自分がパワハラの被害に遭っていなくても、同僚が毎日上司から叱責を受けたり、暴力を受けたりしているのを目の当たりにすると、気持ちがふさぎ込むことがあります。
このように直接自分に向けられていないパワハラで、うつ病を発症したり、メンタル不調に陥った場合もパワハラとの因果関係が認められるケースがあります。
言葉によるものでも、身体的なものでも、暴力は多くの人の心に影響を与えるということを認識しておきましょう。
目次
パワハラ裁判の実例
概 要
努力と勉強を怠らず、仕事に対しても熱心に取り組む部長。仕事もでき上層部からの信頼も厚かった。
部下への指導も熱心だったが、その方法はとても厳しく、反論をした女子社員を泣かせてしまうこともあった。
声が大きくフロア全体に響き渡る声で「ばか者」と部下を罵ったり、感情的に叱責したり、威圧的な言い方をすることが多かった。人事に問題提起をした社員もいたが、上層部でも部長に意見を言える人がほとんどおらず、十分な解決はなされていなかった。
部長のパワハラは、社内で知らない人がいないくらいの有名な事実だった。
同期の男性が部長の下に課長として異動してきた。
男性はまじめな性格で慣れない業務を真摯に向き合っていた。しかし、自分の部下が部長に叱られたり罵られたりしている姿を毎日見ることになり、仕事中は今までにない緊張感があった。
さらに、部下が暴言を言われていると、自分の責任であるかのように感じたり、自分が叱られているような気分になった。
男性は部長との面談の時に一度だけパワハラを経験している。
部下への指導において部長の言っていることは正しく、業務を離れてまで部下を誹謗することはなかったが、度を越えた指導と業務命令が毎日おこなわれていた。
このような緊張状態での仕事が続き、男性はうつ病を発症した。
裁判でのポイント
今回の事例では、一般的なパワハラとは状況が違います。うつ病になった男性は直接パワハラを受けていないところにあります。このことを含めて3つのポイントが考えられます。
直接本人に向けられていない
男性は業務上のヒアリングを部長から受けた際に、部長からのパワハラを経験しています。
しかし、それ以外は直接的な暴言や暴力は受けていないところが、男性へのパワハラに当たるか?というところが大きなポイントとされました。
一審では、部長と男性の課がパーテーションで仕切られていること、部長と頻繁に接していないことから、うつ病発症するほどの負担があったとは考えにくいとされました。
しかし二審では、会社の誰もが認識しているパワハラ部長の下で働くこと自体が、精神的な負担が大きく、毎日自分の直属の部下が部長のパワハラを受けている姿を見ているのは苦痛だと結論づけられました。
直接本人がパワハラを受けていなくても、場合によっては心理的負担が強いと判断されることがあると証明されました。
叱責の内容は間違っていない
部長は勉強熱心で仕事に情熱を持ち、高い水準の仕事を目指す人でした。そのため上司からの信頼も厚いものでした。
部下にも自分自身と同じような仕事へのスタンスを求め、厳しく指導をしていましたが、指導内容は間違っていないため、上層部も注意しにくい状態でした。
しかし、どんなに正しい指導内容でも、言い方や言葉使い、態度によっては部下に過度な緊張と負担を強いることになると判断されています。
部長への指導がなされていない
部長の顔色を覗いながら委縮して仕事をしていたり、やる気を失い不満を持っている社員もいました。
このままでは自殺する部下が出るのではないかと懸念し、人事課に相談もしましたが、部長の指導内容には正当性があることと、仕事の能力があるため上層部も意見できませんでした。
結果、パワハラの事実があったにも関わらず、何の対策も改善もおこなわれなかったのです。
適切な対処方法
このような状況で対処できることは限られていますが、ゼロではありません。自分の身と会社を守るためにも、一人ひとりができることを行動に移すことが必要です。
社内相談窓口に相談をする
今回の事例では人事課に相談をしても十分な対応をしたとはいえませんが、社内の相談窓口に事実を伝えることは大切です。
相談業務を担っている部署には、社内の問題を調査し改善する役割があります。
この部長のように上層部からの信頼が厚い場合は、注意や指導をしてもらえる可能性は低いかもしれませんが、「相談した」「社内の人間はパワハラを知っていた」という事実を作るのも必要です。
社外相談窓口に相談をする
社内での解決が難しいと感じた時は、労働基準監督署や労働局に連絡をするのも効果的です。
対処法のアドバイスをもらえることもありますし、企業にパワハラの調査や指導をしてもらうことも可能です。
特に経営陣に近い上司からのパワハラの場合は、外部の組織に相談をするほうが解決が早いことがあります。
躊躇せず、相談できるところには積極的に相談をするようにしましょう。
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逃げる
逃げるというとあまり印象が良くないかもしれませんが、パワハラを受け続けること、パワハラを見続けることは、相当な心身のダメージがあります。
強いストレス状態が続くと判断能力が鈍り、「耐える」という選択の一択になってしまう傾向があります。
まじめな人ほど「頑張らなきゃ」「みんなに迷惑をかけないように」と、耐え続けてしまいますが、その場から立ち去ることは自分の身を守ることになります。
有休を使ってしばらく休む、休業をするなど、パワハラ上司から離れる勇気も必要です。
早めの受診
気分が沈むことが多くなった、仕事に行くのが辛いと感じる、眠れない、過度な緊張感があるなど、少しでも体調に不安を感じたら、早めに専門家に相談をするようにします。
産業医や産業カウンセラー、提携の病院などに相談をし、必要に応じて診断書を出してもらいましょう。
パワハラを起こさせないために
上司からのパワハラは一番身近なものです。それだけにいつ誰がターゲットになるかわかりません。日ごろから対策を心がけましょう。
管理職への指導体制の強化
パワハラについての研修等で、社員全員で知識を共有します。この時、管理職は別に研修をおこない、自分の言動がパワハラになっていないか振り返る時間を作るようにします。
そして、どのような立場の社員に対しても指導ができる体制を整える必要があります。
特に中小企業では、仕事ができるから、人脈があるから、会社に貢献しているからという理由で特別扱いをしてしまう傾向にあります。これではパワハラはいつまでたってもなくなりませんので、特別を許さない厳しさが大切です。
https://keysession.jp/media/management-training/
我慢しない・させない体制
パワハラを受けている社員は、自分さえ我慢すれば良い、自分が悪いのかもしれないと思い、辛いと声を上げられずに耐えてしまうことがあります。
パワハラにより社員の能力が発揮されないことは、企業として大きな損失です。
社員が生き生きと働くためにも、我慢しないさせないという雰囲気作りと制度の整備が不可欠です。
ハラスメントは現在70を超える種類が存在しています。ハラスメントを起こさない、起こさせないために、企業全体でハラスメント研修を通して正しい知識と行動喚起を進めていくことが大切です。