職場の心理的安全性を高める方法

労働者のストレスに注目が集まり、働き方改革が叫ばれるようになって早数年が経ちます。例えば長時間労働の改善には、「生産性を高める」ことが必須です。

そこで注目されているのが、心理的安全性という考え方です。
これは生産性を高めるためのヒントとして注目され始めたのですが、職場の環境を改善できることから、労働者のストレス対策にも有効と言えます。

この記事では、心理的安全性の意味や向上によるメリット、向上させる方法について解説していきます。生産性や労働者のストレスレベルにお悩みの企業は、心理的安全性の向上に取り組んでいきましょう。

心理的安全性の意味をわかりやすく解説

「心理的安全性」とは、「サイコロジカル・セーフティー(psychological safety)」を訳した心理用語です。拒絶されたり罰せられたりする心配がなく、職場で自分の意見や気持ちを発言できる状態のことを意味しています。

心理的安全性は、組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンソン氏が1999年に効果を検証した概念です。アメリカのGoogle社が再発見したことがきっかけで、近年注目を浴びています。国内でも、農林水産省の「食品製造業における労働力不足克服ビジョン」や金融庁の「金融行政のこれまでの実践と今後の方針」で心理的安全性という言葉が使われ、公的な資料でも浸透しつつあります。

心理的安全性の度合いは「高い」「低い」で表され、「心理的安全性が高い職場」といった使い方をします。他に、「心理的安全性が守られている」「心理的安全性が損なわれた」のような使い方もします。状態を指す言葉なので、「心理的安全性がある・ない」といった使い方はしません。

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心理的安全性が注目されている理由

心理的安全性が注目されている背景には、アメリカのGoogle社が2012年から行ってきた生産性向上計画「プロジェクト・アリストテレス」があります。これは、生産性が高いチームとはどのようなものかを研究するプロジェクトで、エンジニアチームや営業チームの調査を行うものです。調査により、生産性の高いチームには以下の5つの要素があることがわかりました。

  • 心理的安全性
  • 相互信頼
  • 構造と明確さ
  • 仕事の意味
  • インパクト

この結果が世界中に伝わったことで、心理的安全性が広く注目されるようになりました。

同時に、多くの労働者が漠然と感じている不安を「心理的安全性」という言葉で的確に説明したことも、この用語が広まった要因です。特に日本人は、職場で言いたいことがあっても立場を考慮して黙っている、という人が大勢います。言いたいことを我慢したり、非効率的な作業を黙ってこなしたりしていると、ストレスが溜まってしまいます。

そんなときに登場したのが「心理的安全性」という言葉で、多くの人々が「それだ!」と共感できたからこそ、ビジネスパーソンを中心に用語が急速に浸透したのです。生産性の向上や働き方改革の波もあり、社員の心理的安全性は今や社会の課題といえる状況にあります。

Guide: Understand team effectiveness - re:Work - Google

組織の心理的安全性を高めるメリット

組織の心理的安全性を高め、社員が抱える不安を払拭することは、組織にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。

コミュニケーションが活発になる

心理的安全性が高まると、自由な発言ができるようになるので、社員間でのコミュニケーションが活発になります。言いにくいことでも言える関係を普段から築いておけば、失敗やミスのようなネガティブな情報も、チームに共有しやすくなります。

心理的安全性が低い組織では、「気分を害したら嫌だな」「もしかしたら相手を傷つけてしまうかも」といった不安から、人はコミュニケーションを取るのを控えるようになります。これでは、組織が暗くどんよりした雰囲気になるだけでなく、社員どうしの連携も悪くなります。

チームの生産性が高まる

Googleの調査によると、生産性が高いチームには心理的安全性が高いという特徴があります。すなわち、心理的安全性を高めることは、チームの生産性向上の必要条件と言えます。

実際、不安を抱えながら仕事をする組織より、不安がない組織のほうがビジネスは円滑に回ります。ビジネスのための提案なら、どのような発言をしても良い職場のほうが、より良い解決策を早く導き出し、素早く実行できるはずです。

最近では組織の多様性にも注目が集まり、性別や年代、国籍、宗教がさまざまなメンバーで構成されている組織も多いです。多様性を活かすためには、どのような発言をしても攻撃されない前提が必要です。心理的安全性を高めることで多様性を活かせるので、チームの生産性も高まります。

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個人のパフォーマンスが高まる

心理的安全性が高い組織では、それぞれの社員が仕事において抱える不安が軽減されるので、個人のパフォーマンスが高まるというメリットもあります。不安を感じている人より、不安がない人のほうが積極的に提案でき、新規事業を開拓したり既存事業を改善したりできるからです。

また、自分が関わる仕事自体への興味関心も湧くので、仕事へのモチベーションが高まるメリットもあります。不安を感じている人より、不安がない人のほうが前向きに仕事に取り組めるので、結果的にパフォーマンスが向上します。

心理的安全性を高める方法

メリットがわかったら、心理的安全性を高める方法に取り組みたいところ。この章では、心理的安全性を高めるためにはどうしたら良いのか、具体的な方法を解説していきます。

ポジティブに変換する

心理的安全性を高めるためには、ポジティブな考え方が大切です。他者の意見をネガティブに捉え、いつも「自分の考えを否定されている」「自分は攻撃されている」と感じてしまう人がいますが、この状態では心理的安全性を高めることはできません。自分が発言するときも、他者の意見を聞くときもポジティブに考えられるよう、努力する必要があります。

そこでおすすめなのが、ネガティブな出来事をポジティブに変換する方法です。例えば仕事で自分がミスをしてしまったとき、ネガティブな出来事なので、ミスを隠したり人のせいにしたりする人が出てくるのです。そうではなく、上司に報告する際に「ミスをしてしまって申し訳ございません。損失を取り戻したいので、方法を一緒に考えていただけませんか?」と言うなど、ポジティブな情報を付け加えるのです。

報告を受けた上司もミスを叱るだけでなく、「早急に報告してくれて助かるよ」など、良いところも伝えるべきです。このように、ネガティブな出来事をポジティブに変換できるようになると、心理的安全性が高まって職場の風通しが良くなります。

発言する機会を均等にする

会議の場で、誰もが積極的に発言できるわけではありません。発言するのが苦手な人もいるので、機会を均等にできるよう、司会やファシリテーターは工夫をしましょう。

例えば、事前にテーマを共有して意見を考えておいてもらい、当日は1人1人発表する時間を設ける、といった工夫が考えられます。とはいえ、「発表」という言葉に緊張してしまう人もいます。みんなの前に立って発表する学校のようなスタイルではなく、着席したまま30秒くらいで意見を述べる、簡単な発表形式にして緊張感をほぐしましょう。

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研修でホスピタリティを学ぶ

企業研修を導入し、チームワークを高めるのがおすすめです。心理的安全性を高めるホスピタリティ研修を導入しましょう。

ホスピタリティ研修は主にサービス業などお客様と直接関わる職種で導入されています。しかし、社内で良好な人間関係を構築するためにも役立つ内容なので、近年はサービス業以外の企業も取り入れています。

ホスピタリティ研修では、良い商品やサービスを提供するために、まずは社内環境を整えるということを学びます。生産性が上がる環境づくりのノウハウが詰まっているので、職場の心理的安全性を高めたい企業におすすめです。

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心理的安全性を損なう4つの要因と特徴行動

エドモンドソン氏が提唱する「4つの心理的安全性を損なう要因と特徴行動」によると、心理的安全性が損なわれる主な原因は以下の4つに分けられます。

  • 無知だと思われる不安
  • 無能だと思われる不安
  • 邪魔をしていると思われる不安
  • ネガティブだと思われる不安

これらの不安を感じた人は、自由な発言ができなくなってしまいます。それぞれの不安とそれに伴う行動について、さらに詳しく解説していきます。

無知だと思われる不安

「無知だと思われる不安」とは、誰かに質問をしたとき、「こんなことも知らないのか」と相手が感じ、自分は無知だと思われてしまうのではないか、という不安です。バカにされるのを恐れ、質問や確認ができず、仕事のミスや遅れにつながる可能性があります。

欧米に比べると、日本人は質問すること・されることに慣れていない人が多いです。「核心を突く良い質問は素晴らしいが、それ以外はダメ」と思い込んでいる人が多いからです。

活発な議論を好む欧米人は、人前でも恥ずかしがらずに基本的な質問をします。日本人からすると、「よくそんな簡単なことを大勢の前で聞けるな…」と思ってしまうくらいです。しかし、基本的なことでもしっかり確認したほうがビジネスが円滑になるので、生産性向上につながることは明らかです。

無能だと思われる不安

無能だと思われる不安は、ミスや失敗をしたとき、「仕事ができない無能な人だと思われるのが怖い」という不安です。この不安を感じている人は自分のミスを認められず謝ることができないばかりか、他人のせいにしようとします。また、無能だと思われるのを回避するため、ミスや失敗を報告せず隠そうとすることもあります。

ミスや失敗を隠そうとする人がいると、問題が大きくなってから発覚し、手の打ちようがなくなってしまう可能性があります。プロジェクト全体に響き、大勢のメンバーの時間と労力がミスの穴埋めに割かれ、プロジェクトがデスマーチと化してしまう…といったこともあり得ます。

失敗は誰にでもありますし、すぐにチームの責任者に報告して対処すれば、大問題にならないことが多いです。チームの生産性を高めるためにも、無能だと思われる不安を感じているメンバーがいるなら、払拭に努めなければなりません。

邪魔をしていると思われる不安

邪魔をしていると思われる不安は、「自分が発言することで、話の邪魔をしていると思われるのが怖い」という不安です。例えば賛成多数で会議がまとまろうとしているとき、重大な問題点に気がつくと、「発言して伝えたいけど、意見がまとまろうとしているときに、邪魔をしたと思われてしまうかも…」と感じる不安などです。

そのときは黙っていても、問題はいずれ発覚します。プロジェクトの大詰め段階に入ってから問題が発覚するよりも、会議の場で思いついたことがあるなら発言してほしいものです。自由な発言を控えさせてしまう環境も、チームの生産性を大きく阻害するのです。

ネガティブだと思われる不安

ネガティブだと思われる不安は、「ほかの人の意見を否定していると思われるのが怖い」という不安です。反対意見を唱えるときだけでなく、改善を提案するときも、このような不安にさいなまれる人がいます。

改善の提案は「現状をより良くすること」ですが、「現状のアイディアはここが良くないから、こうしたほうが良い」と意見することでもあります。しかし、元々のアイディアを発案した人などが「ここが良くない」の部分に過剰に反応し、「あの人は私の意見を全面否定した」と傷ついてしまうことがあるのです。ネガティブだと思われる不安は、このように思われることに対する不安です。

心理的安全性とぬるま湯の違い

心理的安全性について解説すると、「社員を否定せず全て容認するべき」「社員の甘えも容認するべき」と勘違いし、「そんなぬるま湯に浸かった組織になってはいけない!」と憤慨する人がいます。これは誤解で、心理的安全性の高い職場がぬるま湯というわけではありません。

「ぬるま湯に浸かったような職場」とは、社員の責任感が希薄で、ミスや失敗をしても「まあいいや」と対応がおざなりな組織のことです。ビジネスに対して真剣さがなく、社員にとって「ラクチン」な職場を指します。

一方、心理的安全性が高い組織とは、ビジネスの目的を達成するため、社員が自由闊達に議論できる環境を整えている組織のことです。社員を甘やかすのではなく、ビジネスの遂行が目的です。より良いアイディアを生むため、社員が自由に発言できる環境が必要だ、という考え方に基づいています。

心理的安全性の計測方法

心理的安全性がどのようなものか把握できたら、自分の組織はどうなのかが気になります。心理的安全性を計測し、職場環境の改善につなげていきましょう。

エドモンソン氏によると、心理的安全性を計測するためには、メンバーに以下の7つの質問をする必要があります。

1. チームの中でミスを起こすと、よく批判をされる
2. チームのメンバーどうしで、課題やネガティブなことを言い合うことができる
3. チームのメンバーは、自分と異なるという理由で他社を受け入れない傾向にある
4. チームに対してリスクが考えられる行動を取っても、安全である
5. チームのメンバーに助けを求めにくい
6. チームの中には自分を騙すようなメンバーはいない
7. チームで業務を進める際、自分のスキルが発揮でき、活かされていると感じる

これらの質問に対してポジティブな回答が多ければ心理的安全性が高い傾向、ネガティブな回答が多ければ心理的安全性が低い傾向にある、と考えられます。

ただし、「心理的安全性に関する調査」のようなアンケートで上記の7問を質問しようとしても、組織のメンバーは身構えてしまい、本音で回答してくれないかもしれません。企業のビジョンを理解しているか、仕事のストレスは問題ないか、といった異なる角度の質問と混ぜ、回答しやすい流れを作りましょう。

また、匿名で実施するなど、回答内容が人事評価に響かないように環境を整える必要があります。

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