
キャリアデザインを考えるうえで、自分が何を望み(Will)、どのようなスキルを持ち(Can)、そしてどんな役割や責任を果たす必要があるのか(Must)を整理することは極めて重要です。
この三要素が理想的に重なり合うほど、日々の業務へのモチベーションや達成感は高まり、組織への貢献度も飛躍的に向上します。
本記事では「Will Can Must」の基本から実際の活用例までを解説し、一人ひとりが自分のキャリアを主体的に切り開くための具体的なヒントを提供します。
KeySessionでは貴社のキャリアデザイン研修導入をお手伝いをいたします。
目次
「Will Can Must」とは?
それぞれの概念の意味
「Will Can Must(ウィル・キャン・マスト)」は、キャリアプランや目標設定を考える際に役立つ3つの視点からなるフレームワークです。これはもともと人材育成で知られるリクルート社で提唱された考え方で、現在では多くの企業や研修で活用されています。このフレームワークでは、自分のキャリアに関して「Will(意志)」「Can(能力)」「Must(義務)」の3項目を整理します。
Will(意志)
自分が「やりたいこと」や「実現したいこと」を指します。仕事を通じて達成したい目標や、将来的になりたい姿、情熱を注げる分野など、内発的な動機づけとなる要素です。たとえば「新規事業を立ち上げたい」「マネジメントスキルを身につけてチームを率いたい」などがWillに当たります。
Can(能力)
自分が「できること」、すなわち今持っているスキルや知識、経験、強みを指します。業務で発揮できる専門知識や技術、コミュニケーション能力やリーダーシップなどのソフトスキルも含まれます。「英語が話せる」「プロジェクトマネジメントの経験がある」「課題解決が得意」など、自分の武器となるものがCanです。
Must(義務)
自分が「やるべきこと」、つまり周囲から期待されている役割や責任、達成すべき業務目標を指します。現在の職場で任されている業務や、会社の方針・戦略上求められていることがこれに当たります。例えば「売上目標を達成しなければならない」「プロジェクトを期日までに完了させる必要がある」など、組織や自分の職務上避けられないミッションがMustです。
ビジネスシーンにおける適用例
では、「Will Can Must」の考え方を実際のビジネスシーンでどのように活用できるでしょうか。ここでは、企業での具体的な適用例をいくつか紹介します。
若手社員のキャリア目標設定
例えば、入社3年目の営業担当のAさんが自分のキャリアについて悩んでいるとします。
AさんのWillは「海外市場で活躍できるビジネスパーソンになりたい」という意志です。そして、自身のCanとして「英語力が高い」「新規開拓営業の経験がある」という強みを持っていました。一方、現在Aさんに課せられているMustは「国内顧客への売上目標達成」です。Aさんは上司との面談でWill(海外事業への関心)を伝え、自分のCan(語学力)を活かせる海外案件にチャレンジしたいと提案しました。
上司は組織のMust(新規海外顧客の開拓という会社方針)とも合致することから、Aさんを海外プロジェクトメンバーに抜擢しました。これにより、Aさんは自分の意志を満たしつつ、能力を発揮でき、会社の求める業務にも貢献できる道が開けました。
上司と部下の1on1ミーティングでの活用
管理職のBさんは、部下との定期的な1on1ミーティングで「Will Can Must」を活用しています。
部下のキャリア志向を理解し成長を支援するため、まず部下のWill(将来やりたいこと)をヒアリングします。次に現在のCan(強みや得意分野)を一緒に洗い出し、さらに現職で求められるMust(目標や役割)を確認します。
そして、「将来マネージャーになりたい」というWillを持つ部下に対し、「リーダーシップ研修に参加してみてはどうか」「小規模プロジェクトのリーダーを任せてみる」など、WillとMustを満たしつつCanを伸ばせる具体的な機会を提案します。
このように1on1の場で三つの要素を整理することで、部下自身もキャリアの方向性が見えやすくなり、上司も適切なサポートを提供しやすくなります。
「Will Can Must」で考える理想のキャリアプラン
「Will(意志)」の明確化
まずは自分のWill(意志)を明確にすることから始めます。
Willとは前述したように「自分がやりたいこと」や「将来実現したいこと」です。これを明確にするためには、じっくりと自己分析を行い、自分の価値観や情熱の源泉を探る必要があります。
具体的には、以下のような問いを自分に投げかけてみましょう。
「5年後、10年後に自分はどんな仕事をしていたいか?」
「どのような時に仕事にやりがいを感じるか?」
「尊敬する先輩や上司のどんなところに惹かれるか?」
といった質問に答えることで、自分の目指す方向性が見えてきます。
Willを考える際は、現在の延長線や制約にとらわれず、できるだけ自由に発想することも大切です。
例えば「いつか起業して社会課題を解決したい」「専門分野で第一人者になりたい」など、大きな夢や理想を思い描いて構いません。現時点で実現可能かどうかよりも、自分の内側から湧き上がる願望を書き出してみてください。それによって、自分が本当に望んでいるキャリアの方向性が明確になります。
「Can(能力)」の把握と開発
次に、自分のCan(能力)を正確に把握し、それを伸ばす方法を考えます。Canとは「自分ができること」、換言すれば自分の強みやスキル、知識、経験のことです。キャリアプランを考える上で、現在の自分が何をできるのかを客観的に理解することは欠かせません。
まず、これまでの職務経歴や成果を書き出し、自分が身につけてきたスキルを棚卸ししてみましょう。専門知識、技術、資格だけでなく、コミュニケーション能力やリーダーシップ、問題解決力といった汎用的なスキルも含めます。自分では平凡だと思っていることでも、他の人から見れば立派な強みである場合もあります。自己評価だけでなく、同僚や上司からフィードバックをもらい、自分の強みを確認するのも有効です。
現在のCanを把握したら、次は将来のキャリア目標を実現するために必要な能力とのギャップを洗い出します。理想とする姿になるには、どんなスキルや経験が不足しているでしょうか。そのギャップを埋めるための計画を立てることが、キャリアデザインの重要なステップです。
例えば、新たな資格取得や研修への参加、社内の別部署での業務経験、社外の勉強会への参加など、具体的な行動を検討します。
能力の開発には時間がかかる場合もありますが、継続的に学習し経験を積むことで、着実に自分のCanを強化できます。常に「今の自分には何ができて、何ができないのか」を意識し、できないことは学習によって「できること」に変えていく姿勢が重要です。
「Must(義務)」の理解と優先順位付け
最後に、自分のMust(義務)を把握し、適切に優先順位を付けることについて考えます。Mustは「自分がやるべきこと」、つまり現在の役割において果たすべき責任や業務目標、周囲から期待されている事柄です。これを正しく理解しておくことは、キャリアデザインを描く上で現状の前提を確認する作業でもあります。
まず、自分の職務記述書や目標管理シートなどを見直し、現在課せられている具体的な目標や責任事項を洗い出しましょう。
「営業職であれば年間〇〇円の売上目標がある」
「開発担当であればプロジェクトを期限内に完了させる必要がある」
など、自身のMustを書き出します。また、会社の中長期的な方針や部署の目標も確認し、自分に期待されている役割が何かを再認識します。
次に、それらMustに優先順位を付けてみます。すべての義務を同時に完璧にこなすことは難しいため、重要度や緊急度に応じて取捨選択が必要です。特に、自分のWillやキャリア目標に直結するMustは最優先で取り組むべきでしょう。
例えば、将来マネージャーになることがWillであれば、現在担当しているプロジェクトを成功させリーダーシップを発揮すること(Must)は非常に重要です。一方で、もし自分の業務の中に「これは本当に必要なのか?」と疑問に感じるタスクがある場合は、上司に相談する、業務プロセスを見直して効率化する、あるいは他のメンバーに協力を仰ぐ(タスクを委譲する)ことも検討しましょう。
Mustをこなすことは組織の一員としての責務ですが、それだけに追われていると自分のWillを見失いがちです。そこで、日々の業務の中でも自分のWillにつながる要素を見出す工夫が大切です。与えられた仕事の中にも、自分なりの創意工夫でやりがいを見つけることで、MustとWillのギャップを埋め、モチベーション高く取り組むことができます。
「Will Can Must」を活用したキャリア設計のステップ
自己分析の方法
ここまでで、「Will(意志)」「Can(能力)」「Must(義務)」の3つの視点から自身のキャリアを見つめ直す重要性について述べてきました。では、実際にこれらを活用して自己分析を行うにはどうすればよいでしょうか。
まずは紙とペンを用意して、3つの項目ごとに自分の考えを書き出してみることをおすすめします。
Will | 自分がやりたいこと、実現したいキャリアをできるだけ具体的に列挙します。 |
---|---|
Can | 自分ができること、持っているスキルや強み、実績を書き出します。 |
Must | 現在自分に求められていること、果たすべき役割や目標を整理します。 |
それぞれを書き出したら、次にその内容を比較しながら自己分析を深めます。リスト化したWill・Can・Mustの項目は互いにどの程度一致しているでしょうか。Willに挙げた「〇〇の専門職になりたい」に対して、Canにその専門性に関するスキルが含まれているか、Mustに関連する業務経験があるかを確認します。重なり合っている部分は、現時点で自分のキャリアの方向性がうまく整合している領域です。一方、重なりが少ない部分は、今後の課題や検討ポイントとなります。
自己分析を進める中で、家族や同僚、先輩など身近な人に自分の考えを話してみるのも有効です。第三者の視点からアドバイスやフィードバックをもらうことで、自分では気づかなかった強みや新たなWillが見つかることもあります。
また、市販のキャリア自己分析シートや、キャリアカウンセラーとの面談などを活用し、客観的な支援を得ることも検討してみましょう。
目標設定と行動計画
自己分析によって自分の現状と理想の姿とのギャップが見えてきたら、次にそのギャップを埋めるための目標設定と行動計画を立てましょう。
キャリア目標は、先に洗い出したWill(やりたいこと)を実現するための道しるべとなるものです。ただ漠然と「いつか○○になりたい」と思っているだけでは前進できないため、具体的かつ達成可能な目標に落とし込むことが重要です。
目標設定にあたっては、Will・Can・Mustのバランスを意識しましょう。設定した目標が自分のWillに沿っているか(内発的にやる気が出る内容か)、目標達成に必要なCanを自分が備えているか(あるいは達成途中で身につけられる計画があるか)、そしてその目標は組織のMust(会社の方針や現場の目標)とも矛盾しないか、を確認します。
目標が定まったら、それを実現するための具体的な行動計画を作ります。行動計画では、「いつまでに」「何を」「どのように」行うかを明確にしましょう。
例えば、
「〇月までに△△の資格を取得するために毎日2時間勉強する」
「次の評価面談までに新規顧客を10社開拓する」
「来年には部署内で〇〇プロジェクトを提案しリーダーに立候補する」
といった具合に、期限と具体的な手段を盛り込んだ計画にします。
作成した目標と計画は書面に残し、定期的に見直すことも大切です。四半期ごとや半年ごとに進捗を振り返り、必要に応じて目標の修正や計画の調整を行いましょう。上司やメンターに目標を共有してサポートを仰ぐのも効果的です。他者に公言することで自分自身のコミットメントも高まり、周囲からのアドバイスや協力を得やすくなります。
継続的なスキルアップ
キャリア設計は一度計画を立てたら終わりというものではありません。むしろ、継続的なスキルアップと定期的なキャリアの見直しを行うことで、常に自分の「Will Can Must」を最新の状態に保つことが重要です。
ビジネス環境や技術は日々進歩し、会社の戦略や求められる人材像も時間とともに変化していきます。そのため、立てた計画どおりに進めていても、新たなチャンスや課題が生まれることがあります。そうした変化に対応するためにも、常に学び続ける姿勢を持ちましょう。
業務を通じて経験値を積むのはもちろんのこと、社内外の研修やセミナーに積極的に参加する、自主的に関連資格の取得を目指す、業界の最新情報をキャッチアップする、といった行動が考えられます。社内でローテーションや新しいプロジェクトに手を挙げてみることも、自分のCanを広げる絶好の機会です。
継続的なスキルアップのもう一つの利点は、自分のWillの再確認や発見につながることです。新しい知識や経験を得る中で、「こんな分野があったのか」「この分野は自分に向いているかもしれない」と新たな興味が生まれ、Willが進化する可能性もあります。
キャリアデザインのためにすべきこと
企業が支援できること
従業員一人ひとりが主体的にキャリアデザインに取り組むことは重要ですが、それを企業が支援することで、より大きな効果が得られます。
人事部や経営層としては、社員が「Will Can Must」を活用して成長できるよう、以下のような施策に取り組むと良いでしょう。
- キャリア面談や1on1の実施
- 上司と部下が定期的にキャリアについて話し合う機会を設けます。その際に「Will Can Must」の枠組みで、部下のやりたいこと(Will)、できること(Can)、期待されること(Must)を確認し、キャリアプラン策定をサポートします。
- キャリア研修・ワークショップの提供
- 社員が自分のキャリアを見つめ直すきっかけを作る研修やセミナーを実施します。自己分析の方法やWill Can Mustシートの書き方を学ぶワークショップを開催すれば、社員自らがキャリアデザインに取り組むスキルを身につけることができます。
- 社内公募・ジョブローテーション制度
- 社員が自分のWillに沿った新たな挑戦ができるように、社内公募制度やジョブローテーション(異動)制度を整備します。これにより、社員は自分の希望するキャリアにチャレンジしやすくなり、Canを広げる機会も得られます。
- メンター制度の導入
- 社員一人に対して年次の離れた先輩社員や管理職が相談相手となるメンター制度を導入します。メンターとの対話を通じて、社員は客観的なアドバイスを得たり、自身のWillを整理したりできます。会社としてキャリア形成を応援する姿勢を示すことで、社員の安心感とエンゲージメント向上にもつながります。
- スキル開発支援
- 従業員のCanを伸ばすための支援策も重要です。具体的には、資格取得支援制度、社外研修への派遣、eラーニング環境の提供、書籍購入補助など、社員が自発的に学習し成長できる環境を整えます。社員が成長実感を得られれば、結果的に組織の力も高まります。
このように企業がサポート体制を充実させることで、社員は安心して自分のキャリアについて考え、挑戦できるようになります。社員の主体性と企業の支援がかみ合うことで、双方にとって望ましい成長と成果が生まれるでしょう。
今すぐ始めるためのチェックリスト
最後に、この記事を読んだ方が今すぐに行動に移せるポイントをチェックリスト形式でまとめました。できるところから実践してみましょう。
- 自分のWill(やりたいこと)を3つ書き出してみましょう。
- 自分のCan(強みやスキル)を箇条書きにして整理しましょう。
- 現在の役割におけるMust(やるべきこと)を洗い出し、明確に把握しましょう。
- 上で書き出したWill・Can・Mustのリストを見比べて、重なっている部分と足りない部分を確認しましょう。
- 重なりを増やすために、短期的な目標を1つ設定しましょう(例:「次の6ヶ月で〇〇のスキルを習得する」)。
- 設定した目標や自分のキャリアのWillを上司または信頼できる同僚に共有し、協力やアドバイスを仰いでみましょう。
- 自己啓発の第一歩として、気になっていた研修やセミナーに申し込んでみましょう。新しい学びはCanを広げるきっかけになります。
- 手帳やカレンダーに、定期的にキャリアを見直す日を設定しましょう(例:3ヶ月に一度)。その際に再度Will Can Mustを整理し、目標をアップデートします。
以上のチェック項目を実践することで、小さくても着実にキャリアデザインの一歩を踏み出すことができます。大切なのは行動に移すことです。今日から早速取り組んでみましょう。
KeySessionでは貴社のキャリアデザイン研修導入をお手伝いをいたします。