アカハラの構造的要因と、組織として取るべき防止策を整理した記事です。
アカデミックハラスメント(アカハラ)は、教授と学生、指導教員と研究員など、学術機関特有の上下関係を背景に発生するハラスメントです。民間企業型のパワハラと異なり、人間関係を断ち切りにくい構造があるため、被害が深刻化しやすいという特徴があります。
この記事でわかること
- アカハラの定義と、似た概念との関係
- 指導とハラスメントを分ける判断軸
- アカハラがなくならない3つの構造的要因
- 雇用者が押さえておくべき法的枠組み
- 被害者の対処法と、組織として講じるべき防止策
アカハラ(アカデミックハラスメント)とは
アカハラとは、大学や研究機関など学術機関において、教育・研究上の上下関係を背景に、下位者に精神的・身体的な苦痛や実質的な不利益を与える行為を指します。加害者にハラスメントの意図がなくても、被害者が人格や尊厳を傷つけられたと感じれば成立する点は、他のハラスメントと共通です。
多くはパワーハラスメントに該当しますが、内容によってはモラハラ・ラブハラ・マタハラに該当するケースも見られます。アカハラの種類の詳細は、関連記事にまとめています。アカハラとは - アカハラの種類、具体的な対策、教育機関が取るべき措置を解説
アカハラに含まれる主な類型
| 類型 | 内容 | 学術機関で起きやすい場面 |
|---|---|---|
| モラハラ | 精神的攻撃を目的とした過度な叱責や人格否定 | 研究手法や論文指導での全面否定 |
| ラブハラ | 恋愛に関する話題の執拗な追及 | 教員と学生間の個別面談 |
| マタハラ | 妊娠・出産・育児を理由にした不利益取扱い | ポスト配分や研究テーマ調整 |
ハラスメント全般の種類と対策は、関連記事もご参照ください。職場で起こりうるハラスメントの種類と対策方法
指導とハラスメントを分ける判断軸
教員と学生、指導教員と研究員のように、指導する側と指導される側の立場が明確な関係は、学術機関の大きな特徴です。指導の目的・態度・相手に与える影響のいずれかが「業務上の必要性」を外れた瞬間に、指導はハラスメントに転じます。
| 観点 | ハラスメント | 指導 |
|---|---|---|
| 業務上の必要性 | 必然性がなく、個人的な感情で行われる | 技術・スキルの向上を促すために行われる |
| タイミング | 過去のミスを繰り返し言及、相手の状況を無視 | 指導が必要な事象の直後、相手が受け止められる状態で行う |
| 上位者の目的 | 自分の思い通りに動かすことを優先 | 相手の成長と組織目的の達成を優先 |
| 上位者の態度 | 威圧的・攻撃的で、批判的に否定する | まず受け止め、見守る姿勢を取る |
| 上位者の深層心理 | 自分の地位を脅かす者を排除したい | 知識や経験を伝え、分野全体の発展に貢献したい |
| 下位者の状態 | 不安や嫌悪感を抱えて萎縮する | 適度な緊張感の中でのびのびと活動できる |
| 長期的な影響 | 成長が止まり、離職・退学リスクが高まる | 組織に活気が生まれ、積極性と責任感が育つ |
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「先輩の研究者として厳しく指導するのは当然」という考え自体は誤りではありません。ただし、相手への思いやりと一般的な倫理観を欠いた厳しさは、意図の有無にかかわらずハラスメントとみなされ得ます。組織全体でこの違いを共有することが、ハラスメント蔓延を防ぐ最初の一歩です。
アカハラがなくならない3つの構造的要因
アカハラが繰り返し発生する背景には、学術機関ならではの構造的な要因があります。
- 教授会と法人運営の分離により、チェック機能が働きにくい
- 研究成果偏重の評価文化により、教育・指導力が問われにくい
- 加害者が所属機関だけでなく学会全体に影響力を持ちやすい
教授会と法人運営の分離による監視機能の不全
学校教育法第93条は「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と定めています。ただし「重要な事項」の範囲は明文化されておらず、運用によっては教員人事や勤務評定にまで教授会の影響が及ぶケースがあります。
学校教育法第93条は,「大学には,重要な事項を審議するため,教授会を置かなければならない」と規定している。同条に規定する「重要な事項」について,その内容が必ずしも明確でないため,(中略)現在でも学部教授会の審議事項が大学の経営に関する事項まで広範に及んでおり,学長のリーダーシップを阻害しているとの指摘がある。
参考:文部科学省『大学のガバナンス改革の推進について』
最終決定権が理事長・学長にあるべき事項まで教授会が実質的に決めてしまうと、ハラスメント事案が発覚しても組織の自浄機能が働きにくくなります。内部規則を見直し、決定権の所在を明確化することが、監視体制強化の出発点です。
研究成果偏重の評価文化
文部科学省は、新時代の高等教育機関のあり方として、「学生を教授し,その研究を指導し,又は研究に従事する」ことを准教授の主たる職務と定めています。しかし評価軸が研究業績に偏ると、教員が自らを教育者ではなく研究者として認識する傾向が強まります。
文部科学省「新時代における高等教育機関の在り方」にも、研究と教育の両能力を備えた人材養成の必要性が示されています。一方で、研究室ごとに教育方法が委ねられる現状では、教育の質がチェックされにくく、学生が研究成果の助手として扱われやすい土壌が残ります。
教育者としての自覚が不足したまま指導関係に入ると、意識のミスマッチがハラスメントの温床になります。
学会を含む研究分野全体に及ぶ影響力
民間企業では、ハラスメントが発生しても異動や転職で加害者との関係を断つことが可能です。これに対し学術機関では、所属機関を変えても同じ研究分野を続ける限り、学会などで加害者と接点を持ち続けることになります。
さらに、権威ある研究者は採用・査読・研究費審査など、分野全体に影響力を及ぼすケースがあります。被害者は告発すれば人間関係を断てる一方で、研究者としてのキャリアを失うリスクも背負うことになります。これが「告発できない」「告発したくない」状況を生み、アカハラが表面化しにくい最大の理由です。
アカハラ防止に関する法的枠組み
学術機関を含む雇用者は、ハラスメント防止について複数の法律で義務を負っています。組織の対策を根拠づけるために、まず法的枠組みを押さえておきましょう。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
労働施策総合推進法第30条の2は、事業主に職場におけるパワーハラスメントの防止措置を講じる義務を課しています。大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から全面適用されており、大学・研究機関もこの対象に含まれます。
具体的な措置は厚生労働省 職場におけるハラスメントの防止のためにで解説されており、方針の明確化・相談体制の整備・発生時の迅速な対応・プライバシー保護などが求められます。
労働安全衛生法
労働安全衛生法第71条の2は、事業者が快適な職場環境を形成する努力義務を定めています。
事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、次の措置を継続的かつ計画的に講ずることにより、快適な職場環境を形成するように努めなければならない。
一 作業環境を快適な状態に維持管理するための措置
二 労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置
三 作業に従事することによる労働者の疲労を回復するための施設又は設備の設置又は整備
四 前三号に掲げるもののほか、快適な職場環境を形成するため必要な措置
参考:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索
教職員は「研究者である前に労働者」でもあるため、労働基準法・労働契約法・育児介護休業法・男女雇用機会均等法など、労働関連法令もハラスメント事案では重要です。
刑法に該当するケース
精神的に追い詰めて退職や研究室からの離脱を強要した場合などは、刑法上の強要罪に問われる可能性があります。ここまで至れば、法令違反を超えて刑事事件として扱われる領域です。
無自覚に行われることの多いアカハラでは、法的根拠を組織内に浸透させること自体に抑止効果があります。
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アカハラを受けたときの対処法
アカハラは逃げ場のない状況に陥りやすく、深刻な健康被害に直結します。ハラスメントを受けていると感じたら、各機関の相談窓口に早めに連絡することが重要です。
相談は組織内部の関係者より公的窓口を優先する
多くの大学では、個人情報保護に配慮したハラスメント相談窓口が設置されています。たとえば大阪大学は専門相談員(カウンセラー)による相談体制を整備しています。所属組織の窓口も、まずは匿名で相談し、対応の流れや守秘義務の運用を確認したうえで正式相談へ進むと安心です。
身近な同僚や先輩への相談は慎重に判断してください。同じ組織内の関係者は、加害者との利害関係や上下関係がある場合が多く、意図せず情報が漏れるリスクがあります。深刻な事案では、所属組織の窓口に加え、法テラスや弁護士、外部の公的機関への相談を早めに検討しましょう。
相談前に記録を残す
相談や告発の際は、客観的な記録が被害事実を裏付ける材料になります。
- 発言の日時・場所・関係者
- メールやチャットの原文保存
- 体調変化に関する医療機関の受診記録
- 同席者・目撃者の有無
組織として講じるべきアカハラ防止策
アカハラの発生自体をゼロにすることは難しいものの、発生しても早期に検知し、公平に対応できる組織の仕組みを整えることは可能です。
最優先で取り組みたい4つの施策
- 全教職員を対象としたハラスメント研修の実施
- 新入学生・新入職員向けのハラスメント授業・ガイダンスの導入
- 教員・研究者同士で相互に点検できるルールと体制の整備
- 被害者が安心して相談できる窓口と、報復防止の運用ルール
研修設計で意識したいポイント
ハラスメントの多くは加害者が無自覚に行うため、「何がハラスメントに該当するか」を組織内で共通言語化することが最も重要です。研修では、法律・事例・自校の相談窓口の仕組みを連動させて伝えることで、受講者が自分の行動を見直しやすくなります。
外部講師を招いた研修は、学内の利害関係から距離を取って論点を扱える利点があります。研修の設計や外部委託の考え方は、関連記事もご参照ください。
まとめ
アカハラは、学術機関特有の上下関係・研究成果偏重の評価文化・学会ネットワークが重なって生じる構造的な問題です。個人の倫理観だけで解決することは難しく、パワハラ防止法を含む法的枠組みを前提とした組織的な仕組みづくりが欠かせません。
研修・相談窓口・内部規則の見直しなど、取り組むべき領域は多岐にわたります。組織全体でアカハラ防止の体制整備を進めたい場合は、研修会社比較サービスのKeySessionをご活用ください。貴学の状況に合わせた研修プランをご提案します。

