有名企業の経営理念を例に挙げながら良い経営理念の条件や効果を解説

激しさを増す地球環境の変化、グローバル化、技術革新の中で、企業はかつてない存続の危機に晒されています。

社員の多くは効率化を最優先して作られた組織の中で、日々の仕事に忙殺されています。
狭い業務範囲の中で仕事をこなすためには、顧客や競合他社に対する意識よりも、自社内の都合で仕事をこなしてしまう方が効率的で、その結果として内向き傾向が強くなっています。

このような状況は、短期的には業務は回りますが、長い目で見ると周囲からどんどん遅れをとってしまうリスクを抱えてしまいかねません。

経営の神様と言われた松下幸之助氏は、「企業経営の成否の50%は経営理念の浸透度で決まる。残りの30%は社員のやる気を引き出す環境、残りの20%は戦略・戦術である」という言葉を残しました。
しかし企業は、組織改編や人事制度改革などは頻繁に行うにも関わらず、経営理念についてはおざなりになりがちです。

では、経営の神様はどうして企業経営の成否は経営理念の浸透度で決まるとおっしゃったのでしょうか。
今回はその点について、有名企業の経営理念を例に挙げながらわかりやすく考察していきます。

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個性的な経営理念を持つ企業の事例紹介

個性的な経営理念を持つ会社の特徴として、それぞれの企業が営んでいるビジネスの内容を的確にとらえ、本質を付くような内容となっています。

ややスローガン的な表現になっている場合は、補足的に従業員の行動規範やビジョンを丁寧に設定し、誤った捉え方をされないような注意が施されています。

企業名 経営理念 解説・補足
カシオ計算機 創造 貢献 それまでにない斬新な働きを持った製品を提供することで、社会貢献を実現するという意味です。
東武トップツアーズ “Warm Heart”~ありがとうの連鎖を~ 「人」が主人公であり、財産であることを経営の根幹として位置付け、下記のような説明が添えられています。
仕事を通じてお客さま、お取引先、そして地域の人々とともに明日(あした)へつなぐ「ありがとう」を共創し、安全・安心と最上のサービスにより期待を超える感動を創造します。
セーレン のびのび いきいき ぴちぴち
~自主性と責任感と使命感をもって~
三つのキーワードで、自主性・責任感・使命感を表現し、この明解なコンセプトを基にグループ内で働く全社員の意識統一を図っています。
清和鋼業 必要なときに、必要なものを、必要な量だけ 商社の本質を的確に表した、明解な表現が用いられています。徹底的か顧客志向の姿勢を感じることができる内容です。
吉野家ホールディングス For the People
すべては人々のために
お客様だけではなく、従業員も含めたすべての人々のために「人」のためを考え、「人」を大切にし、「人」に必要とされたい。
そして、社会との共生を積極的に図り、地球環境を守りたい。という思いが込められています。

経営理念を明確に定めている企業の事例紹介

経営理念をはっきりとした形で定めずに、企業行動指針であったり、中長期経営戦略の中に経営理念に記載すべき内容が罹れている場合も多いです。

ここでは、経営理念として明確にHPに記載がある企業をとりあげてみました。
中には、企業理念が特に記載されておらず、経営理念が企業理念的な内容になっている企業もあるようです。

企業名 経営理念 解説・補足
キリンホールディングス キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します 社会における永続的、長期的なキリンの存在意義として定義しています。
ANAグループ 安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢にあふれる未来に貢献します 「安心と信頼」が強く強調されています。これはANA グループとお客様との約束であり、経営の根幹に位置づけられる私たちの責務であるからだと述べられています。
ソフトバンクグループ 情報革命で人々を幸せに グループの成長戦略として別途、「群戦略」という言葉を用いています。これは、特定の分野において優れたテクノロジーやビジネスモデルを持つ多様な企業群が、それぞれ自律的に意思決定を行いつつも、資本関係と同志的結合を通じてシナジーを創出しながら、共に進化・成長を続けていくことを志向することを意味しています。
京セラグループ 全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること。 小さな町工場からスタートした同社は、社員一人一人が企業のために精一杯努力し、経営者は従業員の信頼に精一杯応えるという社風があったからこそ、成長することができたのだと捉え、従業員の幸せを第一義として押し出しています。
ヤマトグループ ヤマトグループは、社会的インフラとしての宅急便ネットワークの高度化、より便利で快適な生活関連サービスの創造、革新的な物流システムの開発を通じて、豊かな社会の実現に貢献します。 ヤマトグループが事業を営んでいく目的、企業としてこれからめざすべき方向をさし示したものです。日々の生活・暮らしを支える企業としての覚悟のような、強い意思表明として強く伝わってきます。
PPIHグループ
(ドン・キホーテなどを経営)
第一条 高い志とモラルに裏づけられた、無私で真正直な商売に徹する
第二条 いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する
第三条 現場に大胆な権限委譲をはかり、常に適材適所を見直す
第四条 変化対応と創造的破壊を是とし、安定志向と予定調和を排する
第五条 果敢な挑戦の手を緩めず、かつ現実を直視した速やかな撤退を恐れない
第六条 浮利を追わず、中核となる得意事業をとことん突き詰める
企業理念にあたる企業原理として、「顧客最優先主義」を掲げており、その企業原理と経営理念は、未来永劫不滅なPPIHグループ独自の矜持(きょうじ)と存在理由として位置付けてられているようです。

経営理念の役割をわかりやすく解説

経営理念とは、経営者が経営を行う際の基本となる「価値観」や「信念」、「哲学」などに基づき、企業理念からは逸脱しない範囲で活動指針を社内外に示すために明文化したものです。

企業理念は創業者の思いや理想などを基に定められていることが多く、不変的な意味合いが強いですが、経営理念は時代に即した、具体性のある戦略が見えるような内容になっていることが特徴です。

具体的にはどのように事業を進めていくのか、経営を行う上で何を判断基準としていくのか、について明確にした内容となっています。

企業理念との違いを考える

企業理念とは、「私たちの企業はこうあるべきだ」という基本的な考えを明文化したもので、経営理念も含め、全ての判断の基準となりますので、簡単に変更したりするものではありません。

一方で、経営理念は「内容を変化させやすい」ものです。
経営者が交代したり、企業を取り巻く環境の変化に応じた場合は、むしろ何度でも再定義して変化に対応すべきです。

両者の立ち位置は、日本国憲法と各種法令との関係によく似ています。

政治家は、その時代の情勢に合わせて法令を策定し、日本国のかじ取りを行っているわけですが、決して日本国憲法に反する政治を行うことは出来ません。

例えばコロナ禍において、諸外国ではロックダウンが実行され、強制的に様々な行動制限がなされたわけですが、日本では強制力のない要請に留まり、ロックダウンは実施されませんでした。

これは日本国憲法において「私権」を強制的に制限することが禁じられているため、ロックダウンのような強制力のある行動制限が出来ないからです。

このように、状況的にはロックダウンは必要ではないか、という情勢になったとしても、日本国憲法に反していれば行うことは出来ません。

企業例年に定めてある不変的な基準の範囲の中で、経営理念は策定され、実行されていくわけです。

ミッションとの違いを考える

ミッションとは、企業が社会において果たすべき使命であり、存在意義そのものを具体的に対外的に伝えるために表現したものです。

しかし一方で、会社が達成すべき目的として対外的にコミットしている内容を全社員が共有し、個々の社員がその内容に責任を持ち、行動するように導く目的も込められています。

従って、経営理念をかみ砕いて具体的な施策に落とした内容となるケースが多く、細かな説明がなくても、読んだだけで企業の成長性を感じ、やるべきことが理解できる内容にしなければなりません。

例として、トヨタ自動車株式会社のミッションをご紹介いたします。

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わたしたちは、幸せを量産する

だから、ひとの幸せについて深く考える
だから、より良いものをより安くつくる
だから、1秒1円にこだわる
だから、くふうと努力を惜しまない
だから、常識と過去にこだわらない
だから、この仕事は限りなくひろがって
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良いものを安く「量産する」という、モノづくり企業の原点ともいうべき言葉を使いながら、生み出すのはモノではなく「幸せ」という価値観であることを表現しています。
そして、今ささやかれている自動車メーカーの限界を越えて、新たな姿に生まれ変わり、今後も成長し続けるという覚悟を示す内容となっています。

ビジョンとの違いを考える

ビジョンとは、企業が「企業理念」に基づいて作成した目標などのことで、例えば事業を通じて中長期的に達成したい目標を具体的に掲げる形で表現します。

そこには時間軸が存在しており、時代の変化に伴い都度変化することが望まれている点が企業理念との大きな違いですが、役割としては企業理念と似ています。

しかし、理念と違い、掲げることが目的ではなく、実際に行動に落とし込み、どれだけ実際に達成できたのか、ということが問われます。

例として、トヨタ自動車株式会社のビジョンをご紹介いたします。

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可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える

不確実で多様化する世界において、トヨタは人とモノの「可動性」=移動の量と質を上げ、人、企業、自治体、コミュニティができることをふやす。
そして、人類と地球の持続可能な共生を実現する。
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地球環境問題≒二酸化炭素排出問題の批判対象になりやすい自動車メーカーですので、「SDGs」を強く意識しながら、より良い世界になるためには可動性(モビリティ)は重要な要素であることをアピールする内容となっています。

良い経営理念の条件とは

それでは、良い経営理念とはどのような条件を兼ね備えているのでしょうか。

企業として到達したい未来像として策定される「経営ビジョン」や、その「経営ビジョン」を実現するための施策である「経営戦略」や「経営戦術」と違って、抽象的な内容になりがちですので、下記の点に注意をする必要があります。

  • 世界中の人が理解できる、わかりやすい表現がなされていること
  • 内容に一貫性があり、企業理念やミッション、ビジョンなどを整合性が取れていること
  • 自社のおかれている状況や業界の動向などにマッチしていること
  • 企業の成長性や未来の姿を描かせる力を持っていること
  • 今後の経営戦略や経営ビジョンについて社員に納得性を与えられること
  • 環境問題に配慮し、社会貢献につながる内容が盛り込まれていること

経営理念を浸透させることで生まれる効果

それでは、経営理念がもたらす具体的な効果について、わかりやすく解説していきましょう。

社員が納得した上で業務を遂行することができる

経営者が経営判断によって決断し、実行する際、しっかりと経営理念が浸透していれば、会社の施策について、どのような「信念」や「哲学」の元に考えられたのかを社員は推察することができます。

そして、その判断を社員全体が遂行するにあたって、何をどのように取り組んでいく必要があるのかについて、一人一人が共通理解の上で想像し、意思統一された状態で一丸となって進んでいくことを可能にします。

その積み重ねが、会社経営者と社員との間で共有・形成される独自の価値観や文化、いわゆる「企業文化」を醸成していくこととなります。

人が行動するとき、説得されるか、はたまた納得するか、この2つに分かれますが、説得された上での行動は長続きすることはありません。
人は納得して初めて行動し続けることができる生き物です。

企業の持続性を生み出すためには、経営理念はとても重要であるということです。

社員のエンゲージメントやパフォーマンスの向上させる

もし仮に、その行動が説得された上であったとしても、「共感」が生まれればそれは納得に変わっていきます。

経営理念には、「世の中にどのように貢献していくのか」「世の中にどのような価値を提供していくのか」といったメッセージが込められているわけですが、こうしたメッセージ性が社員に伝わることで、「今自分が行っているしごとは最終的には社会のためになっている」「社会に貢献することを目的とした価値観の企業に所属している」という感覚を持つことができ、それにより共感を得やすくなります。

共感は社員の帰属意識につながっていくので、「社員のエンゲージメント」の向上が期待できます。

社員のエンゲージメントが向上すれば、自発的・積極的に仕事に取り組む従業員が増えていきます。
判断基準に迷うことなく、各々が考え行動する意識が芽生えることで、パフォーマンスの向上にもつながっていくわけです。

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企業価値やブランドイメージを向上させて資金と人材の確保を助ける

経営理念は、企業公式のウェブサイトや会社案内のパンフレットなどを通じて、社内外に積極的に発信されています。
これは主に、就職活動を行っている学生や投資家、ビジネス上の取引先に対して、経営を行う上での経営者の信条や、企業の社会的責任を伝えて、企業を魅力的に感じてもらうことを目的としています。

経営理念を社外に示すことにより社会的信頼が得て、企業価値やブランドイメージを向上させて、「この会社で働きたい」と希望する求職者を確保したり、「この会社を支援したい」と考える投資家や得意先を増やす効果が期待できます。

また、地球環境への対策や顧客の健康や安全への取り組みなど、CSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)に対する意識は高まっており、取引先に対して、CSRを要請する企業が増えつつあります。

企業がビジネスを行う際に、利益を最もあげることができる企業と取引をすれば良いという考え方ではなく、同じ志や考え方、環境への取り組みや価値観を持つ企業と積極的に取引をしようという発想が生まれています。

従って、経営理念に関しても、いかにビジネスを成功させるのかという発想だけでなく、環境問題などにも配慮する姿勢を示すことも重要な時代となってきています。

経営理念は策定しても確立しなければ意味がない

経営の神様として称される松下幸之助氏は、企業経営が成功するための絶対条件として、経営理念の確立を挙げられています。

良い内容の経営理念を作成することが目的ではなく、確立させることができるかどうかが、企業経営の鍵であるというわけです。

経営理念が社員の間で確立することができれば、社員が生き生きと個性を活かす企業文化が自然と育ち、社員が育てば戦術戦略は後からついてくる、まさに正のスパイラルが回り始めるようになっていきます。

経営理念としてどのような内容を制定しようかと考えている会社も多いかと思いますが、問題は内容ではなく、いかに社員に浸透させて確立させるのかにかかっています。

持続可能な、成長し続ける企業を目指すのであれば、「経営理念」を浸透させることから取り組みましょう。

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