ワークライフバランスへの取り組み方とは?企業が取り組むべき施策を解説

仕事と私生活のバランスは、幸福な生活を送るための鍵です。この記事では、働く人々がいかにして仕事とプライベートを調和させ、両方を充実させるかに焦点を当て、実践的なアプローチを探ります。

日本経済と労働市場の変化を踏まえ、ワークライフバランスが個人、企業、社会にもたらす利点を考察し、持続可能な働き方の道を探求します。

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ワーク・ライフ・バランスの取り組みとは

ワークライフバランスは、仕事と私生活の健康的な均衡を保つことです。政府広報オンラインによると、ワーク・ライフ・バランスとは「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」を意味します。これを実現するためには、時間管理が重要で、優先順位を設定し、スケジュールを計画的に管理します。

仕事の効率を上げるためには、単にタスクを他の人に任せる(委任)だけでなく、それをより具体的に行うことが重要です。また、ストレス管理のためにリラクゼーションの時間を確保し、趣味や運動を取り入れることが重要です。

職場では、柔軟な勤務体系の導入やオープンなコミュニケーションを促進することが効果的です。自分の限界を理解し、必要に応じて自己ケアや専門家の助けを求めることも大切です。
精神障害の請求、決定及び支給決定件数の推移
参考:厚生労働省「精神障害に関する事案の労災補償状況」より

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ワークライフバランスが注目されている背景

ワークライフバランスが注目される背景には、私たちの生き方や価値観の変化があります。

バブル崩壊以前の日本では、経済は成長する一方で、働けば働くほどお金を稼げて豊になれました。お金があれば幸せとは言い切れませんが、「仕事の頑張りが報酬になって返ってくる時代」だったとは言えます。

しかしバブルが崩壊し、日本の経済は低迷したまま30年以上が経過しています。多少の賃上げはありましたが、それ以上に物価や税金・保険料が上がり、実質的な収入は減っていると感じている人が大勢います。ならば仕事は楽になったのかというとそうではなく、社会の複雑化にともない、会社員の業務量は増加しています。

こうした現状を背景に、膨大な業務量や厳しすぎる職場環境に耐えられず、自ら死を選んでしまう人もいます。本来、人生を豊かにするために仕事があるのに、仕事のために命を犠牲にするような社会になってしまったのです。

今後、著しい経済成長が期待できない日本では、身を粉にする働き方ではなく、長く継続できるサステイナブルな働き方が必要です。こうした考えから、仕事とプライベートを両立する「ワークライフバランス」に注目が集まっているのです。

企業がワークライフバランスに取り組むメリット

暮らしの充実やメンタルの健康プライベートの充実など、ワークライフバランスがもたらす個々の従業員へのメリットはわかりやすいです。一方で、会社にとってのメリットは見えにくく、企業として取り組む理由を見出せない方がいるのも事実です。経営層としては、「プライベートを充実させるのは結構だが、残業はサボらないでよね」と感じても仕方ありません。

しかし、社員のワークライフバランスに取り組むことは、企業にとってもメリットがあります。どのようなメリットがあるのか、詳しく解説していきます。

優秀な人材を採用できる

ワークライフバランスに取り組むと、優秀な人材から選ばれやすくなるメリットがあります。優秀な人を採用して長く会社に勤めてもらうことが期待できるのです。

従来は「会社が労働者を選ぶ」という考えが暗黙の了解でしたが、近年の労働市場ではこの構図が逆転しています。背景には、少子化により若い世代の人数が少ないことや、社会の変化するスピードが速く適応力のある若い世代を採用したい企業が多いことなどが挙げられます。すなわち、「労働者が会社を選ぶ」という構図になってきているのです。

このような環境において、優秀な人は引く手あまたなので、自分にとって理想的な会社を厳選することができます。労働者が会社を選ぶときに重視するポイントのひとつが「ワークライフバランス」なので、これに取り組むことで労働者に選ばれやすい企業になれます。

優秀な人材を採用し、会社に定着させることは、どんな企業にとっても非常に重要です。ワークライフバランスには、優秀な人材が辞めにくいというメリットがあるのです。

生産性が向上する

ワークライフバランスには、社員の生産性を高めるメリットもあります。仕事と生活のバランスを取ることで体調やメンタルが安定し、仕事へのモチベーションが高まりやすいからです。

プライベートを犠牲にしてストレスを溜めた状態で仕事をしても、良い成果につながらないのはご理解いただけると思います。「だらだら仕事をして残業代を稼ごう」と考える、やる気のない社員が出てくるかもしれません。

仕事を頑張るためには、プライベートの充実も大切です。特に、努力が成果や給与に必ず結びつくとは限らない複雑な現代社会では、仕事を長く頑張り続けるためにも、生活との両立が大切です。働けば働くほど利益が出て給料やボーナスが上がる時代ではないので、現代社会に合った方法で生産性を高めましょう。

多様な価値観を取り入れられる

ワークライフバランスに取り組むと、多様な属性の社員を採用しやすくなります。その結果、多様な価値観を取り入れられるので、商品やサービスの品質向上や、職場環境や社内の制度の改善ができるメリットがあります。

朝から晩まで働き、ときには土日も出社するワークスタイルが当たり前の会社は、「それができる人」を選んで採用しなければなりません。そのため、採用されるのがタフな男性などに限られ、会社が閉鎖的な空間になっていました。

閉鎖的な企業は、不正が明るみに出にくい隠ぺい体質などのデメリットがあります。同じような属性の人たちが揃っているので、革新的なアイディアも出にくいです。

こうした状況を打開するためにも、女性や障がい者、外国人などさまざまな属性の人を採用したいところです。そのためには、企業としてワークライフバランスを推進するなど、誰もが働きやすい環境を整える必要があります。

人事評価制度を刷新できる

ワークライフバランスを推し進めるとき、従来の人事評価制度の壁にぶつかります。これを打破することで、企業体質が生まれ変わるというメリットがあります。

「長い時間働ける人が優秀」といった従来の価値観だと、「遅くまで職場に残っている」という理由だけで、だらだら残業している社員が高く評価されることがありました。ときには、効率よく生産性の高い仕事をして定時に帰る社員が「もっと頑張りなさい」「残業している〇〇さんを見習いなさい」と言われることも。これでは、生産性の高い人材を低く評価し、時間を無駄遣いしている社員を高評価しており、本末転倒です。

ワークライフバランスを推し進めると同時に、短時間勤務や在宅勤務など、多様な働き方を導入するのが一般的です。こうなると、「長い時間、職場に残っているか」ではなく、社員個人の生産性やアウトプットのレベルを評価しなければなりません。従来の評価制度の悪い点を刷新できる点でも、ワークライフバランスの推進はメリットをもたらします。

企業のイメージアップにつながる

「ワークライフバランスの向上に取り組んでいる」ということが労働者や消費者に伝われば、企業のイメージアップにつながるメリットがあります。

「ホワイト企業」「ブラック企業」という言葉をご存じでしょうか。一般的にも定着してきた言葉で、社員を大切にするのが「ホワイト企業」、社員を奴隷のように扱うのが「ブラック企業」です。企業がワークライフバランスをないがしろにしていることが世間に伝わったら、たちまち「ブラック企業」の烙印を押されてしまいます。最近はSNSで企業の内情が暴露されることがあり、不買運動に発展して企業の業績に深刻な影響をもたらすリスクがあります。

反対に、ワークライフバランスに真剣に取り組んでいる企業は、社員を大切にする「ホワイト企業」と言えます。労働者から選ばれるだけでなく、顧客や消費者からも「良い企業だからサービスを利用したい」と選ばれるようになります。

ワークライフバランスの実現に効果的な施策

社員個人だけでなく、企業にとっても大きなメリットがあるワークライフバランス。実現していくためには、何をすれば良いのでしょうか。この章では、ワークライフバランスの実現に効果的な施策を紹介していきます。

休暇取得の促進

社員が充分に心身を休められるよう、休暇の取得を促進しましょう。

例えば有給休暇です。従来の日本企業では、付与される有休を使わずに期限切れにすることが美徳とされていましたが、このような状態ではワークライフバランスなど実現できません。チームのリーダーやマネジメント層が積極的に有休を取得し、部下も休みやすい雰囲気を作りましょう。

また、育児休暇も多くの企業で課題となっています。産休・育休を取得した女性が、職場に復帰しづらいからです。確かに数年のブランクがあるので、復帰してすぐに第一線で活躍するのは難しいかもしれませんが、できる限り本人の望むキャリアに配慮した配置が必要です。

一方で男性が育児休暇を取りにくいという問題もあります。これも、マネジメント層が休暇の取得を促すなどの対応が良いでしょう。男女関係なく優秀な人材が長く働けるように、企業側からサポートする必要があります。

残業時間の削減

長時間労働が常態化している企業は、残業時間の削減に取り組みましょう。

まず始めに、各社員への業務の割り当ては適切かどうかを調査します。仕事が多い社員と少ない社員がいるなら、ならす方法を考えます。全体的に業務量が多く、社員のキャパシティーが足りていないなら、採用やアウトソーシングなどで解決します。

こうした取り組みをした上で、ノー残業デーなど残業時間を減らす制度を導入し、定時までに成果を出す企業文化を作りましょう。社員の仕事量を把握する前に「19時までに退社すること」などのルールを定めても、こっそり仕事を持ち帰って処理する社員が出てくるなどして大きな問題に発展します。

多様な勤務制度の導入

短時間勤務やフレックス勤務など、可能な範囲で多様な勤務制度を導入しましょう。9時に出社して17時の定時まで仕事をする、といった一般的な働き方がそぐわない人もいるからです。

「時短勤務は育児をする女性のための制度」という認識を持っている企業や個人が多いのですが、そうではありません。近年は親の介護のため、「本当は短時間勤務が良いんだけど…」という人が増えています。

介護をする世代は管理職クラスであることが多く、自分から短時間勤務にしたいと言えない人が多いです。また、それまでに「短時間勤務なんて甘え」などと発言した経験があり、今さら自分からは言い出せないという人も。

どんな事情を抱えている人でも柔軟な働き方ができるよう制度を整え、偏見を持つ人には丁寧に説明して理解してもらいましょう。

テレワークの導入

テレワーク(在宅勤務)も、多様な働き方ができる良い制度です。家庭と仕事を両立したい社員や、自宅と職場が離れており通勤時間がもったいない社員にとって、疲労の軽減や生産性の向上といった効果があります。

また、企業にとってもテレワークは良い効果があります。社員が通勤するための交通費を削減できたり、優秀だけど通勤ができない障がい者の雇用ができたりするからです。

仕事の効率を上げる

ワークライフバランスを改善し、仕事の効率を上げるには、タスクの効果的な管理が鍵です。

まず、大きな仕事を小さなタスクに分割し、それぞれに優先順位をつけます。次に、各タスクに最適な人を選び、明確な指示と期限を設定します。進捗を定期的にチェックし、サポートを提供することで、スムーズな進行を促進します。また、作業環境を整え、集中力を高めるために短い休憩を取り入れることも重要です。

これにより、効率的に仕事を進めることができ、プライベートな時間を確保できます。

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ワークライフバランスを推進する進め方

ワークライフバランスを実現するための施策を紹介してきましたが、すぐに導入して効果があるかどうかは、企業の状況によって異なります。短時間勤務や在宅勤務をすぐに導入して問題ない企業もあれば、社員の考え方を変えるところから始めなければならない企業など、状況は個別の企業によってさまざまだからです。

この章では、ゼロから始めてワークライフバランスを推進する流れを解説します。自分の会社の状況に応じたステップから始めていきましょう。

ステップ1:マネジメント層の理解を深める

ワークライフバランスを推進するためには、マネジメント層がその重要性を理解することが重要です。各種の制度を整える前に、マネジメント層にワークライフバランスを理解してもらいましょう。

もし、「若いうちはサービス残業でも頑張ることが大切だ」といった考え持つマネジメント職がいたら、彼らが納得する前に短時間勤務や在宅勤務を導入しようとしても逆効果になってしまうかもしれません。マネジメント層の中で意見が分かれて無用な軋轢が生じたり、制度を導入しても部下など立場が低い人たちが遠慮して使わなかったりするからです。そうならないためにも、チームのメンバーを管理する立場にあるマネジメント層の意識を変革しましょう。

批判的な考えを持つ人は、ワークライフバランスについて誤解している可能性があります。正しい意味と効果を理解してもらえれば共感してくれるものです。企業研修を導入したり、社内で勉強会や意見交換を行い、ワークライフバランスについての理解を深めましょう。

ワークライフバランスに関する企業研修としては、働き方改革研修がおすすめです。仕事とプライベートの両立は甘えではなく、仕事の生産性を高めるためにも必要だということが、研修を受講すれば納得できます。研修経験が豊富な講師に教えてもらえば、旧来の考えに固執している人も、新しい価値観を受け入れやすいです。

ステップ2:長時間労働を改善する

ワークライフバランスが実現できていない企業では、長時間労働が常態化していることが多いです。マネジメント層の理解を得られたら、次のステップとして、長時間労働の改善に取り組みましょう。

まずは、なぜ長時間労働が常態化しているのか、理由を見極める必要があります。企業によって異なりますが、多くは以下のような理由に集約されます。

  • 仕事量が多すぎて、定時までに終わらせることができない
  • 長く働いていると、真面目な社員として評価される
  • 自宅よりも会社のほうが居心地が良く、つい居残ってしまう

自分の会社にはどのような問題があるのかを見極め、対策をしていきましょう。

1つめの仕事量が多すぎる問題は、人員の配置を見直したり、新たな人材を採用したりすることで解決できる場合があります。どうしても社員のキャパシティーよりも仕事量のほうが多くなるなら、一部の業務をアウトソーシングしたり、デジタルツールの導入によって手間を減らしたりすることも考えられます。

2つめは、職場に長時間いる人は真面目に頑張っていると評価される問題です。反対に、残業をせず定時に帰る人は評価が低くなる傾向にあります。社員の価値観を変えるためには、ワークライフバランスを説明するだけでは不十分です。全員が定時に仕事を終えて退社する「ノー残業デー」を導入したり、「プレミアムフライデー」を自社流にアレンジしたりして、定時までに仕事を終わらせようという意識を根付かせましょう。

3つめのように、会社の居心地が良いのでなかなか帰らない、という人もいます。生産性の低下を招いているようでしたら、ノー残業デーの導入など上述した方法で対処していきましょう。

ステップ3:多様な働き方の制度を整える

最後に、多様な働き方の制度を導入し、社員の職場環境を整えていきます。例えば、短時間勤務や在宅勤務、フレックス勤務などです。

ステップ1と2を通して勤務時間の長さよりも限られた時間でアウトプットを高める生産性のほうが大事、という価値観を根付かせられれば、社員は多様な働き方に理解を示せるはずです。

もし、マネジメント層の理解がなく、長時間労働が常態化した職場に、強引に短時間勤務などの制度を導入すると、社員が反発する可能性が高いです。その制度に馴染めない人を排斥することになりますし、制度を利用したい人も遠慮して使えないようになってしまいます。

ワークライフバランスを導入しようとして、職場のストレスや諍いが増えて人間関係が悪化しては意味がありません。紹介したように手順を踏み、新しい価値観を職場に馴染ませつつ、各種の制度を導入していきましょう。

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