必要な人材を確保し、育成、配置、そして定着させる一連の取り組み

企業が成長を遂げる上で欠かせない「人材戦略」とは、経営目標を達成するために必要な人材を確保し、育成、配置、そして定着させる一連の取り組みを指します。

人口減少やデジタル化、グローバル化といった外部環境の変化が進む中、人材戦略は従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織の競争力を高めるための鍵となります。

本記事では、人材戦略の概要と重要性、関連する用語との違いに加え、採用や育成、配置、定着といった具体的な取り組みについて解説します。効果的な戦略立案を支援するフレームワークや成功事例も紹介し、時代のニーズに応じた人材戦略を実現するポイントを解説します。

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人材戦略とは?

人材戦略とは、企業や組織が必要な人材を計画的に確保し、育成、配置、定着させる一連の戦略です。採用や研修、人事評価などの施策を組み合わせ、従業員一人ひとりが能力を発揮できるように環境を最適化し、経営目標の達成を目指します。

人材戦略の他にも、人事に関するアプローチには以下のようにいくつか類似した用語があります。

  • 人事戦略
  • 戦略人事
  • タレントマネジメント

それぞれの違いについて説明します。

人事戦略との違い

人事戦略とは、採用活動や人材育成、適正配置など、人事全般にまつわるオペレーションを改善し、組織の生産性向上をはかるものです。具体的には、従業員の人事評価や報酬体系などの制度、労働環境の整備を指します。

人事戦略は人事業務全般の効率化や制度設計を表す言葉ですが、人材戦略は経営戦略に基づく中長期的な人材活用の方向性を示すものです。例えば、以下のように経営戦略に沿ったアプローチを指します。

  • 新規事業展開のために必要な専門性の高い人材の確保
  • グローバル化に対応できる次世代リーダーの育成
  • DX化を推進できる人材の育成と配置

人材戦略は人事戦略よりも、目標を明確にしたアクションを推進するところに違いがあります。

戦略人事との違い

戦略人事は、経営戦略に沿って人的資源を管理するアプローチのことです。「戦略的人的管理」の略語で、1990年代にアメリカの経済学者であるデイブ・ウルリッチ教授により提唱されました。

経営戦略の達成に向けて必要な人材の確保や育成、配置を行うマクロな視点での人事マネジメントであり、人材戦略と類似した言葉です。ただ、戦略人事は組織全体を対象としたアプローチである一方で、人材戦略は従業員一人ひとりにフォーカスした施策を指します。

タレントマネジメントとの違い

タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりが持つ能力やスキルを最大限に発揮するための人事的な施策やプロセスを指します。従業員のデータを一元管理し、能力やスキルを活用できる配置や役割を与えたり、必要な教育を行ったりします。

人材戦略との違いは、目的としている範囲やアプローチです。人材戦略は、企業全体の目標に基づいて行う施策で、採用から育成、評価など人事業務全般を含みます。一方で、タレントマネジメントは、従業員個人に焦点を当てた配置や育成を指し、人事戦略の一環として行います。

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人材戦略が重要視される理由とは?

企業の成長において、人材戦略が重要視される理由は、次の3つがあります。

  • 労働力人口の減少
  • 専門性が求められる業務の増加
  • グローバル化対応の必要性

労働力人口の減少


引用:2023年度版労働力需給の推計│労働政策研究・研修機構

日本では、少子高齢化の進行により、労働力人口の減少が見込まれています。上記の図は、労働政策研究・研修機構が将来の労働力人口を推計したものです。経済成長や労働参加がない場合、2022年から2040年までに労働力人口が約900万人も減少するとされています(一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ:グレー部分)。

そのため、優秀な人材の確保をめぐる企業間の競争は一層激化するでしょう。技術力やスキルの高い人材をいかに採用・育成するかが、企業の業績や生産性に影響するため、戦略的な人材の確保と定着が不可欠です。

また、上記の推計では、市場拡大に加えて女性や高齢者などが労働市場へ参加することで、減少幅が縮小するとされています(成長実現・労働参加進展シナリオ:オレンジ部分)。女性の活躍推進や長期雇用制度の導入など、多様な人材が働ける環境整備が求められます。

技術進展による専門人材の必要性

デジタル化やAIの進展により、新しいスキルセットを持つ人材の需要が高まっています。特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に必要な専門人材の確保は、多くの企業にとっての課題です。

情報処理推進機構のDX動向に関する調査によると、全社的にDXの取り組みを行っている企業が2021年度から3年連続で増加しています。一方で、DX推進を担える人材は、量・質のどちらも不足している企業がほとんどです。

【DXの取組状況】

引用:DX動向2024(データ集)│独立行政法人情報処理推進機構

【DXを推進する人材の「量」の確保】

引用:DX動向2024(データ集)│独立行政法人情報処理推進機構

【DXを推進する人材の「質」の確保】

引用:DX動向2024(データ集)│独立行政法人情報処理推進機構

DX推進が企業に浸透しつつある現状で、DXを推進できる人材が不足しているといえます。企業には、従業員の生成AIやIT技術のスキルアップと、外部からのDX専門人材の採用を進める戦略が求められます。

グローバル化への対応

世界経済の発展に伴い、海外展開を目指す企業は珍しくありません。日本貿易振興機構の調査では、2024年度の海外売上高は5割超の企業が前年度からの増加を見込んでおり、海外でのビジネスで成果を上げています。グローバルな視点で、多様な文化や背景を持つ人材をいかに活用するかが業績向上の鍵といえるでしょう。

また、国内においても外国人労働者が増加傾向にあります。内閣府の調査では、2010年代半ばより顕著に増加し、2023年時点では中国や東南アジアを中心に、205万人の外国人労働者が働いています。多様な人材を生かすマネジメント能力の向上が必要不可欠です。

引用:我が国における外国人労働者の現状と課題│内閣府

参考:2023年度ジェトロ海外ビジネス調査「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」│日本貿易振興機構(ジェトロ)

人材戦略のための4つの戦略

人材戦略は、人事施策全般を表す言葉であり、複数の施策を組み合わせながら実行することが求められます。人材戦略は、主に以下の4つにわけられます。

  • 採用
  • 育成
  • 配置
  • 定着

1.採用

自社に必要な人材を獲得するために必要なのが採用活動です。経営戦略に基づき、必要な人材数とスキルセットを明確にすることが大切です。また、自社の強みと魅力を可視化し、獲得したい人材を確保できるよう積極的な発信が求められます。

採用活動においては、新卒・中途採用に限らず、リファラル採用や若年層に焦点を当てたSNS採用など、戦略に沿って適切な方法を組み合わせましょう。

2.育成

組織全体のパフォーマンス向上のため、企業が求めるスキルや能力を有する人材を育成することも人材戦略の一つです。OJTやOFF-JT、eラーニングなど、多様な育成手法を組み合わせながら、従業員の能力開発を戦略的に進めていきます。

特に、育成目標は「何を実現するために育成を行うのか」を明確にした上で、経営戦略と連動させることが重要です。教育する側と受ける側双方が納得感を持って実行できる目標を設定しましょう。

また、教育効果を検証する評価とフィードバックも必要です。1on1ミーティングや評価面談などを通してフィードバックすることで、従業員が成長を実感し、モチベーションの向上につながります。

3.配置

従業員の個性に合わせて、適材適所に人材を配置することを指します。従業員一人ひとりのスキルや経験、適性を考慮しながら、組織の目標達成に最適な配置を行います。配置の適正化により、業務効率化や生産性向上につながるでしょう。

また、計画的にジョブローテーションを行うことで、従業員の視野を広げ、組織の活性化にも寄与します。新しい環境で働く機会が豊富にあると、従業員が自発的に成長できるでしょう。

4.定着

自社に必要な人材の定着をはかる施策も必要です。定着のためには、従業員のニーズに合わせた複合的なアプローチが求められます。例えば、以下のような取り組みが重要でしょう。

  • 明確なキャリアパスの提示
  • 公正な評価制度の整備
  • 働きやすい職場環境の整備

明確なキャリアパスの提示

従業員の代表的なキャリアパスを周知し、明確なビジョンを持てるよう支援することが重要です。また、昇進やスキルアップの機会を提供し、自身の成長を実感できる環境を整えることで、離職リスクを低減できます。

さらに、定年退職後も長く働ける仕組みを整備することで、企業へのエンゲージメントが向上し、組織への帰属意識が高まるでしょう。

公正な評価制度の整備

従業員の努力や成果を客観的に評価し、公正な報酬体系を整えることが求められます。特に、透明性のある評価基準は、従業員のモチベーション向上につながるでしょう。

働きやすい職場環境の整備

ワークライフバランスや福利厚生の充実など、働きやすい職場環境を整えることで、従業員の定着につながります。具体的には、フレックスタイム制度や在宅勤務制度などの多様な働き方や育児休暇や介護休暇などの多様なニーズに応じた制度が有効です。

また、上司と部下や部署メンバー間のコミュニケーション機会を増やすための施策も重要です。1on1ミーティングの実施や社内イベントなどにより、自社への帰属意識向上につながります。

人材戦略を立てるプロセス

人材戦略は採用、育成、配置、定着の4つの施策を経営方針に沿って行います。人材戦略を立てるためのプロセスについて、次の5つから解説します。

  • 経営戦略の理解
  • 必要な人物像と組織の定義
  • 現状把握とギャップの分析
  • 人材戦略の設計
  • 実行と評価

1.経営戦略の理解

人材戦略を実行するためには、まず経営戦略を深く理解することが不可欠です。経営層との対話を通じて、企業のビジョンや中長期的な目標を正確に理解します。その上で、経営目標の実現にはどのような人材が必要かを明確化し、現状とのギャップを把握しましょう。

2.必要な人物像の定義

経営目標の達成に向けて、必要な人材の質と量を具体的に定義します。現場の状況も考慮しながら、過不足なく必要な人材を決めることが大切です。具体的には以下のようなポイントを定義するとよいでしょう。

  • 職種や役割ごとの必要人数
  • 求められるスキルや経験
  • 自社に適合する価値観や行動特性

具体的な人材要件の定義が難しい場合、暫定的に決め、実行しながら検討していくとよいでしょう。

また、新しく必要な人材を定義する場合、組織変容が求められることもあります。例えば、DX化推進の専門人材を採用する場合、外部から入社してきた人がリーダー的役割を担うケースがあります。部署の人員構成が変化し、現場から戸惑いの声が上がる恐れがあるでしょう。

関係者に実現したい目標を地道に共有しながら、現場の理解を得ていくことが必要となります。

3.現状把握とギャップの分析

経営情報を分析し、現状の経営状況とギャップを把握します。人事面の情報だけでなく、財務、経営企画、事業部門など、関連部門と連携しながら組織の現状を多角的に分析することが大切です。関連部門にヒアリングを行うことで、経営の現状を正しく把握できます。

また、現状の人材状況についても把握しましょう。人材の能力レベルやエンゲージメントの測定、組織風土の把握を通して、目指すべき姿とのギャップを明確にします。競合他社や市場動向も考慮しながら、必要な人材確保や能力開発が行えるよう、施策の優先順位を決定します。

4.人材戦略の設計

分析結果に基づいて、具体的な施策を設計します。採用計画や育成プログラム、配置・異動方針など、それぞれの施策について、実施時期や必要なリソース、期待される効果を明確にします。また、施策の実行を支える体制や予算についても、合議の場を設けて検討を重ねることが必要です。

さらに、人材戦略の達成状況の把握のため、具体的な評価指標を決めておくとよいでしょう。例えば、以下のような指標がよく活用されます。効果検証できるよう、定量的な評価指標を設定しましょう。

  • 採用関連:応募者数、内定承諾率、採用充足率、採用コスト
  • 人材育成:研修受講者数、計画達成度、研修満足度
  • エンゲージメント:定着率、従業員満足度、エンゲージメントサーベイ
  • 人事関連:離職率、定着率

5.実行と評価

策定した戦略を着実に実行し、定期的な進捗確認と効果測定を行います。設定した人材戦略の評価指標を中心に効果測定を行い、PDCAサイクルを回しながら修正と実行を繰り返していきます。

人材戦略に役立つフレームワーク

人材面の課題抽出や競合分析を行う際には、フレームワークを活用して状況を整理するとよいでしょう。人材戦略に役立つフレームワークを5つ紹介します。

1.SWOT分析

自社の人材面における強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を整理するフレームワークです。内部環境と外部環境を分析することで現状を把握します。

説明 具体例
強み 自社や自社製品・サービスにとって有利な内部要因 充実した研修制度
弱み 自社や自社製品・サービスにとって不利な内部要因 デジタル人材の不足
機会 外部環境での自社にとってのチャンス グローバル市場の拡大
脅威 外部環境における自社に対するリスクや障害 人材獲得競争の激化

2.TOWS分析(クロスSWOT分析)

SWOT分析で行った現状把握から戦略立案につなげるのがTOWS分析です。SWOT分析でわかった内部環境や外部環境を考慮し、企業の成長につながるため、以下の4つの方向性から戦略を立てます。

説明 具体例
強み×機会 強みを生かしてチャンスを活用する 「風通しのいい社内文化」を生かしてリモートワークの導入など柔軟な働き方を推進
弱み×機会 弱みを補完してチャンスを活用する 「デジタル人材の不足」を専門人材の採用・教育で補完し、DX化を進める
強み×脅威 強みを生かして脅威を乗り越える 「人材獲得競争の激化」に対し、「充実した研修制度と多様なキャリアパス」で求職者にアピールする
弱み×脅威 弱みを補完して脅威を乗り越える 「経済不況」という状況に対し、「高い離職率」を補完するためにエンゲージメント向上に取り組む

3.ロジックツリー分析

ロジックツリー分析は、問題を論理的に分解し、階層的に整理するフレームワークです。具体的には、問題を「What(何を)」「Why(なぜ)」「How(どうする)」などの視点から分解して整理します。

例えば、「離職率が高い」といった課題に対し、以下のように「Why(なぜ)」の視点で具体的な要因を検討し、要因ごとに対策を考えます。

【活用例】

4.PPM分析

PPM分析は自社の事業や商材を市場成長率と市場占有率の2軸から評価し、経営資源の投資配分を分析するためのフレームワークです。人材戦略を立案する際の経営戦略と方向性の明確化に役立ちます。

PPM分析の市場成長率はマーケットの成長性を表し、市場占有率はマーケットでの自社のシェアを指します。2つのかけ合わせによって、商材やサービスを以下の4つに分類します。

  • 花形:シェアが高く利益を出しやすいが競争が激しい
  • 金のなる木:成長は見込めないが競争が少なく安定した利益が得られる
  • 問題児:成長分野だがシェアが低く、投資が必要
  • 負け犬:成長や利益確保が見込めないため、削減が求められる

4つに分類した上で、効果の高い施策への投資を強化する一方、効果の低い施策は見直しや廃止を検討します。人材戦略においても、採用活動や教育研修プログラムなどの施策を検討する際に、応用できるフレームワークです。

5.PEST分析

外部環境要因を分析する際に有効なフレームワークです。以下の4つの観点から外部環境要因を検討します。

観点 説明
政治的(Political) 法規制や政策、外交動向など
経済的(Economic) 経済成長率や為替レートなど
社会的(Social) 人口動態や世論、社会の意識など
技術的(Technological) 技術革新やインフラ状況など

4つの観点から技術革新や法改正、社会情勢などの要因を整理し、必要な人材戦略の施策を考えます。例えば、働き方改革関連法の改正に対しては長時間労働対策や柔軟な働き方の促進が必要です。外部環境の変化を的確に捉え、最適な人材戦略を考案するために役立ちます。

人材戦略を成功に導くためのポイント

人材戦略を成功させるためには、次の3つのポイントを意識した施策実行が求められます。

  • 社内制度や組織体制の整備
  • サクセッションプランの導入
  • プロフェッショナル人材を活用する

組織体制の整備

人材戦略を確実に実行するには、適切な組織体制と制度の整備が欠かせません。近年では、CHRO(最高人事責任者)を設置し、経営層の一員として人材戦略の立案・実行をはかる企業もみられます。現場と経営層を取り持つ存在として、人事戦略に求められる施策を実行します。

また、全社的な合意形成や議論の場として、人材戦略委員会を設置することも有効です。経営戦略実現に向けた人物像の明確化や採用計画など、CHROを委員長として人材戦略に必要な施策を話し合います。

経営層と現場をうまく連携させ、全社的に合議決定できる組織体制を整備することで、人材戦略をスピーディーに実行できます。

サクセッションプランの導入

サクセッションプランとは、幹部や経営者候補など次世代リーダーを育成する計画を指します。20代や30代の若手のうちから育成を始め、さまざまな部署での経験や挑戦的な業務を経て、経営層になることを見越した長期的な人材戦略です。

育成に時間やコストがかかる一方、経営層が突如空席となった際の混乱を防げるというメリットがあります。

プロフェッショナル人材を活用する

地域企業で自社に適した専門人材が見つからない場合、内閣府が推進するプロフェッショナル人材事業を活用するとよいでしょう。東京都と沖縄県を除く45道府県にあるプロフェッショナル人材戦略拠点に相談することで、外部人材活用のサポートが受けられます。

具体的には、必要となる外部人材の明確化、解決したい経営課題にあった人材のマッチングなどを無料で支援してもらえます。地域の企業で、人材戦略を実行するノウハウがなく困っている際には、一度相談してみるとよいでしょう。

参考:プロフェッショナル人材事業│内閣府

時代の流れに応じた人材戦略のポイント

経営戦略は時代の変化に応じて、業績を最大化できるよう、アップデートしていく必要があります。それに伴って、人材戦略も時代の流れに沿った施策の実行が必要です。時代の流れに応じた人材戦略のポイントは、以下の4つです。

  • グローバル人材の採用
  • 多様化する働き方への対応
  • 社内のDX化
  • ダイバーシティ経営の推進

グローバル人材の採用

企業の海外進出が進み、グローバルな視点を持つ人材の確保・育成が重要性が高まっています。グローバル人材は、現地の文化や商習慣に精通しており、海外でのビジネス展開をスムーズに進められます。その結果、海外市場での競争力向上につながります。

異文化圏でのビジネスを行うには、現地の企業や関係者と信頼関係を築くことが必要です。そのため、グローバル人材の採用においては、語学力だけでなく、多様な価値観を受け入れる柔軟性があるかを重視するとよいでしょう。

多様化する働き方への対応

働き方改革関連法の制定やコロナ禍以後より、働き方の多様化が進んでいます。企業としても、人材定着のためにはテレワークやフレックスタイム制など、柔軟に働くための制度整備が不可欠です。ただ、制度を導入する際には、いくつか注意する必要があります。

通常勤務者と不公平にならないよう調整する

時短勤務やフレックスタイムを導入することで、通常勤務者との間に不公平感が生じないよう、配慮が必要です。業務の偏りを適正化し、全ての従業員が快適に働ける職場環境を整えることが求められます。

業務効率の低下を防ぐ

リモートワークでは、必要な機器の整備やコミュニケーション不足から、業務効率が低下する可能性があります。定期的なミーティングを開催したり、進捗報告を義務付けたりするなど、効率低下を防ぐ仕組みづくりが必要です。

社内のDX化

急速に発達する情報技術を背景に、デジタル技術を活用した業務効率化と、それを担うDX人材の育成が求められています。DX化を推進できる人材の採用と、既存の従業員育成のための人材戦略が必要です。特に、DX推進を中心的に担うプロジェクトマネージャーは、外部からの採用が難しいため、長期的に教育する仕組みが重要となります。

また、社内DX化の推進には、ITやAIの基礎知識や経験だけでなく、デジタル技術を業務に反映させられる人材が求められます。そのため、業務プロセスの理解や発想力、DX化に伴う組織体制をつくるコミュニケーション力など、総合的なスキルが必要です。

さらに、時代の変化に応じて人材要件も変わるため、定期的に議論しながら、見直していくとよいでしょう。

ダイバーシティ経営の推進

ダイバーシティ経営とは、従業員の持つ多様な価値観を個性として尊重し、一人ひとりの能力を最大限に発揮することに加え、新たなイノベーションにつなげる経営を指します。市場のグローバル化や少子高齢化に伴う労働者層の多様化に伴い、人材活用戦略の一つとして注目されています。

特に、近年増加する外国人労働者への対応の必要性が高まりつつあるでしょう。採用に際して、移住手続きやビザ申請などの具体的なサポートや、日本文化や組織風土に対する教育など、業務に直結しない施策も必要となります。

多様な人材を活用することで、新たな考えが生まれ、企業のさらなる成長につながるでしょう。また、多様性を尊重する企業として、ブランドイメージの向上も期待できます。

人材戦略に取り組む企業事例

人材戦略に注力している企業の事例を3つ紹介します。

花王株式会社

花王株式会社では、メリハリのある人材投資戦略を実行しています。「平等から公平へ」の転換を基本方針として打ち出し、意欲のある人材に投資を行う人材戦略が特徴です。

また、人材戦略をスムーズに進める組織変革も実行しています。事業別のマトリクス型組織から脱却し、重要なタスクに適した人材を集中配置し、意思決定がスムーズに行われる仕組みを構築。

意欲ある従業員の成長を支援しつつ、重要なポジションに配置することで、組織の生産性向上につなげています。

参考:花王、ビジョンである「未来のいのちを守る」実現に向け、経営戦略と連動した人財戦略を公表│花王株式会社

オムロン株式会社

オムロン株式会社では、外国人労働者を始めとした多様な人材が活躍できる職場環境づくりに努めています。日本で働く外国人従業員が個性を発揮して活躍できるよう、さまざまな環境整備を行っています。例えば、コミュニケーション方法や文書などの多言語化や宗教・文化的な事情への個別配慮など、一人ひとりに合わせた対応が特長です。

また、女性の活躍推進施策にも注力しています。管理職登用や、女性管理職がグローバルで活躍するための研修などを積極的に実施。女性への働きかけだけでなく、研修を通して社内の意識変革も促しています。

参考:人財アトラクション | サステナビリティ | オムロン株式会社

楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社では、採用と育成、定着を柱とした「Back to Basics Project」という人事改革プロジェクトを実行しています。人材データの活用や人事制度の整備、キャリア開発支援を通して2017年から2023年で、離職率の2.4ポイント低減を実現しました。

人材データの活用に関しては、従業員の属性や行動を分析することで採用や人員配置などの施策実行に生かしています。

また、人事制度は楽天グループのコンセプトを反映したコンピテンシー評価が特徴的です。「コンピテンシー開発ハンドブック」を作成し、課題への対処や意思決定に関して具体的な実践例を従業員に周知。評価基準だけでなく、実際の行動に落とし込みやすくする仕組みを整えています。

キャリア開発に関しても、社内オープンポジション制度を導入し、関心のあるポストに挑戦できる仕組みを整え、従業員の自発性を高めています。

参考:人材マネジメント|楽天グループ株式会社

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