カスタマーハラスメントとは、カスタマー(取引先・顧客・購入者など)から受ける、理不尽なクレームや常識を越えた要求、暴言や暴行などの犯罪行為を指しており、カスハラと略されることがあります。
パワハラやセクハラなど他のハラスメントと同様に、通常のクレームとカスタマーハラスメント(以下、カスハラと略称)との線引きは難しく、さらに社外の人が絡んでくるので対応を難しくさせています。
カスタマーハラスメントの対策は座学だけではなかなか身につきません。厳しいクレームやカスタマーハラスメントへの対処には、研修による実践形式での練習が欠かせません。
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目次
カスハラ対策の現状と厚生労働省の動き
「お客様は神様です」という言葉が浸透している日本社会において、カスハラの問題は日本社会全体の問題であり、国民全体の意識改革の必要性もありますので、一企業の対応策だけでは解決することが困難です。
全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟(以後、UAゼンセンと呼称)が行ったUAゼンセン調査「悪質クレーム対策アンケート」集計結果によりますと、調査対象者の56.7%が迷惑行為を受けたことがあると答えているにも関わらず、43.4%強の企業は何も対策を行っておりません。
被害者のケアを会社が実施していると回答しているのはわずか8.8%で、具体的な教育を実施している会社は19.7%に過ぎず、ほとんどがほったらかしの状況です。
(複数回答可)
- 特に対策はなされていない 43.4%
- マニュアルの整備 27.9%
- 専門部署の設置 23.5%
- 迷惑行為体セクへの教育 19.7%
- 被害者のケア 8.8%
参考:UAゼンセン「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査結果」
このように企業の対策は遅れています。
UAゼンセンはこの調査結果を受けて、2020年12月3日に参議院会館内で「カスタマーハラスメント」実態調査の結果を報告するとともに、衆参国会議員や報道関係者に対して、国民全体への意識改革や法律整備の必要性を訴えました。
そこで厚生労働省は、2021年度に企業向けの対応マニュアルを策定する方針を決め、ようやく問題解決に向けて動き出していますが、これらの動きはまだまだ始まったばかりです。
社会全体に浸透させるのには時間がかかりますので、しばらくの間はそれぞれの会社や団体が独自に対策を打たねばなりません。
カスハラに該当する迷惑行為の種類
クレームとの線引きが難しいカスハラですが、該当する行為を区分けしてみました。
A:暴力や恫喝など、対面での直接行為
「従業員の胸ぐらをつかむ」といった暴力行為、「机をたたいたり、壁を蹴ったりして脅す」「名前を覚えたからな、などと言って脅す」といった行為は距離が近いため、精神的ダメージが強く、また直接的な身体への被害を受ける可能性もあります。
身の危険を感じたら早め早めの対応が肝心です。
B:対面や非対面を問わず、度を超えた暴言や要求
「ブス、アホ、バカなどの暴言をはく」「今すぐ詫びに来いなど無理な要求をする」「土下座をしろ、など過度な行為を強要する」「この従業員を解雇しろ、と迫る」「複数で取り囲み、罵声を浴びせる」といった行為は、たとえ電話などで距離が離れていたとしても、恫喝行為として考えて良いです。
対応者が精神的苦痛を感じる前に、その場から離れることができるような組織的な対応が必要です。
C:長時間にわたる拘束行為
「電話で一時間以上の長時間クレームを言い続け、拘束する」「要求を聞き入れるまでは帰らないといって閉店時間を過ぎても居座り続ける」「同じクレームを何度も繰り返す」といった行為は、たとえ強い口調や態度ではなかったとしても精神が疲弊してしまいます。
拘束されてしまうということは、SOSのサインを出す暇がないということです。
一人で抱え込んでしまわぬように、周囲が非常時に気付くことができるような体制(従業員だけがわかるサインなど)を整備しなければなりません。
D:金品などの請求・ゆすり
脅したり、威圧したりといった行為を伴わなくても、不当な金銭を請求したり、「商品が汚れている」などと因縁をつけて過度な値引きを要求する行為は立派な犯罪行為です。
一度屈してしまうと日常化してしまう可能性が一番高いのがこの手のパターンですので、全従業員にまずは問題の重要性を理解してもらうところから始めましょう。
E:インターネット上などでの誹謗中傷
「インターネットに悪評を書き込むぞと言って脅す」といったカスハラ行為だけでなく、「実際に事実ではない悪評をインターネット上に書いて貶める」「侮辱的な写真などをSNS上で公開する」といった名誉毀損罪や侮辱罪、信用毀損罪、偽計業務妨害罪にあたる行為も考えられます。
その場で実施されない場合はしばらく気付かないことも多く、対応しようにも当事者と連絡が取れないパターンも想定されます。
店舗や拠点単位ではなく、全社としての対応体制を整備する必要があります。
悪質なカスハラは犯罪行為であることを理解しておく
上記のような行為は、度が過ぎれば、カスハラであることに留まらず、刑法上の侮辱罪や暴行罪、業務妨害罪、強要罪、不退去罪などといった、刑事事件レベルの犯罪に当たります。
つまり、重篤度によっては警察を呼んで対応すべきこともあるということです。
法律と警察は、カスタマーハラスメントから社員を護ってくれる最大の武器ですので、従業員にはしっかりと理解させるように心がけておきましょう。
脅迫罪
脅迫罪とは、人の生命、身体、人権、信念、名誉、自由、財産)に対して何らかの危害・損害を与えることを告知する行為であり、告知された相手が恐怖心を感じるかどうかは問題ではありません。
つまり丁寧で穏やかな口調や文体であっても、内容次第では脅迫罪に該当します。
前述した種類の中では「A」や「C」「E」の行為が脅迫罪にあたります。
法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金、時効は3年です。
強要罪や恐喝罪との違いは、罰金刑が存在する点にあります。刑務所に行くかどうかは今後の社会生活にも影響する重大な問題です。
恐喝罪
脅迫罪に金品の要求が加わると恐喝罪となり、罪が重くなります。
恐喝罪とは、身体的な「暴行」や精神的な「脅迫」という手段を用いて、本来は支払わなくてもよい金品や財産を要求することによって成立する犯罪です。
前述した種類の中では「D」の行為が恐喝罪にあたります。
ちなみに「暴行」とは、相手に恐れを感じさせることで自由な意思決定を妨げる程度の行為でも成立し、怪我など外傷を負ったかどうかは問題ではありません。
「脅迫」とは、当事者のみならず、その親族や関係者の生命、身体、人権、信念、自由、名誉、財産に対し、危害・損害を加える旨を告知することであり、実際に危害・損害を与えたかどうかは問題ではありません。
金品や財産の摂取が絡んできますので、強要罪、脅迫罪と比較して罪は重く、法定刑は10年以下の懲役、時効は7年です。
強要罪
強要罪は恐喝罪と同様に、身体的な「暴行」や精神的な「脅迫」という手段を用いて、本来は行わなくてもよい行動を無理やり行わせてたり、権利の行使を妨害することによって成立する犯罪です。
前述した種類の中では「A」や「B」の行為が強要罪にあたります。
ちなみに、本来は行わなくても良い行動とは、法律的に義務のない行為や、業務の遂行とは関係のない行為を指します。
法定刑は3年以下の懲役、時効(公訴時効)は3年です。
直接的な危害・損害を与えているので、脅迫だけの場合と比べて、罪は重くなります。
威力業務妨害罪
威力業務妨害罪は、人の自由意思を抑え込ませてしまうほどの「威力」を使って、直接的に相手の仕事(業務)を妨害することによって成立する犯罪です。
世の中に広く知られているのが、警察の公務執行妨害罪ではないかと思いますが、「公務」でなくても「業務」であれば罪は成立します。
前述した種類の中では「C」の行為が威力業務妨害罪にあたります。
法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、時効(公訴時効)は3年です。
不退去罪
不退去罪は、持ち主や管理者から、住居や店舗などの建造物、船舶や乗用車などの乗り物から出ていくよう要求されたのに、退去せずに占拠したり、居座り続けることによって成立する犯罪です。
前述した種類の中では「C」の行為が不退去罪にあたります。
余談ですが、最初から不法に侵入した場合、侵入した時点で住居侵入罪あるいは建造物侵入罪にあたりますので、退去しなくても退去罪にはあたらないのだそうです。
法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金です。
要求を始めてから退去するまでにどの程度の時間がかかったのか、によって量刑が決まります。また、退去しないことによって業務を妨害した場合は、威力業務妨害罪が加わることとなります。
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カスハラを放置するリスク
カスハラは、放置しておくと企業の根幹を揺るがしかねないような大きな問題に発展する恐れがあります。
ここでは、その点について考察していきましょう。
従業員を護るという企業の義務に違反する
企業に課せられている「安全配慮義務」という言葉をご存じでしょうか。
労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められています。
法的な罰則規定はありませんが、従業員の身に何か問題が発生し、義務違反として訴えられた場合、多額の賠償責任を負う可能性があります。
早期退職者を発生させてしまう
カスハラはその性質上、経験の浅い不慣れな従業員が受けやすく、ストレス耐性の出来ていない段階でのダメージは深刻です。
問題は相手にあるにも関わらず、「自分が仕事に向いていないのではないか」という自己責任の方向に目が向いてしまったり、「またカスハラを受けるのではないか」という恐怖で職場に戻れなくなったりしてしまいます。
そうなってしまったら、退職につながってしまいますので、従業員の心に安心感を与え、メンタルの健康を維持するための対策を打たなくてはなりません。
組織全体としてカスハラという問題を認識し、取り組んでいることを社内に強くアピールすることで、「会社は従業員を護ろうと考えている」ということが伝わり、早期退職を防ぐ第一歩となるのです。
カスハラの常習者を生み出してしまう
カスハラを受けた際、一時しのぎで相手の要求を認めてしまうと、加害者は味をしめてカスハラを繰り返すようになってしまいます。
つまりカスハラを放置することは、カスハラ常習者を生み出してしまうことになるのです。
特に金品に絡む対応は慎むべきで、それは値引きなどの対応も含まれてきます。
一度応じてしまえば、同じ場面が再び起こった時に断る理由がなくなってしまい、常習者は値引きの要求を繰り返すようになります。
商品に対してのクレームの場合は値引きなどの対応するのではなく、商品の交換などで対応すべきです。
自社の従業員が加害者側になってしまうリスク
ハラスメントの加害者の中には、相手に不快感を与えてしまっていることに対しての自覚がない人が多く存在しています。
何がハラスメントになるのかという知識がないと、誰もが加害者になってしまう恐れがあるということになり、これはカスハラも例外ではありません。
教育を怠ってしまうと、自社の従業員が得意先に対してカスハラを行ってしまうリスクを抱えることになるのです。
従業員を護る!企業がとるべきカスハラ対策
入社時に研修を行い、法律や対策方法を教育する
新入社員研修で行われる「顧客とのコミュニケーション」「マナー」「法律」「報連相(ほうれんそう)」といった内容は、密接にカスハラの問題に関係しています。
従って、入社した当初に研修でカスタマーハラスメントの具体的な事例を例に取り上げ、その対応策を学びながら、法律など総合的な知識力を身に着けさせていくと良いです。
最後に卒業試験のような形で、カスタマーハラスメントのロープレを行い、勉強の成果を競わせることで、研修の緊張感も高まります。
従業員が気軽に相談できる組織作り
目の前で起こっているカスハラへの対応は、現場に委ねられることが多く、問題が表面化しづらいという特徴があります。
もしかしたら上司が事の重要性に気付いていない、という可能性も考えられます。
そのような状況にならないためには、カスハラ対策室などを設置し、直接の上司を経由することなく相談できるという体制を整え、組織的な対策としてルールや方法を構築することが肝要です。
上司不在の際にカスハラが起こった際にも、カスハラ対策室は従業員を救ってくれるよりどころになります。
カスハラ対策マニュアルを作成する
実際にカスハラ行為を受けた場合には、毅然とした態度をとる必要がありますが、教育を受けたとしても全従業員が即座に正しい判断を行うことは困難です。
従って、予想されるカスハラに対しての対応法を、マニュアルとしてまとめておきましょう。作成時に特に意識すべきは、従業員一人で対応させないようにするための方法論になります。
よく言われるクレームに対しての回答フレーズを列記したり、対応手順を図式化してまとめておくなど、マニュアル作成は具体的であればあるほど、効果を発揮しやすいです。
マニュアルが完成したら、カスハラに対応する可能性のある従業員に対してロールプレイングを行い、練習を繰り返しておくことも有用です。
録音機を用意する
カスハラ行為を受けた場合には、会話の内容を録音しておくことも、対策として大事なことですので、録音機は常備しておきたいものです。
もし裁判に発展した場合には証拠となり得ますし、また録音をすることを相手に伝えるだけでカスハラを抑止する効果が期待できます。
もちろん、録音することげ逆上してしまうケースもありますので、そういった場合も想定した対応方法を決めておきましょう。
事例を共有し、対策力向上の体制を整える
カスハラを受ける原因を作ってしまったことを「恥」と考え、現場で隠ぺいしてしまうことは、おそらく日常的に起きています。
会社の考え方として、カスハラを受けたことは「恥」ではなく、むしろ対応内容を評価したりしながら、会社全体として共有し、対策を考えていくという社風の醸造は、会社が取るべく姿勢であり、今後重要度は高まっていきます。
恒常的なストレスチェックとカスハラを受けた後のフォロー
「労働安全衛生法」の改正により、2015年12月以降、50人以上の労働者がいる事業所では、常時使用する労働者に対して、ストレスチェックと面接指導の実施が義務づけられています。
しかし、それはどちらかというと社内でのストレスに目が向けられがちです。
しかし今後は、社外から受けるカスハラにも目を向けてストレスチェックを実施する必要があります。
前述した、UAゼンセン調査「悪質クレーム対策アンケート」集計結果によると、カスハラを受けた従業員に対するメンタルケアは実施されることなく放置されていました。
そのような状況を改善するために、被害を受けた社員のケアをルール化して、対応漏れが発生しないような仕組み作りを行ってください。
警察との連携をルール化する
カスハラ行為の多くは犯罪です。
従って、場面によっては警察に頼ることも解決するうえではとても重要な方法となります。
従業員も、いざとなったら警察に頼って良いということを知れば、とっても心強く思うに違いありません。マニュアルを作成する際には、どのような場合に警察に通報するのかのルール決めをしておくと良いです。
また、カスハラ行為がどのような犯罪に該当するのか、理解しておく必要があります。
弁護士に相談する
カスハラが長期化したり、常習化した場合は特に、弁護士などに相談し、対応策を講じる必要があります。
ここまで発展してしまうと、一従業員一事業所の問題ではなく、会社全体の問題です。
再発しないような体制作りも同時に行うようにしてください。
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サミット人材開発株式会社が提供するハードクレーム対応研修では、小菅昌秀講師の指導のもと、不当要求や難顧客への効果的な対処法を学びます。この研修は、法的知識と具体的な対応技術に基づいており、社員が安心して働ける環境を作ることを目指しています。実践的なロールプレイングと豊富な事例を用いたカリキュラムで、クレーム対応のプロフェッショナルへと導きます。