「働きやすさ」から「働きがい」へと、価値観が変わってきています。従来、従業員に重視されたのは待遇や福利厚生などの「働きやすさ」でしたが、最低限の環境は現代ではもう当たり前となっています。今、企業に求められているのは、働きやすさよりも一歩進んだ、「働きがい」です。
働きがいのある会社には、高い生産性や良好な業績といった共通点があります。会社の業績を上向きにするためにも、会社として社員の働きがいに取り組む必要があるのです。
この記事では、働きがいとは何か、どうすれば働きがいを高められるのかを解説していきます。記事をヒントに、社員の働きがいに真剣に取り組んでいきましょう。
働きがいとは
「働きがい」とは、社員が仕事を通じて喜びを得られることです。
働きがいは、「働きやすさ」と似ていますが、少し異なる概念です。働きやすさとは、「残業がなく定時で帰れる」「高い給料が得られる」「福利厚生が充実している」など、社員本人を取り巻く環境に左右されます。会社が与える待遇そのものとも言えます。
働きがいは、「仕事に誇りを持っている」「社会に貢献していると感じる」「お客様の役に立っている」など、仕事を通じて社員が充実感を得ることです。環境だけを整えて働きやすくしても、働きがいが向上するとは限りません。
働きがいが注目されている背景
働きがいが注目される背景には、生産性向上や働き方改革、SDGsなど、さまざまな社会問題があります。
まず、社会の複雑化や価値観の多様化など、企業を取り巻く環境は非常に早く移り変わっています。このような社会に対応するためには、企業自身もスピーディーに事業を回さなければならず、生産性の向上がマストの課題となっています。社員自身も、従来は上から指示されるのを待つだけでも良かったのですが、現在は自ら積極的に働き、生産性を高めることを求められています。
社員自身の人生の充実と言う面からも、働きがいは重要です。昭和的な身を粉にする働き方で、自らの命を絶ってしまう悲惨な事件があったことは、皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。こうした状況を改善する働き方改革の一環としても、働きがいは重視されています。
また、SDGsの目標8は「働きがいも経済成長も」です。「みんなの生活を良くする安定した経済成長を進め、だれもが人間らしく生産的な仕事ができる社会を作ろう」という内容で、国際的には途上国で酷使される子どもの兵士などを想定しています。しかし、日本は戦争こそないものの、仕事のために自分を犠牲にしている人が多い国です。SDGsのこの目標は、日本も真剣に取り組まなければなりません。
こうした背景から、働きがいに注目が集まっています。参考:外務省『グローバル指標(SDG indicators)』
働きがいを構成する要因
アメリカの心理学者、フレデリック・ハーズバーグ氏が唱えた「二要因理論(動機付け理論)」によると、働きがいは「動機付け要因」と「衛生要因」の2つに分けることができます。
動機付け要因は、仕事のモチベーションを高める要因のことです。「達成感がある」「仕事が楽しい」「感謝されるのが嬉しい」「自分の裁量が大きい」など、これがあるから頑張ろうと思えることを指します。
衛生要因は、会社の方針や労働環境、給与、管理方法、対人関係などの環境要因です。これらが整っていないと、社員は大きな不満を抱えることになります。かといって、整ったからといって働きがいが向上するわけではありません。上述した「働きやすさ」に似た用語です。
動機付け要因は、働きがいを向上させるために重要な要素です。衛生要因は、働きがいを下げないために必要な要素と解釈できます。働きがいを下げるマイナス要因を最低限にし、向上させるプラス要因の対策に注力するなど、要因を知れば具体的な対策に役立てられます。
人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものであるとする考え方。
引用:インヴィニオ リーダーシップインサイト『ハーズバーグの二要因理論』
働きがいを感じる瞬間は?
参考:株式会社ビズヒッツ『仕事が楽しいと思う瞬間ランキング』
株式会社ビズヒッツが発表した「仕事が楽しいと思う瞬間に関する意識調査」から、社員が働きがいを感じる瞬間を探っていきましょう。
20~60代の働く男女500人を対象としたこのアンケートでは、「仕事がとても楽しい」または「どちらかというと楽しい」と感じている人は、約6割の306人いました。
この人たちに「どんなときに仕事を楽しいと感じるか」を調査した結果、数が多かった順に、以下の回答が寄せられました。
1位:感謝されたとき
2位:仕事がうまくいったとき
3位:顧客や会社に貢献できたとき
(4位以下省略)
この結果から、感謝されたり、貢献できたと感じたりして、誰かの役に立っていると実感することは、働きがいにつながると言えます。また、仕事がうまくいった達成感や成功体験も、働きがいにつながります。
働きがいのある会社に共通している特徴
2022年1月20日、『社員が選ぶ「働きがいのある企業ランキング2022」』が発表されました。就職・転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営する、オープンワーク株式会社による集計です。
この調査によると、1位〜5位までに以下の企業がランクインしました。
1位:グーグル合同会社
2位:中外製薬株式会社
3位:リクルート
4位:株式会社セールスフォース・ドットコム
5位:プルデンシャル生命保険株式会社
このアンケートは、「待遇の満足度」や「社員の士気」「風通しの良さ」など、複数の項目について企業の社員に回答してもらったものです。現場の社員の率直な気持ちが表れたアンケートと言えます。
このアンケートから、働きがいのある会社の特徴を探っていきましょう。(参考:オープンワーク株式会社『社員が選ぶ「働きがいのある企業ランキング2022」』)
成長できる環境
最も注目すべきは、上位の企業は「20代成長環境」のスコアが高く、口コミでも「成長」「学び」「経験」といったキーワードが多いことです。働きがいを感じている人たちは、自分が仕事を通して成長することに充実感を得ていると言えます。
グーグル社員の口コミによると「この会社に3年以上いるだけでも、日本企業の10年ぐらいの濃密な体験ができます」とのこと。リクルートの社員は「しっかりとした研修制度があり、ビジネスマナーから、トップセールスの営業方法まで全てを学べます」と口コミしており、レベルの高い経験や学びが働きがいにつながることがわかります。
大きな裁量がある
上位の企業に共通するのは、上からの指示に従うのではなく、社員自らが能動的に働いていることです。個人に大きな裁量が与えられており、組織に貢献するための行動ならどんどんやろう、という風土ができているのです。トップダウンの伝統的な企業では、「勝手に動くな」と言われてしまうような行動でも、合理的ならば称賛されます。
中外製薬の社員の口コミによると、「最近は自身のキャリア志向もだいぶ考慮されるようになり、やりたいこともやれる雰囲気ができてきた」そうです。プルデンシャル生命の社員も「フルコミッションの世界であることから、周りの評価を気にする必要はなく、顧客に向き合える」「自身の働きが全てを決める」と、能動的なポイントを挙げています。
社員が尊敬し合っている
社員が尊敬し合い、助け合う風土があるのも、上位の企業の共通点です。人間関係が良好で、成果にも結びついていると言えます。
セールスフォース・ドットコムの社員の口コミによると、「特にインサイドセールスの組織はナレッジをシェアしお互い助け合いながら各々の最大の成果を出そう、という雰囲気が比較的他部署に比べて強いように感じる」そうです。また、プルデンシャル生命の社員も「自らの時間を割いてまで、惜しみなく自分の知識を後輩に伝えたり、一緒に学びあう文化がある」と口コミしています。
周囲を蹴落として出世するのではなく、助け合って成果に貢献する風土のほうが、働きがいを高めやすいと考えられます。
⇒職場の心理的安全性を高める方法とは
従業員の「働きがい」を高めるメリット
「働きがいが大事」と言われても、いまいちピンと来ない経営者の方も多いでしょう。この章では、働きがいを高めるメリットについて解説します。
生産性が向上する
働きがいのある職場は、生産性が高い傾向にあります。社員の働きがいを高めれば、業務の生産性向上が期待できるのです。
働きがいを感じている社員は、仕事を通じて喜びを得られるので、積極的に仕事をします。無駄をなくし効率を高める工夫を自らするようになるので、生産性の向上につながります。
一方、働きがいを感じていない社員は、仕事を自分事として捉えていません。「お金のために仕方なく働いている」「だらだら仕事をして残業代を稼ごう」といった考えで、仕事をしていることもあります。これでは生産性は下がるばかりでしょう。
生産性向上といえば、デジタルツールやリモートワークなど、最新のテクノロジーを導入すること、と思われがちです。しかし、それよりも肝心なのは、仕事に取り組む社員のモチベーションです。こうしたツールは、働きがいのある職場でなければ威力を発揮できません。
人材が定着する
働きがいのある職場は、優秀な人材が定着しやすいです。「働きがいがある」と感じている社員が離職しにくいのは当然でしょう。結婚や出産などライフステージが大きく変わったタイミングで、やむを得ず退職…といったケースはあり得ますが、働きがいを感じている社員が積極的に会社を辞めたいと思うことは稀です。
反対に、働きがいを感じていない社員は、機会があれば退職を選択するでしょう。働きがいがなくストレスを感じている社員は、心身の疲労から退職を選んでしまうかもしれません。また、「今の職場では物足りない」と感じる優秀な社員であれば、何食わぬ顔をして水面下で転職活動をしていることがあります。
離職率と働きがいには、密接な関係があります。離職の理由には待遇や人間関係も挙げられますが、働きがいも重要です。働きがいがある職場のほうが、人材が定着しやすいです。
⇒人が辞めない会社になる方法とは?
業績が向上する
働きがいがある職場では、人材が定着しやすく、生産性が高いことを解説しました。このことからわかるとおり、働きがいは企業の業績に直結します。
社員ひとりひとりの生産性が向上すれば、企業の利益にもつながります。売上の向上や経費の削減が達成されますし、報酬に反映されれば社員の喜びもひとしおです。ますます働きがいを感じてやる気を出してくれる社員もいるでしょう。
また、人材の定着も業績向上に貢献します。長く勤めている社員は業界の知識が豊富で、多様な経験をしています。レベルの高いノウハウを使って業務を回してくれるので、組織を成功に導きます。
こうした背景から、働きがいのある企業は、業績も良好な傾向があります。上述した働きがいのある会社ランキングの上位の会社は、いずれも業績良好で知られ、成功している企業としても名高いです。
従業員の「働きがい」を高める施策
働きがいを高めるメリットを理解したところで、具体的にどうすれば働きがいを高めることができるのかを考えていきましょう。
働きがいは精神的なものなので、会社が仕組みとしてできることはない、と思われるかもしれません。しかし、組織として取り組めることはたくさんあります。具体的な施策を解説していきます。
会社のビジョンを浸透させる
社員が働きがいを感じるためには、社員の喜びと会社の喜びが一致しなければなりません。そのためには、まずは会社のビジョンを社員ひとりひとりに理解してもらう必要があります。
働きがいを感じている社員は、自分の仕事が顧客に喜ばれたり、社内で評価されたりすることに喜びを感じます。仕事を通じて喜びを得られるのは、会社の事業と社員のやりたい仕事の方向が一致しているからです。
会社の事業と自分のやりたいことが一致していない社員は、どんなに環境が整っても、働きがいを感じることができません。しかし、そもそも「会社の事業」ひいては「会社のビジョン」を理解していない社員は大勢います。会社のビジョンも知らないのでは、仕事を通じて喜びを得ることなど無謀です。
そこでまずは、会社のビジョンを浸透させましょう。社内報を作ったり、全社員から見える位置にスローガンを貼ったりする方法が考えられます。ビジョンを理解できると、社員は自分が社会に貢献している意識を持てるので、働きがいを持ちやすくなります。
人事評価の制度を見直す
社員の能動的な行動を評価できるよう、人事評価の制度を見直しましょう。積極的に仕事に取り組めば、自ずと働きがいは生まれてきます。積極性を促すための仕組みづくりとして、制度を見直すのです。
例えば、社員自身に年間の目標を決めてもらい、一定の期間ごとに達成度を振り返る方法が考えられます。自分が決めた目標なので文句は言えませんし、定期的に振り返ることで社員は自分の成長を実感できます。
企業研修を導入する
働きがいを感じていない社員が、働きがいを感じられるようになるには、メンタル面の変化が欠かせません。仕事に対する考え方を変えるには、企業研修がおすすめです。
働きがいに関する研修としては、モチベーションアップ研修やマインドマネジメント研修などがあります。働きがいの重要性を理解するための管理職向けの研修もおすすめです。
現場の社員は、「働きがいとは何か」を説明されても、「それでは今日から働きがいを感じながら頑張ります」とは行きません。働きがい自体を研修で教えることはできないのです。むしろ、楽しく取り組めるビジネスシミュレーション研修などを導入し、「このメンバーで仕事をするのは楽しい」と感じてもらうことも、働きがいを高めるための近道となります。
優秀な人材の確保はどの企業でも大きな課題です。企業と個人がお互いに成長し続けるために、環境や状況に合わせて継続的に育成計画を立てることが大切です。社会を牽引する優秀な人材を育成する人材育成研修を紹介します。
働きがいの向上に取り組んでいる企業事例
働きがいの向上に取り組んでいる企業の事例を紹介していきます。以下を参考に、自社ではどんなことができるのか考えていきましょう。
シスコシステムズ合同会社
「シスコ」の略称で知られるシスコシステムズは、アメリカのカリフォルニア州に本社を置く、コンピュータネットワーク機器開発会社です。日本国内にも拠点がある会社で、「働きがいのある会社ランキング」の常連です。2021年には1位にランクインしました。
シスコは2001年と早い時期から働き方改革に着手してきました。初期には在宅勤務の導入や拡大、フリーアドレス制やペーパーレス化を推進し、生産性向上や社員のサポートを行ってきました。
シスコではコロナ禍の前からテレワークを導入しており、多くの社員が月に2~3回程度出社する働き方を希望しています。多様性を認め合う企業文化と人事制度、テクノロジーが三位一体となり、社員ひとりひとりが幸せな生き方につながる働き方を実践しています。
バリューマネジメント株式会社
バリューマネジメント株式会社は、「日本の文化を紡ぐ」をミッションに、歴史的な建物などを利活用して収益化する事業を行う企業です。2018年、「働きがいのある会社ランキング」の中規模部門で2位にランクインしました。
バリューマネジメント株式会社では、働きがいは会社と個人の価値観が組み合わさって生まれると考えています。採用から入社に至るまで、応募者に会社の魅力を伝え、価値観に共感してもらうことを重視しています。
言い換えると、入社段階でミスマッチを避けようとする取り組みと言えます。ビジョンに共感できない会社に入社すると、社員は働きがいを感じられませんし、会社は生産性が下がって、お互いにとて良くありません。「この会社で働きたい!」と思ってくれる応募者だけを採用するためにも、採用の段階から会社が積極的に働きかけます。
株式会社セールスフォース・ドットコム
株式会社セールスフォース・ドットコムは、アメリカ・サンフランシスコに本社を置く企業です。国内にも拠点を持ち、顧客管理ソリューションのシステム提供を行っています。
上述したとおり、セールスフォース・ドットコムは2022年の「働きがいのある会社ランキングの上位にランクインしています。これまでにも多数ランクインした実績があり、同ランキングの常連です。
セールスフォース・ドットコムでは、人事部門を「エンプロイーサクセス」と名付け、社員の働きがいを向上させる施策を実践しています。必要な制度をスピーディーに導入するのが同社の強みです。例えば、フィードバックアプリの導入により、同僚やチーム、会社に対して意見を言いやすい仕組みを作りました。