成功循環モデルは、ダニエル・キムが提唱した組織運営のフレームワークで、短期的な成果主義ではなく、長期的な成功を目指すために重要視されています。
売上や利益などの成果は、関係の質、思考の質、行動の質、結果の質という4つの質が相互に関連し合って生まれます。特に、従業員同士の関係の質を高めることで、コミュニケーションが活性化し、組織全体のエンゲージメントが向上します。これにより、従業員の自発的な思考や行動が促進され、最終的には良い成果が生まれます。
本稿では、成功循環モデルの特徴と、組織における良循環・悪循環の具体例を解説します。
目次
成功循環モデルとは?
成功循環モデルは、ダニエル・キムによって提唱された組織状態を把握するフレームワークです。結果至上主義の組織は、長期的な視点でみると成果につながらないという課題から、組織運営において重要視されています。
売上や利益などの成果は、単一ではなく複数の要因が相互に関連しあって生じるものです。インセンティブを与える対策などの直接的なアプローチだけでは、成果を生み出す組織にはなりえません。
成功循環モデルでは、従業員同士の関係の質を向上させる取組を重視します。関係の質の向上により、従業員のコミュニケーションが活性化し、企業へのエンゲージメントが高まります。
一見すると遠回りにもみえる取組ですが、関係の質を重視した施策が、長期的には成果を生み出す組織づくりにつながります。成功循環モデルの特徴である「4つの質」と、組織におけるよい循環・悪い循環例について解説します。
組織の状態を示す「4つの質」
成功循環モデルでは、組織の状態を以下の4つの質によってあらわします。4つの質が相互に関連しあい、循環していくことで成果につながるものと想定されています。
- 関係の質
- 思考の質
- 行動の質
- 結果の質
1.関係の質
関係の質とは、従業員同士の交流や関係性の質を指します。成功循環モデルでは、関係の質の高さが成果につながる要因としています。関係の質が高い状態とは、従業員が互いに信頼できており、オープンなコミュニケーションをとれる状態です。
一方で、関係の質が低いと、従業員が対立し、責任を押しつけあうような状態に陥ります。チームワークが弱く、個人の力を十分に発揮できず、成果につながりにくくなってしまいます。そして、組織全体の生産性が低下し、イノベーションも起こりにくくなるでしょう。
2.思考の質
思考の質とは、従業員の考え方や思考、関心の広さなどをあらわします。従業員が自主的に考えてアイデアを生み出す力です。
思考の質が高い組織では、積極的な議論が交わされて新しいアイデアが生まれやすいでしょう。そして、意思決定が最適化されて利益や生産性が向上します。さらに、メンバー同士がオープンにやり取りして互いの知識が共有され、さらに思考の質が高まっていきます。
一方で、思考の質が低い組織では、受け身で自発的に考えない従業員が多いでしょう。新しいアイデアが生まれにくく、組織の成長が停滞してしまいます。
思考の質は、関係の質が十分であって初めて成立します。例えば、関係の質が低いと「意見を述べても否定される」という不安から、考えることを止める恐れがあるでしょう。従業員の関係が良好で、自然なコミュニケーションがとれる関係が思考の質の向上には不可欠です。
3.行動の質
行動の質は、従業員が自発的かつ効果的に行動し、新しいことに挑戦する力をあらわします。行動の質が高い組織では、意思決定や行動が迅速で、ルールや仕組みの変更に柔軟に対応できます。また、従業員同士の協力が生まれやすく、個人の力を十二分に発揮できるでしょう。
一方で、行動の質が低いと、新しい行動が生まれなくなり、変化に対応できない組織となってしまいます。
4.結果の質
結果の質は、関係、思考、行動の3つの質の結果としてあらわれる組織の成果や業績を指します。結果の質だけを求めても成果は上げられないと考えるのが成功循環モデルの特徴です。その上で、関係の質を入り口として3つの質を向上させる対策が成果につながるとします。
4つの質の「良循環」と「悪循環」
成功循環モデルでは、組織状態を決定する4つの質が、循環的に作用することで成り立っていると考えます。その上で、関係の質に始まる「グッドサイクル」を作り出す対策が、最も成果につながるものとされます。
グッドサイクル
成果を生み出せる組織では、初めに結果の質を求めるのではなく、関係の質を高める施策を重視します。上記の図のように、従業員同士の関係性を良好にすると、自由な発想を表現しあえるようになり、自発的な思考や行動が促進されます。その結果、よい成果につながるのです。
成功循環モデルでは、こういった良循環をグッドサイクルと呼び、成果を生み出す組織の条件と考えます。
バッドサイクル
成果が出ない組織では、結果の質を先に求めがちです。関係の質が十分でない状態では成果は上がりません。成果が出ないと、結果を出すためにノルマやルールなどの強制が増えるでしょう。
短期的には成果につながるかもしれませんが、長期的には従業員同士の関係の質が悪化する恐れがあります。
さらに、従業員は与えられた目標を守るだけの受け身な姿勢となり、新しいアイデアが生まれにくくなります(思考の質の悪化)。そして、ただ目標を達成するためだけに働き、挑戦的な行動が生まれにくくなるでしょう(行動の質の悪化)。
長期的に成果を求めるには、関係の質から高めていく施策が重要といえます。
関係の質に影響する「心理的安全性」を高める方法
成功循環モデルでは、成果を上げるためにはまず関係の質を高める施策が重要と考えられています。関係性の質に類似するのが、近年成果を上げる組織の条件として注目されている心理的安全性です。
心理的安全性は、Googleが行った「プロジェクトアリストテレス」において、生産性の高いチームの最も重要な要件として注目されました。心理的安全性を高め、成果を上げる組織をつくるには、どのような方法が適しているのでしょうか。
参考:「効果的なチームとは何か」を知る│Google re:Work
関連記事:職場の心理的安全性を高める方法
1.「思いやり」を重視する理念の浸透
心理的安全性の向上には、従業員に思いやりを重視する理念を浸透させる施策が求められます。思いやりを重視し、従業員が互いに小さな事柄に感謝しあえる関係性を構築できると、組織において必要とされている感覚が生まれます。
感謝しあう関係が構築されると、「○○さんに助けてもらったから、困っているときはサポートしよう」と相互扶助の関係ができるでしょう。協力体制が強固になり、知識やスキルの共有や挑戦のための行動を起こしやすくなります。
感謝しあう風土づくりには、企業として方針を決め、「思いやり」を大切にする理念を共有することが大切です。理念として周知することで、従業員は思いやりを大切にする行動に積極的に取り組めます。理念を決めた上で、具体的な施策を行っていきましょう。
サンクスカードやピアボーナスを導入する
具体的には、サンクスカードやピアボーナスなどを導入する企業が増加しています。サンクスカードは同僚や上司、他部署の関係者などに日頃の感謝をカードに記入して伝える方法です。ピアボーナスは、従業員同士で業務に関する感謝や少額のインセンティブを送りあいます。
自社の評価制度にあわせて、補助的に導入することを検討してみましょう。
「ぬるま湯組織」にならないように注意する
従業員同士が思いやりを持てると心理的安全性によい影響を及ぼします。しかし、緊張感のない「ぬるま湯組織」にならないように注意が必要です。
心理的安全性が高い組織は、間違っていることもオープンに指摘しあえる関係性が築かれています。指摘により解決すべき課題は改善していく姿勢を持つことが特徴です。心理的安全性の定義を正しく理解し、施策を実行していきましょう。
2.コミュニケーション機会の確保
従業員に対して、平等に発言する機会やコミュニケーションの場面を設定する取組も重要です。自分の意見や考えを安心して表現する場所となり、心理的安全性の向上につながります。
集団で意見交換をして知識を深めたい場合はグループワーク、個別にじっくり話す場合は1on1など、目的にあわせて話す場を設定しましょう。
従業員とコミュニケーションをとる場面では、否定せずに相手の考えや思いを傾聴する姿勢が求められます。グループワークでのルール設定や、1on1を行う管理職の意識づけなど、従業員が安心して話せる体制づくりに努めましょう。
3.管理職への研修実施
心理的安全性は、職場のリーダーである管理職の関わり方によって大きく影響されます。心理的安全性の高さに影響する管理職の資質として、以下の3つの要素が関係しているとされています。
- 透明性の高さ:隠し事をせずオープンに話す
- 利己的でない:チームの利益を優先した行動をとる
- 話をよく聞く:部下が考えを表現できるよう傾聴する
3つの態度を身につけられるよう、研修で周知するとともに日々の業務での意識を促進することが重要です。とくに、話をよく聞く傾聴スキルの習得は、研修テーマとして重点的に取り上げるとよいでしょう。
思考・行動の質を高める管理職の関わり方
関係の質の高さをベースとして、従業員は思考や行動の質を向上させてよりよい成果に結びつきます。企業として思考や行動の質を高めるには、従業員が主体的に動けるような管理職の関わりが求められます。関わり方として重要な2つのポイントを紹介します。
1.目標管理と共有ができる体制づくり
管理職には、現実的な目標設定を行うスキルが求められます。従業員が自由に達成したい目標を表現できても、現実的なものでなければモチベーションが低下してしまいます。企業方針や現場の人員状況やスキルなどを考慮し、達成可能な目標に落とし込むのが管理職の役割です。
具体的には、以下のポイントを意識した目標設定を行うと、実現可能性が高まり、モチベーションを維持しやすいでしょう。
- 企業方針をチームの具体策に落とし込む
- 達成を評価するKPI(売上高や成約率など)
- 達成までの期限と方法
2.適切な役割分担と透明性の確保
チーム内のメンバーに役割を割り当て、従業員がやりたい仕事にエネルギーを向けられるようにサポートする関わりが求められます。そのために、管理職には従業員の特性を把握するスキルや人材管理力が必要です。研修を通してスキル向上を図りましょう。
また、誰がどの業務を行っているかが不透明だと、特定のメンバーに業務が集中するなど不公平感が生じます。業務分担やプロジェクトの進捗状況を可視化し、メンバーに共有する仕組みづくりを行いましょう。
ダニエル・キムの成功循環モデルを研修で学ぶ
接客・サービス業のプレイングマネージャー育成研修 (3時間 x 4回)
本研修は、単発の研修ではなく接客・サービス業のリーダーにおけるマネジメントを、4回の研修を通じてトータル的に学び、プレイングマネージャーとして成果を出すリーダーを育成します。
接客・サービス業向けのプレイングマネージャー育成研修は、リーダーとしてのマネジメントスキルをトータルに学ぶことを目指しています。特に店長やマネージャーといった中堅リーダーの育成に焦点を当て、リーダーシップと実務のバランス、部下の育成、教育時間の確保など、多くの課題に対処します。研修は4回にわたり、それぞれ3時間ずつ実施され、ホスピタリティ・リーダーシップの基礎から始まり、CS・ESの向上、サービス品質の高め方、部下育成の体系化に至るまでをカバーします。
本研修では、ダニエル・キムの組織の成功循環モデルを活用し、「関係の質・思考の質・行動の質・結果の質」の向上を目指します。オンラインでも受講可能であり、全国どこからでもアクセスできるため、地理的な制約を超えて学びやすい環境が整っています。
講師の船坂光弘氏は、ホスピタリティ業界で17年間の実務経験を持ち、多岐にわたる実績を誇ります。彼の経験が研修内容に生かされており、実践的な教育が期待できます。
【心理的安全性研修】強いチームを作るリーダーシップ (1時間半~2時間半)
この研修プログラムは、リーダーがどのようにチームメンバーをモチベートし、結束の強いチームを構築するかの具体的手法を学ぶことを目的としています。研修を通じて、チーム全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。それにより、職場全体がより生産的で満足度の高い強いチームに変わって参ります。
この研修は、リーダーシップ、人材育成、そして心理的安全性をテーマに、中堅・中小企業の幹部層および管理職・部長クラスの方々を対象としています。職場での人間関係の希薄化、高い離職率、ハラスメント問題の増加、そして働き方改革に伴う課題への対応を目指します。また、チーム内の連携不足やセクショナリズムを解消することも焦点の一つです。
研修の目標は、コミュニケーションの促進と心理的安全性の向上にあります。参加者は、効果的な傾聴と質問技術を身につけることで、部下や同僚との信頼関係を深め、チームワークを向上させます。これにより、チームのモチベーションと生産性が飛躍的に向上することが期待されます。
研修内容は、リーダーシップの基本理論から始まり、チームのモチベーション向上と心理的安全性の構築、リーダーとしての聴く力を強化する実践的な演習までを包括します。特に、リーダーシップの基礎セクションでは、ケン・ブランチャードの理論を用いてリーダーシップの本質とその影響力を解説し、適切なビジョンの示し方の重要性に焦点を当てます。
講師は大垣雅則氏です。大垣氏は「大垣塾」塾長兼旭コンサルティング代表で、元パスモ社長および元東武鉄道株式会社取締役です。豊富な実践経験を持ち、自らも電子マネーパスモや東京スカイツリー開業をリーダーとして推進してきた実績があります。彼のミッションは、「人をやる気にさせ、輝かせる本物のリーダーを育成する」ことで、多くのリーダー・経営者を支援しています。大垣氏のリーダーシップに関する深い洞察と実践的なアプローチは、受講者から高い評価を得ています。
組織運営についてはこちらの記事もご参照ください:組織運営に必要な管理職のスキルとは?運営能力を高める研修例も紹介