セールス・イネーブルメントとは、組織全体で営業力を強化し、顧客に価値を提供するための取り組みを指します。
従来の営業手法が個々の担当者に依存しがちだったのに対し、セールス・イネーブルメントは、属人化を排除し、再現性のある営業スキルの共有を目指します。また、マーケティング部門との連携を強化することで、複雑化する顧客ニーズに対応し、競争力を高めることが可能です。
セールステックの導入や、データに基づく施策の検証、フィードバックの仕組みを整えることで、組織全体で持続可能な営業プロセスを確立します。
本記事では、セールス・イネーブルメントについて、その重要性と導入方法を解説します。
目次
セールス・イネーブルメントとは?
セールス・イネーブルメントとは、組織として営業成果を高めたり改善したりするための取り組みです。
従来の営業といえば、顧客に電話をかけたり訪問したりして、商品のセールスを行うこと、というイメージがあります。しかし、その周りにあるはずの営業担当者の研修、営業ツールの開発、マーケティングなどは営業とは見なされず、営業部門ではない別の担当者が担っていることも多いです。
この状態では、各部門の担当者が部門レベルの目標に向かっているだけで、「営業成果を高める」という組織としての目標を達成することはできません。ニーズが多様化し高度な品質が求められる現代社会において、担当者がバラバラに動いていては、顧客が求める商品やサービスを作ることができず、競争に負けてしまいます。
そこで、複数の部門に分散していた営業に関する業務をまとめ、組織として営業力を向上させるのが、セールス・イネーブルメントです。部門間の隔たりを取り除き、組織として営業に取り組む点が、従来の営業の考え方と異なります。
「イネーブルメント」の意味
「セールス」は販売や営業を意味しますが、「イネーブルメント」は聞き慣れておらず、意味がわからないまま使っている人も多いのではないでしょうか。イネーブルメント(enablement)とは、直訳すると「有効化」「強化」といった意味です。
すなわち、セールス・イネーブルメントをシンプルに訳すと「営業力の強化」といった意味合いになります。組織として営業の成果を上げる目標のために、人材を育成したり、高度なツールを導入して使いこなしたりする取り組みを行います。
イネーブルメントの意味を押さえておかないと、「営業力の強化」という重要な目標を見失いがちです。何のために研修を受講してスキルを磨いたり、ツールを導入したりするのか、マネジメント層から現場の担当者まで把握しておくことが重要です。
セールス・イネーブルメントで解決できる課題
セールス・イネーブルメントに取り組むと、従来の営業の問題を解決することができます。どのような問題を解決できるのか、詳しく解説していきます。
営業の属人性
従来の営業の問題に、属人性がありました。「属人性」とは、仕事が特定の人にしかできない状態になっていることです。営業担当者の仕事は属人化しやすい傾向があり、担当者以外には顧客とのやりとりが見えなかったり、営業ノウハウが蓄積できないといった問題が起こります。
特に、優秀な営業担当者の仕事が属人化すると、組織にとってはマイナスの影響も生まれやすくなります。その担当者のおかげで売上は発生するかもしれませんが、異動の際の引き継ぎで顧客とのやりとりの履歴やノウハウが共有されず、異動後に新たな担当者が困ってしまい、売上ダウンにつながります。流動性の高い現代社会では、誰が担当者になっても一定の成果を上げられるよう、仕組みを整えておかなくてはなりません。
そこで、セールス・イネーブルメントの考え方が重要になります。個別の担当者が持つ情報やノウハウを組織にストックすることで、営業の属人化を防ぎます。顧客とのやり取りなどの情報は、商品開発やマーケティングにも有用なので、属人化を防ぐ以外にも効果があります。
属人化と属人性の解消については以下の記事もご参照下さい。
参照記事:属人化とは - 属人化が引き起こすリスクと解消方法について解説
関連記事:属人化の原因と解消するための手法を紹介
再現性のない営業スキル
属人化と同様、従来の営業で問題となるのが、営業スキルの再現性のなさです。
従来の営業では、担当者が独自のやり方で信頼関係を築き、セールスにつなげてきました。ときには、自社商品を販売する前に顧客の商品を購入したり、顧客の趣味に付き合ったりと、顧客から気に入られるための努力をしたことがある営業担当者の方もいるでしょう。
顧客との信頼関係の築き方を営業担当者それぞれが独自に考えている状態では、組織としてノウハウが蓄積されていません。したがって、営業スキルに再現性がなく、担当者が交代すると顧客との信頼関係が一気に崩れてしまうことがあるのです。
また、持ちつ持たれつの関係を築くには、時間とお金がかかります。移り変わりの激しい現代社会では、無駄なコストを下げて利益率を上げたいので、従来の営業らしいやり方は合わないのです。
そこで、再現性の高い営業のやり方を考えなければならず、セールス・イネーブルメントの考え方が重要になります。目指すべきは、営業が苦手な担当者や新入社員でも営業ができる枠組みの開発です。営業ツールを使いこなし、再現性の高い方法を組織として構築していきましょう。
営業スキルについては以下の記事もご参照下さい。
関連記事:営業に向いている人の特徴と営業に必要なスキル
複雑化したニーズの取りこぼし
従来型の組織では、営業部門とマーケティング部門が独立しており、両者は密接には連携していません。そのため、営業部門がヒアリングした顧客のニーズがマーケティング部門に伝わらなかったり、マーケティング部門が仕入れた情報を営業部門が活かせていないということが起こりやすいのです。
しかし、現代社会では製品やサービスの多様化から、顧客のニーズも多様化し、複雑化しています。大量生産された既製品では勝負できないので、大量の製品やサービスの中から自社を選んでもらわなければなりません。そのためにも、各部門が仕入れた顧客のニーズに関する情報は、ぜひとも部門の壁を越えて連携したいところです。
そのためにも、セールス・イネーブルメントの考え方が有効です。「営業は組織で行うものだ」という考え方を定着させることで、部門間のやり取りがスムーズになります。セールス・イネーブルメントを促進する部署を新たに設けても良いですし、タスクフォースのような形で営業部門やマーケティング部門などさまざまな部署の社員を少数精鋭で集め、セールス・イネーブルメントを促進するのも有効です。
従来の競争型の組織だと、情報を与える・与えられる関係は上下関係であるかのように受け取る社員もいるかもしれませんが、現代社会で生き残れるのは風通しの良い組織です。従来型の組織のまま価値観をアップデートできていないと感じる経営者やマネジメント層の方は、社員の考え方をアップデートするため、研修を行うのが有効です。
マーケティング | セールスイネーブルメント | 営業 |
---|---|---|
エンゲージメントと収益への影響が測定できる、効果的なコンテンツを開発 | コンテンツ管理、顧客エンゲージメント、パフォーマンス分析、営業トレーニングコンテンツの成功を促進する。 | 日常業務にて販売支援プロセスとテクノロジーを注入することをコミットする。 |
参考:HIGHSPOT『THE DEFINITIVE GUIDE TO SALES ENABLEMENT』より
セールス・イネーブルメントの成功事例2件を紹介
セールス・イネーブルメントに取り組むとどのような効果を得られるのか、具体例を2件ご紹介します。
SATORIの「営業勝ちパターンプロジェクト」
マーケティングオートメーションツールの開発や販売を行うSATORI株式会社では、自社内でもセールス・イネーブルメントの考え方を取り入れています。2019年夏頃から「営業勝ちパターンプロジェクト」を展開し、営業活動へのテコ入れを行っています。
具体的な取り組みは、営業プロセスの見直しと、営業時に使用するコンテンツの最適化です。営業プロセスの見直しでは、過去の営業成果を分析して勝ちパターンを導き出し、そのパターンを実践するような形で成果につなげています。
上述したように、属人性の排除はセールス・イネーブルメントにおける重要な目的です。過去の営業成果を分析し、どのような行動が営業成果につながったのかがわかれば、今後の営業にも活かせますし、属人性を排除して誰でも成果に結びつく行動が取れるようになります。参考:SATORIマーケティングブログ『【事例】セールス・イネーブルメント、SATORIの取り組みとは』
NTTコミュニケーションズの変革
大手企業であるNTTコミュニケーションズでも、セールス・イネーブルメントに取り組んで成果を出しています。社名を知られていない中小企業より、有名な大企業は営業がやりやすそうですが、課題を感じて価値観のアップデートに取り組んでいるのです。
大手企業では、既存の事業領域には営業のノウハウが蓄積されているのですが、新規領域への対応が課題です。NTTコミュニケーションズも同様で、新しい商材を販売するため、営業スタイルの変革に取り組みました。
具体的な取り組みとしては、営業やマーケティングを支援するセールステックを活用してデータを収集することはもちろんですが、セールス・イネーブルメントを担当する部署の設立がユニークです。成功事例の共有に取り組み、誰でも参加しやすい風土を作りました。データに基づいた戦略を皆が学びたくなる仕組みを構築したのです。
従来の営業のやり方でうまく行っていると感じている社員は、やり方を変えなさいと指示されても拒絶したり、敵対したりしてしまう傾向が強いです。セールス・イネーブルメントは組織として営業力を高める取り組みなので、社員の間に軋轢が生まれたら意味がありません。NTTコミュニケーションズのように、担当部署を立ち上げて人を巻き込んでいく仕組みは、ほかの企業にとっても有効です。参考:ワンマーケティング『NTTコミュニケーションズに学ぶ“科学する”営業組織』
セールス・イネーブルメントの導入方法
セールス・イネーブルメントの有効性を理解したら、次は導入方法を解説していきます。以下のような方法で実践していきましょう。
専門部署や担当者を設ける
まず、セールス・イネーブルメントを率いるチームや担当者を決めましょう。
セールス・イネーブルメントには、営業担当者、マーケティング担当者、ツール開発担当者など、さまざまな部門の人が関わります。「今日からみんなで営業をやってね」と言われても、連携を取るのは難しいです。
セールス・イネーブルメントの担当者がいれば、その人を中心にチームとしてまとまることができます。部署を設けるか担当者を置くかは、企業の規模に応じて検討しましょう。
営業ノウハウを共有する
営業ノウハウの属人化を防ぎ、会社と社員みんなの財産にするためにも、営業ノウハウを組織として連携する体制を整えましょう。
といっても、いきなり「営業ノウハウを書いて提出してください」と指示して、スラスラ書き出せる社員はいません。営業部門で成果を出している社員を講師にして営業研修をしてもらうなど、ノウハウを共有できる企画を考えると有効です。
ツールを用いてデータを収集する
セールス・イネーブルメントにはセールステックが有効です。セールステックとは、ITを用いて営業の生産性向上や効率化を行うツールや手法のことです。ECサイトの行動履歴から見込み客の分析を行うMAツール(マーケティングオートメーションツール)、顧客の購入内容や購入目的などを保存するCRMツール(顧客関係管理ツール)などがあります。
データの蓄積がなければ、上述したSATORIのような勝ちパターンを見つけることができません。セールステックを導入し、情報をデータとして保存していきましょう。見込み顧客から質の高い商談を生み出すHubspot導入サポートはこちらから
施策の貢献度を分析する
データの分析や営業ノウハウの共有により、「こうすれば成功する確率が高いのではないか」と思われる施策をいくつか導くことができます。これを仮説として実践してみて、本当にうまくいくのか検討しましょう。
理解しておきたいのは、どんなに優秀な施策でも100%成功するとは限らないことです。成功や失敗もデータとして蓄積し、成功率が高い施策を採用します。
また、施策の実践を通じて改善案も生まれてきます。施策をどんどん改善し、勝ちパターンに磨きをかけましょう。
フィードバックを行う
セールス・イネーブルメントに取り組むと、営業施策についてPDCAを回せるようになるので、データに基づいたフィードバックも可能になります。営業担当者やマーケティング担当者など、セールス・イネーブルメントに関わる人には成果をフィードバックしましょう。
フィードバックを行うときには、必ずデータに基づいて対話をします。期待以上の成果が出ているときは本人からその秘訣を聞き出して組織に連携します。期待よりも成果が出ていないときは、その人にとって施策のどこが難しいのか、施策に改善できる点はないかを考えましょう。
従来型の営業だと、成果を出せない人は厳しい言葉で上司から叱られることがありました。これは、営業スキルが属人化していたことの弊害のひとつです。個人の営業スキルが未熟だから成果が出ず、本人を叱るしかなかったのです。
しかし、セールス・イネーブルメントに真剣に取り組んでいれば、営業スキルの属人化は防げます。成果が出ない場合は、営業担当者に責任があるのではなく、施策に問題があると捉えるべきです。施策に問題がないかを捉え直すためにも、フィードバックして担当者からも意見をヒアリングしましょう。
セールス・イネーブルメントを促進する研修
これまで、セールス・イネーブルメントの意味や導入方法を解説してきましたが、新しい考え方なので、ネットで調べて身につくものではありません。組織での営業経験が豊富で、セールス・イネーブルメントについても詳しい人に、教えてもらいながら価値観を変えていく必要があります。
そこで検討したいのが、企業研修の導入です。セールス・イネーブルメントについて教えてくれる研修を社員が受講することで、新しい営業の考え方にもスムーズに馴染むことができます。
営業成績が上がると社員のモチベーションが上がり、業績を非常に良くなります。優秀な営業マンを育てるために営業研修を導入しましょう。より実践的で効果の高い営業研修を紹介します。