学生時代、必死に勉強をして覚えたのに試験が終わったらほとんど覚えていない。
社会人になってからは、研修内容をすぐに忘れてしまったなど、記憶力に自信がないと感じたことはありませんか?
記憶はほんの少しのコツを知っていると簡単に呼び戻し、しっかり自分のものにすることができます。
ここでは、忘却曲線から知識を定着させるポイントを解説しています。せっかくの学びを無駄にしないように、ぜひ実践してみてください。
目次
研修後における課題
職場で年に何度か研修を受ける機会があると思いますが、研修後に課題を感じている教育担当者や参加者は多いものです。
学んだことを忘れてしまう
研修を受けている時はとても集中できて、とても良い学びになったと感じていたのに、数日後にはあまり覚えていないということがあります。
研修中の感動した気持ちや楽しかった記憶はあるのに、肝心の内容を思い出せないとなると、なんのために研修に参加したのかわからなくなりますね。
しかし、日を追うごとに忘れてしまうのは、人間の脳の機能上仕方のないことなのです。とはいえ、覚えていないと研修をやった意味がなくなってしまいます。
忘れてしまっていると実践もできませんし、どうしたら忘れないでいられるかは、研修に携わる全員の課題です。
アフターフォローが十分ではない
研修内容を定着させるには、研修後のフォローが不可欠です。
研修をしただけで内容を理解し、実践できる人はそれほど多くありません。内容を忘れてしまうこともありますし、実践している途中で迷うことも出てきます。
適切な時期に適切なフォローをすることで、記憶の呼び起こしと確認、今後の方向性がわかりやすくなります。
参加者全体にアフターフォローまでしようとすると、調整がつかなかったり、研修から時間が空きすぎたり、フォロー回数が少なかったりなど、思うようにできず、結局各部署や個人に任せてしまうことが多くなるのが現実です。
エビングハウスの忘却曲線と記憶の関係性
一度覚えたことを思い出すのは、簡単だと思いますか?それとも難しいと思いますか?実は学んでからある一定期間であれば、簡単に思い出すことができます。
それを実験で明確にしたのが、“エビングハウスの忘却曲線”です。
エビングハウスの実験
ドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウスは、記憶の研究と実験をおこない忘却曲線を発見しました。
実験工程
- 『baj』『mig』『lez』などの「子音・母音・子音」からなる意味を持たないアルファベットの組み合わせを2,000以上作りました。日本語でいうと、『ばあふ』『むいず』『ねおず』というような言葉です。
- 作ったものの中から13個を無作為に選び、一定のリズムで暗唱して(または書いて)覚えます。
- 13個を1セットとし、8セットを覚えます。全部暗記するまで何度も繰り返し暗唱(または書く)します。
- すべて覚えたら時間をおいて再学習し、再度覚えなおすまでどのくらいの時間を要したかを記録します。
実験結果
最初に覚えてから再学習までの時間を20分後、1時間後、9時間後、1日後、2日後、6日後、1か月後の7パターンとしました。
結果は次のようになりました。
再学習した時間 | 節約率 |
---|---|
20分後 | 約58% |
1時間後 | 約44% |
9時間後 | 約35% |
1日後 | 約34% |
2日後 | 約27% |
6日後 | 約25% |
1か月後 | 約21% |
20分後の数字が最も高く、だんだんと減少するのがわかります。2日後から1か月後までは20%台と、それほど差がないこともおわかりになると思います。
このことから、一度覚えたことはなるべく早く、できればその日のうちに復習をするのが良いのです。
節約率
ここで聞きなれない言葉『節約率』の説明をしましょう。
節約率は、最初に覚えたことを再度覚えなおすために、どのくらいの時間を節約できたかの割合のことをいいます。
「節約率」=「節約された時間または回数」÷「最初に要した時間または回数」
の公式に当てはめて計算します。
13個のアルファベットを覚えるのに10分かかったとします。20分後に再度覚えなおした時は4分で覚えられたとしたら、最初よりも6分時間が短縮されたことになります。
この時の節約率は
6(分)÷10(分)=0.6
60%時間を節約できたことになります。
このように節約率は、どのくらい時間を節約して学習できたかを表すものです。
実験結果からは、最初に学習してから20分後であれば覚えなおすのに時間を58%節約でき、1か月後では21%しか節約できないということがわかります。
エビングハウスの忘却曲線の注意点
ここで誤解のないようにしていただきたいのは、忘却曲線という名がついているため、忘れる度合いを表していると捉えてしまうかもしれません。
忘れやすさではなく、再勉強した時の時間の節約度合い、最初よりもどのくらい時間を使わずに勉強できるかということです。
そして、この実験で使われたものは意味の持たないアルファベットの羅列です。意味を持つ言葉の場合はこの結果と同じにはならない可能性が高いと考えられます。
忘却曲線から知る、学習効果を上げる復習方法とタイミング
エビングハウスの忘却曲線の結果から、学んだことを早期に復習をする、特に1日以内に見直しをすると良いことが明確です。2日以降になると、覚えなおすことにやや時間がかかります。
では、具体的にどうすると良いのでしょうか。
短時間の復習を繰り返す
復習をするタイミングとしては、当日と翌日がカギになります。1日以内であれば短時間で学習内容を思い出し記憶することが可能です。
2日以降におこなう場合は、1週間ごとの復習でもかかる時間はそれほど変わりません。
カナダにあるウォータールー大学では、復習のタイミングについての実験がおこなわれました。
その結果によると、24時間以内に10分、1週間以内に5分、1ヶ月以内に2~4分の復習時間を作るだけで、最初に勉強をした時とそれほど変わらない記憶を保つことができるとなりました。
このことからも、研修等で学んだ内容は1日以内にすることが大切だということがわかります。
アウトプットを心がける
エビングハウスの実験では暗唱や書くことでの覚えなおしをおこないましたが、どのような形でも繰り返しアウトプットすることで記憶は保ちやすくなります。
記憶を司る脳の海馬は、何度も使う言葉を大事なものと認識します。そのため繰り返すことが重要なのです。
ひとりで復習をするのも良いですが、できれば複数で声に出して確認し合ったり、教えあったりすると学んだことがインプットされ定着します。
研修の効果を上げるには復習あるのみ
子供の頃、学校や親に「何度もやりなさい」と言われたことがあると思います。当時はめんどくさいと感じたかもしれませんし、大人は同じことしか言わないと思ったかもしれません。
しかし、エビングハウスの忘却曲線やウォータールー大学の実験結果からも、記憶を留めておくには繰り返しおこなうことが大切だと明確になっています。
研修後は見直す時間を作り、学習した事を定着する習慣をつけましょう。