ビジネスにおいて、コミュニケーションを成立させるために必要なスキルの一つが傾聴力です。伝えたいことを一方的に主張するのではなく、相手の意見・態度・考え方などに注意を傾けることが、信頼関係につながります。
傾聴力は、非常にシンプルな考え方ですが、考え方を理解して実践するのは決して簡単なことではありません。
この記事では、傾聴力の概要について解説した後に、傾聴力を習得する方法について解説します。
目次
傾聴力とは?
「傾聴」は、一般的な意味合いとしては相手の話や考え方に意識して共感しながら聴くことです。話し手は、「自分の考えや意見を聞いてもらった」ということで、心を開いて自発的に相談する機会が増えます。結果的にコミュニケーションが円滑になり、ビジネスによい結果をもたらします。
傾聴を理解するうえで重要なことは「きく」に関する3つの姿勢です。傾聴の重要性を理解しているにもかかわらずコミュニケーションに課題を感じている場合は、特にどの状態にあるのかを照らし合わせてください。
「聞く」
「聞く」とは、受動的に聞こえる状態を指します。傾聴において、「聞く」とは一般的な用語としての「聞こえる」に近いニュアンスです。「聞く」だけでは「傾聴している」状態には不十分ですが、傾聴の出発点として「聞く」ことは非常に重要です。聞くことを「受動的傾聴」ともいいます。
例えば、上司は部下の相談や報告について最後まで発言を聞くことで、部下の考えを理解して指導できます。
「訊く」
「訊く」は、「訊(たず)ねる」の訓読みからも分かるように、質問をして相手に意見や考えを求めることです。聴くことは、「反射的傾聴」とも呼ばれます。
例えば、成果の上がっていない部下に対して上司が考えを訊いたり、何かネックになっていることがないか確認したりするケースがあります。
「聴く」
「聴く」は、「傾聴」と同意義です。英語ではListenにあたります。すなわち、相手に心を開いて内面の声に耳を傾けることです。表面的な言葉だけではなく、相手の態度・話し方・普段の様子などを総合的に判断して考えや意図をくみ取る努力をします。聴くことは、積極的傾聴ともいわれます。
部下が「聴く」状態にあるためには、日常的に部下の様子をよく観察しなくてはなりません。小さな変化を見逃すことなく察知することで、部下に対して傾聴の姿勢を取ることができます。
ビジネスの場面で起こりがちな傾聴力不足が引き起こす事態
傾聴力は、ビジネスマンであればポジションに関係なく不可欠なスキルです。そして、傾聴力が不足するとビジネスのさまざまな場面でネガティブな結果を引き起こします。この章では、傾聴力不足が招いてしまうトラブルについて解説します。
上司が部下に的確な指導・アドバイスをできない
部下の話を最後まで聞くことは、傾聴の最初の段階である受動的傾聴の最も基本的なポイントです。「部下の話が長く、要点をつかみづらい」「業務が多忙なため、ゆっくりと話を聞く余裕がない」などの上司側にも言い分はあるでしょう。しかし、このような態度は部下に「一方的に話を押しつけられた」といった感情を引き起こします。このとき、アドバイスの内容が正しいか否かは問題ではありません。心情に寄り添って話を聞いてもらえたか否かという点が、部下にとっては重要です。
商談の成功率が下がる
昨今、商談において重要なことは顧客のニーズや状況をヒアリングし、顧客が必要とする情報を必要なタイミングで提供するための土台を用意することです。かつて重要とされていた商品情報や強みをアピールする力については、顧客が自分自身で情報を取得できるケースが大半です。
傾聴力が不足していると、自らヒアリングの機会を逃すことになります。
・お客様と話が続かない
・お客様の要望や悩みをキャッチできない
・お客様との信頼関係を構築できない
上記のように、自ら顧客との関係性を悪化させることにより、商談の可能性を大きく低下させる可能性があります。
提案力が3倍アップする「聴く力」研修 (90分)
提案力が3倍アップする、相手の潜在ニーズを的確にキャッチする「聴く力」実践研修です。 「聴く力」=傾聴力をマスターすることで重要なポイントが的確に突けるようになり、相手が望む提案・回答を瞬時に導き出すことができるようになります。
チームワークの悪化
上司の傾聴力が低いと、チーム内で活発なコミュニケーションが発生しにくくなります。結果的に、互いに信頼関係が生まれなかったり、情報共有がおろそかになったりして、チームとして機能しづらい状況になります。チームワークが低下すると、以下の状況につながるリスクが高まります。
・部下が個人プレーに走りがちになる
・頼んだ仕事を部下がやってくれなくなる
・顧客に対して適切な対応を取れない
責任者である上司は、これらの問題を部下のスキルや資質の問題としてしまいがちですが、根本的には自身の傾聴力不足に起因している可能性があります。
部下との関係性を築く質問力と傾聴スキル研修 (2時間)
相手の言いたいことを話を遮ることなくしっかり聴ける傾聴力を身に着け、話を深める質問力を習得する研修です。
スタッフが定着しづらくなる
上司の傾聴力が低いと、チーム内は風通しが悪くなり閉塞感が強くなります。業務上のトラブル・プライベートの悩み・不安などを相談できず、スタッフ一人ひとりが仕事に対してストレスを抱え込む状況に陥ります。また、スタッフが退職を考えるほどの悩みや思いをもったときに、傾聴力が高ければ早期に気がつき問題解決に向けての対話をスタートできますが、傾聴力が低い場合にはタイミングを逸してしまいがちです。
ビジネスの場面でいきる傾聴力
この章では、反対にビジネスの場面で傾聴力がどのように活かせるのかという点を解説します。傾聴力が低いケースと比較想定しながら読み進めていただくと、傾聴力の重要性をよりいっそう認識できます。
信頼関係を築くことができる
チーム内においても、自社と顧客との間においても、信頼関係はビジネスの根幹となるものです。チーム内では、信頼関係があるから協力して仕事を進めることができ、取引関係においては信頼関係に基づいて契約を締結したり関係性を構築したりします。これらの信頼関係を築くための基本の1つが、傾聴力に基づいたコミュニケーションです。傾聴は、相手の考え方や態度を受け入れる姿勢であるため、ていねいに傾聴することが相手の考えや意見を尊重することになるのです。
コミュニケーションの食い違いを減らせる
傾聴の姿勢で話を聞くことで、話し手の意図や考えをくみ取る精度を高められます。表面的な言動だけではなく、話し方・態度・様子・背景なども含めて相手を理解するという姿勢から、情報を多角的かつ客観的に捉えられるためです。
コミュニケーションの食い違いが少なくなることで、チーム内のメンバーの考えを正確に把握したり、顧客ニーズをつかんだりすることが可能になります。組織の力がアップして、顧客との関係性も良好になるため、傾聴力が高まることにより売上の面にも好影響を及ぼします。
チーム内の風通しがよくなる
傾聴の姿勢が浸透し、チーム内のコミュニケーションが円滑化すると風通しがよくなります。すなわち、スタッフ一人ひとりが互いを尊重した上で言いたいことを言える雰囲気が醸成されます。その結果、以下のメリットが期待できます。
・社員一人ひとりがチーム内でストレスを抱えにくくなる
・クレームや個人的なトラブルについてスピーディーな相談がなされ、問題が大きくなるまでに解決のための対策を取れる
・前例のない斬新なアイデアへのチャレンジへの抵抗が薄れ、イノベーションや業務改革が生まれやすくなる
特に、テレワークや在宅勤務制度など対面の機会減少によってコミュニケーションが不足してしまいがちだとの声が多く聞かれます。したがって、風通しのよい組織作りをおこない、オンラインツールや電話などでも自然とコミュニケーションが生まれる状況を作っておくことが重要です。
傾聴力を高めるためのトレーニング方法
チーム内のコミュニケーションや信頼関係・顧客との関係性に関して課題を感じられている場合、傾聴力を高めることで状況を大きく改善できる可能性があります。しかしながら、傾聴力をどのように高めればよいのかがわからないという方も少なくないです。
この章では、傾聴力を高めるための研修でおこなわれる実践的なトレーニング方法を紹介します。
聞く姿勢の意識
チーム内で聞く姿勢を高めるためには、社内セミナーの実施などによりまず傾聴力を高めることの重要性を説くことが重要です。そのうえで、聞く姿勢の意識を高めるためには、以下のポイントを意識する事が大切です。
・話を最後まで聞くことを徹底する
・意識して相づちを打つ
・相手が話をしている際には、聞くことだけに集中する
日常業務の忙しさから、傾聴の姿勢を取ることが難しい場合には、都合のよい時間を別途設けたり、あらかじめ対応可能な時間を設けたりするなどの対策が可能です。
バックトラッキング
バックトラッキングとは、オウム返しのことです。相手の話したことをそのまま繰り返すだけなので、簡単に実践できるスキルであるにもかかわらず、傾聴の姿勢を表すにはとても有効な手段です。社内メンバーに対しても取引先担当者に対しても使用できます。
バックトラッキングは多用しすぎたり、そのままオウム返しをしたりすると不自然な場合もあるので、使用頻度や言葉の選択方法にも注意しましょう。自然にバックトラッキングできるようになるには、普段の会話や商談で意識をしてトレーニングをかさねることが効果的です。
ペーシング
ペーシングとは、話し手の感情と一致をした態度で話を聞くことです。例えば、部下が売上の伸び悩みついて相談をしてきた場合、上司は発破をかけるために元気づける姿勢で聞くよりも、部下の姿勢に同調した方が望ましいとされます。反対に、話者と聞き手の態度が一致していないと話し手が不安を感じたり、話しづらい感覚をもったりすることがあります。
ミラーリング
ミラーリングとは、相手と同調行動をすることです。具体的な例をいくつか紹介します。
・話し手が腕を組んだタイミングで、自分も腕を組む
・ドリンクを飲むときに、相手が口をつけた瞬間に自分も口をつける
・相手がコーヒーをオーダーした場合には、同じくコーヒーをオーダーする
上記のように、行動やタイミングを自然に一致させることで、自然と同調する姿勢が生まれます。ミラーリングもあからさまだと不自然になるため、自然にできるよう日常的にトレーニングをすることが大切です。
傾聴力はすべてのスタッフが身につけるべきスキル
傾聴力は、ビジネスにおけるコミュニケーションの基本となるスキルです。すべてのコミュニケーションにおいて傾聴力が重要であるため、管理職者だけではなく若手社員や中堅の営業担当者などすべてのスタッフが身につけるべきスキルでもあります。
傾聴力のメリットは大きいものの、どのようにしてスタッフが傾聴力を身につけるべきか迷う方も少なくないです。オススメの対策としては、傾聴力を身につけられるビジネス研修を受講する方法があります。以下のページで紹介しているビジネス研修では、階層別・目的別で状況や用途にあわせて傾聴力を身につけられます。