新入社員への教育の中で、教育担当者や上司が気になるのは”これはパワハラになるのか?”の判断ではないでしょうか。
指導する側は、どのような言動がパワハラになるのかわからないと、過剰に意識をしてしまうこともあるかもしれません。
新入社員側は、「これってパワハラ?」と疑問を持ちながら仕事をしているかもしれません。
ここでは新入社員へのパワハラの事例を使って、パワハラになるポイントや対処方法をご紹介します。
それぞれの立場で自分ができる対処と改善方法をおこなっていきましょう。
目次
パワハラ事例ファイル1:新入社員へのパワハラ
概要
入社して3ヶ月の社員を、上司の判断で新しく立ち上がるプロジェクトへの参加を指示した。
この新入社員は仕事を覚えるのが他の社員と比べて遅く、本人も自覚しており少しでも早く仕事に慣れるように努力をしていた。その姿は他の社員も理解していた。
プロジェクト内での役割は資料作りや情報収集など、経験が浅くてもできる範囲のものばかりだった。
ある日、上司から新しい業務を依頼されたが、それはまだひとりでは経験していなかった内容だったため、その旨を伝え指導してほしいと願い出た。
次の日から上司の指導を受けることになったが、マニュアルを渡されただけで具体的なアドバイスや指導はなく、「これを見れば誰でもできるから」と言われた。
マニュアルを見ても理解できないことも多く、その都度上司に指導を仰いだが適切な助言等がなかった。今までの仕事もしなくてはならず残業する日が増え、帰宅しても仕事が気になり眠れない日が続き、ミスが目立ち始めた。
1週間ほど過ぎた頃、上司からの暴言が始まった。
「まだやってないのか。マニュアル見たらわかるって言っただろう」
「小学生でもわからないことは聞けるぞ」
「他の奴らも忙しいんだから迷惑かけるなよ」
「こんなに使えない奴だとは思わなかった」
「プロジェクトの進行が遅くなってるのは、お前のせいだからな」
1ヶ月間、毎日ほかの社員がいる前で怒鳴られ続けたが何も言い返せず、ただ聞いているしかなかった。
そして新入社員は出社できなくなるほど心身に支障をきたし、休職することになった。
パワハラになるポイント
パワハラになるかどうかは、事例ごとに違いがありますが、今回の例では優位性があるか、適正な範囲か、継続の有無の3点がポイントになります。
優位性
上司と部下という関係性において優位性は明らかです。
会社員である以上は上司からの命令に逆らうことは、よほどのことがない限り難しいです。
ましてや新入社員であれば断る選択肢は持っていません。
仕事を覚えるのが遅い自覚があり、まだ職場にも業務にも慣れていない時期に、新規プロジェクトへの参加はプレッシャーを感じます。
また、怒鳴られた時も相手が上司であれば言い返すこともできず、ただただ聞いているしかありません。
適正な範囲
適正な業務範囲の線引きは明確になってはいません。
しかし、明らかに過小な仕事量、過大な仕事量は適性の範囲を超えていると考えられています。
新入社員に経験のない業務を、指導やフォローがないまま任せるのは適性には当てはまらない可能性があります。
「使えない奴」「小学生でも・・・」という言葉は、新入社員の人格まで否定していると捉えかねません。
継続の有無
上司からの叱責が1回や時々の程度なのか、1回の時間がどのくらいなのかなど、回数と時間もパワハラとなるポイントです。
この例では毎日怒鳴られ続けているため、パワハラと言われても仕方がありません。それに加えて他の社員がいる前での叱責ですので、新入社員が感じる心のダメージは相当なものと考えられます。
適切な対処方法
もしパワハラが起こってしまったら、パワハラかなと思う現場を目撃してしまったら、自分の立場でできる対処が必要です。
それぞれの立場で対処方法を考えていきましょう。
上司ができる対処
パワハラをしている上司自身は、パワハラの自覚がない場合があります。その時は本人は何も対処しようがありません。
しかし、怒鳴った後や少し時間が経ってから「言い過ぎたかな?」「あの言い方はまずかったかも」と思うことがあった時は、素直にその旨を相手に伝え謝罪します。
1度や2度キツく当たったとしても、上司の言動が変化することで相手の気持ちも落ち着いてきますので、非があると感じた時に認めて仕切り直しをすると良いのです。
新入社員ができる対処
新入社員の立場で上司に物申すのはできることではありませんし、パワハラをしている上司に意見をすると火に油を注ぐことになりかねません。
仕事ができないと自分を責めてしまうこともあるかもしれませんが、度を越えた叱責は指導とは言えませんので、周囲に相談するようにしましょう。
同僚や先輩でも良いですし、上司のさらに上の管理者でも良いです。ひとりで抱え込まないことが大切です。
可能であれば上司とのやり取りをメモに残したり、ボイスレコーダーなどに会話を録音しておくのも証拠となりますのでお勧めです。
他社員ができる対処
パワハラかも?と思ったら、パワハラを受けた社員に声をかけましょう。ひとりじゃないという安心感を与えるためです。
ただしこの時、上司の見えないところで声をかけるのがポイントです。目の前で声をかけると上司の気持ちを逆なですることになり、パワハラがエスカレートする可能性があります。
目の前でパワハラがおこなわれていたら、そのやり取りを動画や録音で残しておくのも良いですね。客観的な証拠として役に立ちます。
パワハラを起こさせないために
新入社員は毎年入ってくると思います。パワハラが起きないような環境作りを普段からしておくことが重要です。
新入社員の起用ルールを作る
新入社員への仕事の任せ方、プロジェクト等への起用ルールを作っておくと安心です。どんなに優秀な新入社員でも、会社に慣れていない段階で大きい仕事を任せるのは負担が大きくなります。
ルールを作ると会社や部署で共通認識が生まれますので、過度な評価、過小な評価の防止に役立ちます。
新入社員のサポート体制を整える
新入社員の教育を体系的進めている企業も多いのですが、実際は現場任せでOJTを通しての研修になっているところがほとんどです。
新入社員の教育、サポートの責任の所在を明確にすることで、相談しやすい環境を作ることができます。
上司の独断で物事を進めない
上司の意見が絶対!という職場でパワハラは起こりやすくなります。管理職だからといってすべての権限を持つのではなく、責任の分散をすることで、立場を利用しての言動が取りにくくなります。
意見を言いやすい雰囲気作り
何か違うかも?と思った時に、立場を超えて意見を言える雰囲気がある組織を目指しましょう。
若い社員が新入社員の相談に乗ったり、ベテラン社員が上司に意見を伝えたり、それぞれの立場でコミュニケーションを心がけることで、パワハラを防ぐことができます。
https://keysession.jp/media/harassment-training/