過剰なセクショナリズムを持つ人がいると、部門間での連携がスムーズにいかなくなり、組織に悪影響をもたらします。過度なセクショナリズムは早期に解決しなければなりません。
この記事では、セクショナリズムの意味や弊害、改善方法を解説します。ご自身の組織など身の回りでセクショナリズムを持つ人はいないか思い出しながら読み、改善方法を理解していきましょう。
セクショナリズムとは?わかりやすく説明
セクショナリズム(sectionalism)とは、「部分的な」「局地的な」といった意味の英単語"sectional"に、「~~主義」を意味する"ism"をつけた言葉です。直訳では「割拠主義」「部局割拠主義」といった難しい言葉になりますが、要するに「部門の縄張り意識によって派閥争いすること」がセクショナリズムです。
言わずもがな、セクショナリズムはビジネスにおいて不要な主義主張です。しかし、旧態依然とした日本企業では派閥争いが常態化し、業務の効率を下げていることがあります。セクショナリズムを改善するための基礎知識として、この章では用語の使い方について解説します。
セクショナリズムの言い換え
セクショナリズムを言い換えると、「縄張り意識」「縄張り根性」「派閥主義」といった言葉になります。自分の部門を大事にするあまり、他部門に対して攻撃的になったり、排他的になったりすることなので、「縄張り」や「派閥」という言葉で言い換えられます。
セクショナリズムを大きな組織にありがちな問題と捉え、「大企業病」「官僚主義」「縦割り主義」と言い換えることもあります。大企業の社員や公務員の中には保守的な人がおり、自分の立場を守るために必要以上に縄張りを意識して他部門を攻撃する人がいるからです。
セクショナリズムの例
企業におけるセクショナリズムは、部門間の争いという形で表面化します。
例えば、営業部門とマーケティング部門の争いです。営業部門は「契約が取れないのはマーケティングの資料が悪いからだ」と言い、マーケティング部門は「営業担当者に資料を活用する能力が足りないのが悪い」と言っている、といったケースはよくあります。
こうした諍いにおいて片方が100%悪いケースはほとんどなく、本来は両者が歩み寄って解決策を見つけなければなりません。しかし、「自分は仕事を頑張っている」という思いが強すぎる人は、「うまくいかないのは他人のせい」と考えるようになり、セクショナリズムが表面化します。
セクショナリズムの対義語
セクショナリズムの対義語は特にありません。無理やり対義語らしい言葉を挙げるなら、「協調」「協働」「協力」といった、組織の融和を表す言葉が該当するでしょう。
セクショナリズムは組織が分断され、内輪で争うことです。目指すべきはセクショナリズムの反対の状態である、部門どうしが協力して課題を解決できる組織です。明確な対義語はないにせよ、セクショナリズムの反対の状態をイメージして目標にしましょう。
セクショナリズムの種類
セクショナリズムは、大きく分けて「無関心型・非協力型」と「批判型・排他型」の2種類があります。片方だけに悩まされる組織もあれば、両方が課題となっている組織もあります。
所属する組織や身近なところでセクショナリズムが起きていないか、身の回りを思い出しながら確認していきましょう。
無関心型・非協力型セクショナリズム
「無関心型・非協力型セクショナリズム」は、「自分たちさえ良ければ、他の人や部門のことはどうでも良い、知ったことではない」というタイプのセクショナリズムです。
「無関心型」は、自分が所属する組織の業務領域内の環境変化や出来事にしか目を向けず、ほかの部門の状況に興味を持たないことです。仕事はひとつの部門で完結するものではなく、社内外の各部署が連携して進めるものなので、無関心型セクショナリズムの社員や部門がいると、仕事が滞る原因になってしまいます。
「非協力型」は、無関心型と同様、ほかの部門や社員の状況に関心を示しません。それどころか、他部門がピンチの状況にあっても助けることなく、「自分には関係がないからどうでもいい」という姿勢を貫きます。自分に関係ないことに首を突っ込み、後で責任を取らされても嫌だ、という事なかれ主義にもつながる考え方です。ここまで来ると仕事がスムーズに行かないどころか、困っている他部門との関係を悪くするので、社内の雰囲気が悪くなる原因にもなります。
無関心型も非協力型も、「自分が良ければあとはどうでもいい」という考え方に基づいています。チームワークを乱す原因になるので、改善が必要な考え方です。
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批判型・排他型セクショナリズム
「批判型・排他型セクショナリズム」は、他部門に対して攻撃的になるセクショナリズムのことです。
「批判型」は、ほかの部門や社員に対して敵対心を持ち、隙あらば攻撃してしまうタイプのセクショナリズムです。誰かがミスをしたときに必要以上に責め立てたり、自分がミスをしたのにほかの社員や部門になすりつけたりします。常に「自分は被害者だ」という考えを持っているので、関係のない人にもイライラをぶつけてしまいがちです。
「排他型」も他人を攻撃することですが、気に食わない社員や部門をチームの外につまはじきにしようとするなど、まさに排他的な言動が見られるセクショナリズムです。例えば、営業1課と2課が営業成績で競い合っているとき、隣の部署の悪い噂を流して足を引っ張ったり、隣の部署が持っている顧客を強引に奪ったりすることが、排他的セクショナリズムの事例として挙げられます。
批判型も排他型も、相手の業務に関心を持っているので、無関心型と非協力型とは異なります。むしろ自分の業務に近かったり、やってみたい憧れの業務だったりするので、必要以上に興味が湧きがちです。「自分だったらもっとうまくできるのに」といった妬みの感情が、他部門への攻撃となって現れます。
セクショナリズムが生まれる理由
部門が異なる社員同士こそ協力するべきですが、様々な理由からセクショナリズムが生まれ、うまく協力できない組織になってしまいます。
この章では、セクショナリズムが生まれる主な理由を解説していきます。職場の環境を改善するためにも、原因を押さえていきましょう。
不安や縄張り意識がある
セクショナリズムが起きてしまう背景として最も大きいのが、不安や無用な縄張り意識など、ネガティブな感情です。
素直に他部門と協力できない背景には、「協力したら自分の業績を奪われるのではないか」「他人の仕事がうまくいくのを指をくわえて見ているのは面白くない」といった感情があります。つまり、自分を差し置いて他人が評価されるのを見るのが辛いのです。
このように、他人が活躍すると、自分の縄張りが犯されるような気がして不安になる人がいます。こうした性格の人には、他人の評価とその社員の評価は全く関係ないことを理解してもらう必要があります。不安をやる気に転換できるような発想方法も身に付けてもらうと良いです。
全体の利益を考えられない
セクショナリズムに陥ってしまう背景には、全体の利益を考えられず、自分の利益しか考えていないことも挙げられます。
セクショナリズムらしい考え方をしてしまう人も、他部門との協力が重要である事はよくわかっています。それでも実行に移せないのは、自分の利益を最優先したくなってしまうからです。例えば、「他部門が忙しくても自分は定時で帰りたい」「他部門の成果が上がっても、自分の給与には反映されない」といった心理です。
こうした心理的なブロックを乗り越えて、他部門と協力しなければなりません。会社員である以上、職場においては全体的な利益を優先してもらうよう、社員に啓発を行うとともに、給与への反映など、仕組みを整えていきましょう。
他部門の大変さを理解できない
ジョブローテーション(人事異動)の少ない企業では、他部門の大変さを理解できていないため、セクショナリズムに陥ってしまう社員がいます。経験していない部門の大変さを想像できず、「自分の方が頑張っている」「他部門の人はいつも大変だと言うが、自分の方が大変だ」と考え、非協力的になってしまうのです。
従来の日本企業の総合職は、数年おきに部署を異動するのが一般的でした。しかし、近年は業務内容の複雑化に伴い、スペシャリスト志向が高まり、同じような部門に長く勤める人が増えています。結果として、他部門の苦労が想像できず、セクショナリズムに陥ってしまう人が出てくるのです。
経験していないことを想像するのは難しいので、複数の部署を経験してもらい、部門どうしの理解につなげていきましょう。
セクショナリズムが強い組織のリスク・問題点
セクショナリズムは全てが害悪というわけではなく、適切な程度であれば、「隣の部署よりも高い成果を上げるぞ」とモチベーションにつながります。しかし、セクショナリズムが過剰になると、組織の活動がスムーズにいかなくなり、いろいろな弊害が起きてきます。
この章では、セクショナリズムによって引き起こされる問題点やリスクについて解説していきます。こうした問題が発生する前に対処していきましょう。
部門間の連携ができなくなる
セクショナリズムが行きすぎると、部門どうしの連携ができなくなるリスクがあります。異なる部門同士でコミュニケーションを取ろうとしなくなったり、攻撃しようとしたりすれば、連携できなくなるのは当然です。
さらに、仲の悪い部門どうしによる業務妨害も起こり得ます。チームのリーダーから「メンバー全員に伝えておくように」と情報を受け取った人が、自分の部門にだけは連携し、同じチームの他部門の社員には連携しないといった妨害です。
社員のストレスが増加する
セクショナリズムによって業務を妨害された社員は、ストレスを積らせることになります。ストレスを抱えた社員が体調を崩して離脱したり、会社を退職したりする可能性があります。
セクショナリズムは、こうした考えを持つ当人よりも、その周りにいる被害者の方に大きな影響をもたらします。むしろ本人は、他部門を攻撃するなどの振る舞いにより、ストレスを発散していることが多いです。したがって、ストレスを受け止める側の社員を適切にケアすることが重要です。
顧客や取引先の信用を失う
セクショナリズムが過剰になると、影響は社外にも波及し、顧客や取引先の信用を失う事態になってしまうかもしれません。外部からの評価にも影響するので、改善が必要です。
例えば、顧客から問い合わせを受けた営業担当者が、自分の知識だけでは回答できなかった場合です。技術部門など他部門に質問したり取り次いだりすれば良いのですが、行き過ぎたセクショナリズムの考えを持つ人は、他部門には頼らず自力で解決しようとします。その姿勢自体には良い所もありますが、正確な回答ができなかった場合、顧客の信用を失うでしょう。
こうしたずさんな対応をする社員がたった1人でもいれば、会社全体がいい加減な仕事をしていると見なされるリスクがあります。組織全体の信用や評判に関わるので、たとえ少人数でもセクショナリズムを軽視してはいけません。
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セクショナリズムの改善方法
過剰なセクショナリズムは、組織を疲弊させ、生産性を低下させることにつながります。部門間の対立に悩まされる企業などは、今すぐにでも改善に着手しましょう。
この章では、セクショナリズムを改善する方法について解説します。できるものから取り入れて、職場環境を整えましょう。
ジョブローテーション(人事異動)を導入する
大きな企業で部門がいくつもあり、人材が固定している場合は、ジョブローテーション(人事異動)を導入してみましょう。他部門の業務や大変さを知ることで、部門どうしの争いを抑えることができます。
社員がセクショナリズムの考えに陥り、非協力的な態度をとってしまう背景には、相手のことを正しく理解できていないという側面があります。興味を持たない無関心型・非協力型セクショナリズムの人には、ジョブローテーションによってさまざまな領域を経験してもらい、無関心でいられない状態にします。
また、他部門に対して攻撃的な批判的・排他的セクショナリズムの人も、他部門の仕事を誤解しています。他部門を経験してもらうことで、外から見ていた印象と現実の違いを理解してもらいましょう。一度経験すれば、「あの部門は楽そう」「自分のほうが活躍できる」といった考え方を改めてもらいやすいです。
評価制度を見直す
過度に競争意識をあおられる制度の場合、自分の部門を大事にするあまり、他部門を攻撃するセクショナリズムに陥りやすいです。評価制度を見直し、セクショナリズムが起こりにくいように環境を整えることも重要です。
具体的には、相対評価ではなく、絶対評価で部門や個人を評価するといった方法です。相対評価だと、自分の部門の評価を上げるために、他部門の評価を下げようと考える人が出てきてしまいます。各部門が成果を上げるためには、部門どうしを比べるのではなく、絶対的な評価を行いましょう。
また、絶対評価をするためには、評価軸を確立することが大切です。あらかじめ目標を決めておかなければ、上司の気分によって事後的に評価が左右されてしまい、「評価が不当だ」と感じる社員が出てくるからです。どのようなゴールに向かって走るのか目標を決め、その達成状況を評価するようにしましょう。
企業研修を導入する
チームワークを養うために、企業研修を導入することも効果的です。職場でいきなり「チームワークが大切だ」と説いても、理解してもらえなかったり、実践に結びつかなかったりします。外部の講師が主催するアクティビティ形式の研修などを導入し、社員が素直に考え方を変えられるようにアシストしましょう。
例えば、メンバーが協力して1つの目標に取り組むチームビルディング研修がおすすめです。リーダー候補、幹部候補の社員が対象なら、リーダー研修やマネージャー研修を受講させ、組織全体を見る力を養ってもらうのも良いです。
企業研修の良いところは、練習の場なのでいくらでも失敗できることです。良い意味で肩の力を抜けるので、実際の職場に比べて摩擦が起こりにくいです。職場よりも素直になれる人が多いので、過度なセクショナリズムをほぐすことができます。