人とのコミュニケーション対応能力が養えたりなど、マナーの総復習に最適でおすすめです。
ジェスチャーの研修
これは実際に研修として行った訳ではなく、多民族国家のオーストラリアで各国の友人から教わり、是非メニューに取り入れるべき内容だと痛感した研修です。ハンドジェスチャーや身振り手振りで、全然意味が違うケースが世界には沢山あります。これは間違いを犯すと、時として命に関わるトラブルに巻き込まれる場合もあります。
代表的なものだけでも良いので、グローバル化が進む日本において、海外出張先や訪日外国人と意図せぬトラブルにならないように研修メニューの1つにあれば良いと思いました。
ホテル業界向けの研修はホスピタリティの体得に有効です。ホスピタリティを習得する事は、さまざまな相手の立場を思いやり、おもてなしの心を身に着け、さまざまなハラスメントの解消にも繋がります。