【企業理念】が組織の問題を解決する、有効的な手段である

企業の寿命は広く30年だと言われています。
ましてや、100年以上続く会社はほとんどありません。

生物ではない、代替わりも可能な集合体である企業には、どうして寿命が存在するのでしょうか。

100年ほど前と言えば、1918年に第一次世界大戦、1929年には世界恐慌、1939年には第二次世界大戦といった出来事が起きているように、第二次産業革命を背景とした石油中心の時代でした。

しかし、1970年代に入るとコンピュータによる単純作業の作業効率化という第三次産業革命が、さらに2010年代に入ると、AIとIoTによる第四次革命が起こりました。

産業革命と呼ばれるような社会構造の変化のスパンはどんどんと短くなり、既に第五次産業革命についても語られています。

このような目まぐるしい時代変遷の中で、企業は常に変化し、世の中に価値を出し続けていかないと、存続できなくなってしまいます。
これが、企業寿命の正体です。

では、皆さんの周りの方の中に、このような危機感を持って活動している方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。
いつしか日常業務に慣れてしまい、変化への意欲を失ってしまったり、創造性を発揮できなくなってしまっていませんか。

そこで今回は、ある種停滞感を感じている企業が、今後も長くこの世に存在し続けるために必要なアイテムである「企業理念」について、簡潔に説明していきます。

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企業理念とは?役割をわかりやすく解説

「理念」という言葉の意味は「物事のあるべき状態について示している、基本的な考え」と説明されています。
従って企業理念とは、「私たちの企業はこうあるべきだ」という基本的な考えを明文化したもの、となります。

基本的な考えですから、企業理念とは

  • 企業がもつ半永久的な価値観
  • 企業の創業時の志や決意
  • 企業が社会に果たすべき役割
  • 企業が目指していること
  • 企業の存在意義

などが表現されており、「基本」「根本」「不変」「意志」「意義」「使命」といったキーワードを読み取ることができます。

企業理念は何故必要なのか

人が「その人らしくあり続ける」ために必要なこととして、アイデンティティという言葉を聞いたことがあると思います。

心理学や社会学の世界では、アイデンティティは「自己同一性」という言葉に置き換えられます。

「自己同一性」とは、状況や環境に影響されることなく、「自分は自分である」という自らの認識で、そこには他人の評価は関与しません。

人は困難にぶつかったり、新しい対応を迫られた際には、世間体などではなく、自分にとっての正しい道を進むための何か「よりどころ」を軸にして判断していきます。

「よりどころ」を軸にしないと、時代や世間に流され、変化できない自分に対して自信を失い、物事を主体的に判断することが出来ずに、人格が崩壊してしまいます。

このような「今の自分」と「社会や周囲から期待されている、今後なるべき自分」との葛藤の際にも、自分を見失わないように変わらず持ち続ける判断軸こそが、いわゆるアイデンティティです。

では、人を企業に置き換えてみましょう。

創業当初に考えられた商品やサービスは、世間の評価を受け、会社は成長していき、成功体験を積み重ねていきます。

しかし時代の変遷とともに、商品やサービスは受け入れられなくなり、成功体験も時代遅れの手法となってしまいます。

「今まで成功してきた会社」と「世間が今後求めている、なるべき会社」との間に差が生まれた時、企業は改革を迫られます。

企業という組織は人の集合体ですので、少なくとも組織に在籍する社員に企業自身のアイデンティを言語化して浸透させていなければ、社員は共通認識が持てず、正しい判断ができなくなり、迷走してしまいます。

その時に必要になるアイデンティティこそが企業理念です。

経営理念との違いを考える

経営理念とは、経営者が持っている「企業を経営していくうえで、活動方針の基準となる考え」のことです。

企業は営利団体ですので、利益を得て成長を続けなければ存在し続けることは出来ません。その利益を得るための基本的な考え方を明文化したものですので、経営者の交代や大きな時代の変化などに応じて、見直しされることは珍しくありません。

企業理念という普遍的な考えからは決してそれることなく、状況や時代の変化に合わせて臨機応変に対応していくのかを社内外に向けて発信する、それが「経営理念」の役割です。

企業理念と経営理念との関係は、日本国憲法と各種法令との関係によく似ています。

コロナ禍において、諸外国ではロックダウンが実行され、強制的に様々な行動制限がなされたわけですが、日本では強制力のない要請に留まり、ロックダウンは実施されませんでした。

これは日本国憲法において「私権」を強制的に制限することが禁じられているため、ロックダウンのような強制力のある行動制限が出来ないからです。

このように、状況的にはロックダウンは必要ではないかと考えたとしても、日本国憲法に反していれば行うことは出来ません。

日本国憲法の範囲内で実施できることを考え、状況にあった対応を行う、この考え方に基づき、経営理念も実行されています。

ミッションとの違いを考える

ミッションとは、企業が社会において果たすべき使命であり、存在意義そのものを具体的に表現することです。

会社内部に向けては社員の意思統一を図るために浸透させたい考え方を示し、会社外部には株主や投資家のみならず、社会全体に対して企業が果たすべき具体的な目標を示す内容となっています。

そこには、理念をさらにわかりやすく、簡潔に表現し、社員の活動指針として活用したいという狙いがあります。

例として、ユニクロブランドでおなじみのファーストリテイリング社のミッションをご紹介しましょう。

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世界を良い方向に変えていく
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短い言葉の中に「変革を恐れないチャレンジャーであり続ける」という意志が伝わってきます。

ビジョンとの違いを考える

ビジョンとは、企業が「企業理念」に基づいて作成した目標などのことで、例えば事業を通じて中長期的に達成したい目標を具体的に掲げる形で表現します。

そこには時間軸が存在しており、時代の変化に伴い都度変化することが望まれます。

理念と違い、掲げることが目的ではなく、実際に行動に落とし込み、どれだけ実際に達成できたのか、ということが重要です。

例として再度、ユニクロブランドでおなじみのファーストリテイリング社を取り上げてみました。

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◎本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
◎独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
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投資家や取引先に対して「海外戦略」を強く感じさせる内容となっており、且つ時折話題となる「独自路線」は企業目線ではなく、社会への貢献を目指しているというメッセージを、対外的に発信しようとする姿勢が伺えます。

企業理念の構成要素をわかりやすく解説

企業理念を新しく策定したいとお考えの方に、企業理念の6つの構成要素についてわかりやすく解説いたします。

  • 差別化
  • 社会貢献性
  • 世界環境への配慮
  • 一貫性・不変性
  • 成長性・戦略性
  • わかりやすさ

上記にあげた項目すべてを盛り込もうとすれば、長々とした文章となり、企業理念の本筋から外れてしまいます。
自社にとってどの項目が重要なのかを見極め、内容を決めていってください。

差別化

あまたひしめく競合他社と自社との間にはどのような違いがあるのか、について表現できなければ、取引先として選択されるチャンスを失います。

社会貢献性

そもそも企業の存在意義は何なのか、を具体的に表現し、自らが価値ある存在であることを世間にアピールする必要があります。

世界環境への配慮

「SDGs」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。
企業には「環境問題に代表されるような、様々な社会問題に取り組むこと」が求められており、時代に適した内容を盛り込むことで全世界に企業姿勢をアピールすることが可能です。

一貫性・不変性

時代に応じた変化を行ってはいけない訳ではありませんが、そのような企業の重要決定事項を決める際に参考にすべき基準が企業理念ですので、ある程度長い期間でも通用するような一貫性・不変性が求められます。

成長性・戦略性

特に株式会社には株主が存在しますので、常に成長し続けることが求められます。
企業がどのように成長していくのか、その戦略はどのような考えに基づいているのかといったような内容を表現することで、株主や取引先からの信頼を勝ち取ることができる内容が望ましいでしょう。

わかりやすさ

難しい表現や外国語などを多用して、結果として内容や意図が伝わらず、「言葉のカッコよさ」だけが伝わるだけで、共感が得られないような言葉は避けるべきです。

企業理念の具体的効果をわかりやすく解説

それでは、企業理念がもたらす具体的な効果について、わかりやすく解説していきましょう。

積極的に取引しようという思いを取引先や株主に与える

地球環境への対策や顧客の健康や安全への取り組みなど、CSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)に対する意識は高まっており、取引先に対して、CSRを要請する企業が増えつつあります。

企業がビジネスを行う際に、利益を最もあげることができる企業と取引をすれば良いという考え方ではなく、同じ志や考え方、環境への取り組みや価値観を持つ企業と積極的に取引をしようという発想が生まれています。

企業理念を通じて、会社の考えを対外的にはっきりと示すことで、「この会社と取引したい」という取引先や株主・投資家や顧客の獲得にもつながることが期待できるわけです。

従業員の間に一体感を生む

従業員の間に一体感が生まれると、同じ目標に向かって力を合わせること、助け合うこと、高め合うことが出来るようになります。

一方で多様性を重んじるダイバーシティの推進により、さまざまなバックグラウンドの従業員が企業で働くようになると、一体感を保つのが難しくなる場合があります。

そのため必要となってくるのが共通の目的であり、それが企業理念なのです。

バックグランドは違えども、何かを判断する際に用いる基準は企業理念であり、全ての従業員が共有していれば、そこに一体感が生まれ、多様性との両立が可能になります。

従業員の意欲が高まり、パフォーマンスが向上する

企業にはそれぞれ、人々が抱える社会課題を解決したい、人々が求める価値を提供したい、といった目的が存在しています。

その目的にメッセージ性を加えたのが企業理念であり、従業員は自分の仕事が何のために行っているのかが明確になり、自分との価値観が合致すれば、そこに誇りが生まれます。

誇りをもって仕事が出来るようになれば、自然と就労意欲は高まり、パフォーマンスを向上させることができます。

例えば、スーパーの青果担当者が思いダンボールを運びながら「何でこんなに辛いことをやっているのだろう」と思う場面。

『地域の皆さんが健康な体と豊かな食生活を育むお手伝いをして、共に笑いたい』

このような企業理念があれば、そもそもの目的を思い出し、その作業に誇りを持って前向きに仕事ができます。

コンプライアンスを表現した画像

「自分の会社が好きだ」「自分の仕事が好きだ」「自分の職場が好きだ」「自分の会社に誇りを持っている」のいずれの質問においても、経営層>管理職層>一般社員 という結果になりました。経営層の8割以上が自社や仕事への愛着や誇りを持っている一方で、一般社員はその半分程度にとどまっています。特に「誇りを持っている」の項目では40ポイント以上の大きな意識差がみられました。
出典:博報堂「会社と私の本音調査」 第1回・働き方の本音

企業が採用したい人財の確保につながる

面接対策のアドバイスとして「企業理念をしっかりと理解し、自分自身が共感できる部分を表現できるようにする」ことは、広く言われている内容です。
従って、採用面接を受ける場面は、社会人生活の中で一番企業理念に目を通す時期であり、考える時期でもあります。

特に学生の新卒採用においては、「やりたい仕事」「なりたい自分」がわからずに、自分探しに苦労するケースがありますが、そういった場合は特に、企業理念が進むべき方向の道しるべになってくれます、

このように、企業理念は企業の想いや価値観、理念などに共感した人財が集まりやすくなることに対して、とても重要な役割を担っています。

有名企業の企業理念の事例をご紹介

企業理念について、具体的なイメージを掴めるよう、ここからは事例を見ていきましょう。

個性的な企業理念を持つ企業

個性的な企業理念を持つ会社の特徴として、スローガン的な役割を重視している特徴があります。

企業名 企業理念 解説・補足
RIZAPグループ 「人は変われる。」を証明する RIZAP(ライザップ)という社名は、「RISE」と「UP」という言葉を掛け合わせて作られました。
“どん底の状態からでも、その人が望む限り、必ず高く飛躍できる”という想いが込められており、企業理念と共通した考え方が込められています。
エステー 空気をかえよう
※スローガン的に使われている様子が伺える。
お部屋の、暮らしの、空気をかえたい。
お店の、売場の、空気をかえたい。
そして、日本の、社会の、空気までもかえたい。
そのために、まず、私たちの、空気をかえます。
私たちは、研究・商品で、空気をかえます。
私たちは、営業・販売で、空気をかえます。
私たちは、広告・宣伝で、空気をかえます。
エステーは、挑戦し、提案します。
そして、空気をかえます。
永谷園 味ひとすじ 味ひとすじとは、
・今までにない
・お客様に「なるほど、おいしい」と感じてもらえる
・他社にマネが出来ない
そういう商品を出し続けるという「決意」なのです。
サンリオ みんななかよく 「One World, Connecting Smiles.」というビジョンを胸に、1人1人の笑顔を作り出し、幸せの輪を広げていくことによって「みんななかよく」という企業理念の達成を目指している。
壱番屋 ニコニコ・キビキビ・ハキハキ
※社是として明文化されています。
「社是」の他に「ミッション」「経営目的」の三つを合わせて企業理念として掲げています

【ミッション】
として経営を通じ人々に感動を与え続け、地域・社会に必要とされる存在となること

【経営目的】
会社にかかわるすべての人々と幸福感を共有すること

学生に人気がある企業の企業理念

2020年代に就職企業ランキングで上位に挙げられている会社を何社かピックアップしてご紹介いたします。

キャッチコピー的な表現もあれば、かなり細かく文章で説明されている表現など、企業の考え方により多様であることがわかります。

任天堂のように、経営理念が存在しない会社もあります。
任天堂を世界的企業に成長させた山内溥社長が「企業理念なんてものは嫌い」ということでつくらなかったそうです。

常に価値観にとらわれず新しいものを世に生み出す為には固定的な考え方は必要ないということが理由のようですが、この考え方自体が明文化されていないまでも企業理念として浸透しているのが同社の強みです。

また企業理念は不変的なイメージがありますが、資生堂は2019年4月に、伊藤忠商事は2020年4月に企業理念を変更しています。

企業名 企業理念 解説・補足
伊藤忠商事 三方よし
「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」
※初代伊藤忠兵衛の座右の銘「商売は菩薩の業、商売道の尊さは、売り買い何れをも益し、世の不足をうずめ、御仏の心にかなうもの」が、言葉の起源
任天堂 『「お客様を良い意味で驚かせること、そして笑顔にすること」が、娯楽の世界で仕事をしている私たちの使命であり、そして喜びでもあります。』(採用情報:社長からのメッセージより引用) HP上に企業理念の記載はない。
「独創性」「時代に応じる柔軟性」「チャレンジ精神」が表現されている。
資生堂 私たちは国・地域・組織・ブランドを問わず、THE SHISEIDO PHILOSOPHYを常によりどころとして、世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーを目指します。 【THE SHISEIDO PHILOSOPHY】
1.私たちが果たすべき企業使命を定めた OUR MISSION
2.これまでの140年を超える歴史の中で受け継いできた OUR DNA
3.資生堂全社員がともに仕事を進めるうえで持つべき心構え OUR PRINCIPLES
味の素グループ 私たちは地球的視野にたち、”食”と”健康”そして、”いのち”のために働き、明日のよりよい生活に貢献します。 味の素グループは、"いのちのために働く"ことを次の100年のこころざしとして、21世紀の人類社会の課題である「地球持続性」「食資源」「健康な生活」に事業活動を通じて貢献していきます。
ソニー 私たちのミッションは「場」を使った新しいブランドコミュニケーションによりお客様に感動をお届けすることです。
このミッションを実現させるためのコンセプトは「3IN」。

Inviting(招く・誘う・誘惑する)
Inspiring(刺激・感動・鼓舞する)
Interweaving(織り込む・組み合わす・織り成す)

自由でオープンであり、余白・余地・余裕があること。
好奇心を刺激する、未来、発想、遊び、技術で人々を鼓舞すること。
モノ・コト・ヒト、複数の価値観が組み合わされていること。

私たちはこの3つの考え方を日々の仕事のスタンスや、人々との関わり方に組み入れることで、都市や社会、そして未来を面白くする会社であり続けます。

企業理念に近い考え方として、下記のように明文化されています。

【存在意義】
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。

【価値観】
夢と好奇心
夢と好奇心から、未来を拓く。

多様性
多様な人、異なる視点がより良いものをつくる。

高潔さと誠実さ
倫理的で責任ある行動により、ソニーブランドへの信頼に応える。

持続可能性
規律ある事業活動で、ステークホルダーへの責任を果たす。

東京海上日動火災保険 「お客様の信頼をあらゆる事業活動の原点におき」、「お客様に最大のご満足を頂ける商品・サービスをお届けし、お客様の暮らしと事業の発展に貢献する」 企業理念は存在せず、経理理念として表記されている。
「お客様や地域社会の“いざ”をお守りする」という文言も使用されている。

貴社の企業理念は社員に浸透していますか

企業理念は社員に浸透することによって初めて効果を発揮します。
しかし、「企業理念は浸透しているか」についてのアンケート結果をみると、社員に浸透していると回答した企業は全体の6%に過ぎず、壊滅的な状況です。
企業理念は浸透しているかについてのアンケート結果

また、「理念浸透のために施策を講じているのか」という質問に対しては、全体の2/3程度の企業が何らかの施策を既に行っているにも関わらず、一方では浸透が進んでいないと自己評価している様子が伺えます。
理念浸透のために施策を講じているのかについてアンケート結果

施策を講じている企業の具体的な施策を見てみると、一方的な社員への発信に留まっており、これでは本当に社員に伝わっているのかを確認することが出来ません。
企業の具体的な施策についてのアンケート結果

参照:HRプロ「企業理念浸透に関するアンケート調査」結果報告

もし皆さんが在籍している企業が、

「新しいアイディア・発想が出てこない」
「社員のモチベーションが上がらない」
「高い離職率を改善できない」
「優秀な人材を採用できない」

といった悩みを抱えているのであれば、企業の根本を支えている「企業理念」を浸透させることから、取り組んでみてはいかがでしょうか。

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