コンプライアンス遵守が重要な理由 - 社員全員が理解してますか?

「コンプライアンス遵守」について焦点が当たるようなニュースが増えていますが、一体いつ頃から言われ始めるようになったのでしょうか。

1980年代から言葉としては認識されていたようですが、強く意識され始めたのは2000年代に入ってからで、これは大企業において脱税やハラスメントなど企業倫理から大きく逸脱した事件が頻発したことが要因です。

今も相次ぐ企業不祥事を背景に、「コンプライアンス遵守」が強く企業に求められています。

そこで今回は、コンプライアンスの意味、コンプライアンス遵守の背景、コンプライアンス違反の事例、何故コンプライアンス違反が起こるのかなどについてわかりやすく説明いたします。コンプライアンス違反をどのように防いでいけば良いのか見ていきましょう。

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コンプライアンスとは

コンプライアンスを表現した画像
まずはコンプライアンスの意味から解説していきます。

コンプライアンスの意味

コンプライアンスは移民国家であるアメリカにおいて、多様な人種や宗教が混在している社会での秩序作りが必要となり、細かなルールや法律が制定され、国民に順守させたのが始まりです。

従って日本語に直訳すると「要求、命令などに応じること」となります。
言葉の意味として、秩序を押し付けようとする側の圧力と、受け手側の容認せざるを得ないという気持ちが伝わってきますが、ビジネスの場面では「法令遵守」と訳されることが多いです。

しかしながら、社会規範の逸脱による企業不祥事が相次いたことを受けて「コンプライアンス」は単なる法令遵守という意味だけではなく、倫理などの社会規範を含む広い範囲の言葉へと変化しています。

公務員ではない民間企業の社員であれば、利害関係が生じる相手に対して接待や贈答を授与しても法律違反にはなりませんが、倫理的な観点で禁じている業界も出てきています。
例えば医薬業界では、2012年からMRによる医師への接待は原則禁止となりました。

このように法令違反でなくても、倫理や社会規範を遵守することをコンプライアンスの範囲として考えるようになってきています。

コンプライアンス遵守の重要性

命を預ける乗り物である自動車を製造する会社によるリコール隠し、直接口に入る食品を製造する会社による牛肉偽装、安全性が最優先で求められる建造物に関わる建築士による耐震偽装など、倫理的に許されることのない、企業の根幹に関わる企業不祥事が相次いだ2000年初頭より、コンプライアンスを順守しなければならないという機運は高まりました。

このような動きに合わせて、近年、消費者の健康や安全、地球環境の維持などを含めたCSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)に対する意識も高まっており、取引先に対して、CSRを要請するようになりつつあります。

つまり、企業はビジネスを行う上で利益を追求すれば良いという考え方ではなく、法令遵守の下、従業員の安全、顧客や環境への配慮など社会への要求に応えなければ、商取引ができなくなりつつあるのです。

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ケース別コンプライアンス違反の事例

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ではそれぞれのケースについて詳しく考察してみましょう。

労働問題

大手電機メーカー、東芝のグループ会社である東芝デジタルソリューションズに勤務していたシステムエンジニア(SE)の男性社員が2019年11月に自殺した理由が長時間勤務による心労であったとして、労働基準監督署が労災として認定したという事件の背景には、労務管理上の問題があったと指摘されています。

この男性社員が亡くなる直前の一か月間に行った時間外労働は103時間56分にものぼり、3、4、6カ月前の各月においても80時間以上になっていたようです。

100時間の残業というのは、土日のいずれかは休まずに働き、さらに平日は毎日21時過ぎまで働かないと到達しない数字であり、過労死ラインとされている80時間を大幅に超えています。

これは過労死を防ぐために設けられた様々なルールに対応できていない事例で、明らかなコンプライアンス違反です。
再発防止のために、過度な労務状態になっている社員が発生しなようなコミュニケーションの活性化などの施策と取り組み、社員個人のセルフケア向上のための施策に取り組んでいくことを発表にする事態となりました。
参考:朝日新聞デジタル (asahi.com)『東芝系SEが過労自殺 開発遅れ長時間労働、労災認定』

法令違反

ビジネスを行う上で順守しなければならない法律は必ず存在しています。
コンプライアンス違反が発生する背景として、何故その法律が定められているのかについての理解不足が原因であることは多々あります。

2011年4月、富山県などで焼肉チェーンレストラン等を20店鋪展開していた株式会社フーズ・フォーラスは、運営している複数の店鋪において、ユッケなど生肉を食べた客が100名以上食中毒になり、そのうち5名が死亡するという事件を起こしました。

当時、厚生労働省は飲料展に対して、菌が付きやすい生肉の表面を削るトリミングを実施するように通達していたわけですが、それを行っていなかったことが明らかになりました。
その結果を受けて、この事件後、生食用牛肉のトリミングは義務化され、違反には罰則が科されるようになり、牛と豚のレバーなどの生食用の提供や販売が禁止されるという、食文化にも影響するような事態に発展してしまいました。

当時は通達であり、罰則が設けられていなかったことが、事故発生の原因の一端だと考えられますが、どうして行う必要があるのかを正しく理解し、コンプライアンス順守の対応をしていれば、防ぐことができた事件であると考えられます。

不正経理

財務諸表を不正に操作して、利益が出ているように見せかける粉飾決算は、一時しのぎにすぎず、後に大きなリスクを抱えることになるにもかかわらず、その数は一向に減りません。

日本公認会計士協会の調べによりますと、2020年3月期に会計不正を公表した企業は46社にのぼり、前年同期の1.5倍と増えています。

最も有名な事件のひとつに、(株)カネボウの粉飾決算があげられます。「巨額粉飾」という小説のモデルにもなっています。
(株)カネボウは明治20年に創業、化粧品や薬品、新素材を中心に扱い、平成13年3月時点で連結子会社47社を有するような、日本を代表する企業でした。

業績の悪化で長年にわたり累積損を生んでしまっていた状況を、さまざまな不正操作を駆使して、会計上は利益を出ているように見せかけていました。
しかし、毎年膨れ上がる債務に耐え切れなくなってしまい、債務超過が公けとなってしまいます。そしてついに2004年に産業再生機構の支援を受け入れ、最終的に上場廃止、花王など競合他社に事業が売却され、2007年に会社解散となってしまいます。

会計を担当する経理に対して、経営層から「利益が出るように(操作)しろ」という圧力がかかり、「損を子会社に移転させ、その会社の連結対象外す」といったような手法を駆使して、それを監査法人に認めさせて、帳簿上は利益があるようにしていました。

これは監視する立場である監査法人も巻き込んだ、大がかりな会社ぐるみのコンプライアンス違反です。

法人が2つあれば、架空の売上をたてて利益を水増しするなど様々な操作が可能となります。そういった行為を防ぐために、コンプライアンス順守という考え方がとても重要なわけです。

参考:香川大学ビジネススクール香川大学大学院地域マネジメント研究科『粉飾決算の事例と財務諸表分析の方法』

情報漏えい

パソコンなどの誤操作などヒューマンエラーによる情報漏洩や、インターネットを利用した外部からのサイバー攻撃などでの情報漏洩を無くすことはなかなか難しい課題ではありますが、社内にいる従業員による情報漏洩は、コンプライアンス順守の意識を高め、制度を整備して未然に防がなくてはいけません。

マンションなど集合住宅の管理を手掛ける東急コミュニティーは、社内システムに保存していた顧客の個人情報約5000件が、2021年3月に流出したと発表しました。

東急コミュニティーによると、社外から情報漏洩に関する可能性を指摘され、弁護士などの協力を受けて社内調査を実施したところ、元従業員による犯行が発覚しました。
2019年10月(約3900件)と20年11月(約1100件)の合計2回にわたって、外部法人へ情報を不正に持ち出していたということです。

今後の対策として、社内業務管理システムへのアクセス制限を強化することや、本事案を全社に共有し、全社員への教育を徹底的に行うことが発表されています。

参考:東急コミュニティー『元弊社従業員による不正な個人情報の持ち出し及び流出に関するお詫びとご報告』

コンプライアンス違反が起きる理由

コンプライアンス違反は何故起こってしまうのでしょうか。

人が不正を働いてしまうメカニズムを解き明かした有名な理論として、米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーが提唱した考え方をW・スティーブ・アルブレヒトが体系化した「不正のトライアングル理論」があげられます。(参考:CFI『Fraud Triangle - Opportunity, Incentive, Rationalization』

1.動機・プレッシャー

コンプライアンス違反を起こした人に悪いことであるという意識を持っている場合、そこには強い「動機」が必要となります。

  • 金銭的なトラブル、もしくは金銭で叶えられる欲求を抱えている。
  • 上司や会社から強いノルマやプレッシャーを与えられ、とにかく逃れたい。
  • 自らの保身のために業務上のミスや失敗を隠したい。

といったことが考えられます。

特に金銭に関わる要因が発生事例としては最も多いです。
この場合はコンプライアンス違反が悪いことであるという認識があったうえでの犯行ですので、とても強い「動機」が存在しています。

2.機会

いくら動機があったとしても、会計などコンプライアンス違反に関わるような業務に携わっていなければ、コンプライアンス違反を行う「機会」はありません。
また、内部統制や監査が機能していれば、実行する「機会」はありません。

ということは、コンプライアンス違反に関わるような業務を担当し、内部統制や監査体制が機能していない、もしくは無視できるほどの役職に就いている場合、発生するリスクが高くなるということになります。

3.姿勢・正当化

倫理感が欠如したり、精神的に追い込まれたりすると不正への抵抗が低い心理状態となり、最終的には不正行為を主観的に「適切である」と正当化してしまうことがあります。

  • 会計操作をしなければ会社が倒産してしまい、従業員が路頭に迷ってしまう。
  • 一時的に借りるだけであって、後から返せば問題ない。
  • 上司に過小評価されているのが問題で、本来はもっと報酬をもらってもおかしくはない。
  • 先輩も過去やってきたことなので、自分がやってしまっても大丈夫。

といったような心理状態を指しています。

これらの3要素が揃った時、人は不正を働きやすいという考え方の理論です。
逆に言えば、一つでも要素が欠けていれば、思いとどまらせることができるとも言えます。

この他に、そもそも不正だとは思っていないケースもあります。
その場合、法律的な知識不足やITリテラシーの欠如、育ってきた文化の違いなどが考えられます。

コンプライアンス遵守を実践する取り組み

コンプライアンスを理解している従業員
それではどのようにすればコンプライアンス違反を未然に防げるでしょうか。

まずは業務を遂行する上で必要な知識・文化を初期段階でしっかりと教え込む必要があります。
この件については、新入社員研修を始め、入社したタイミングで必要な知識をしっかりと身に着けさせるための研修を行い、配属後も定期的に理解度のチェックを行うことが最善の策です。

複雑な対策が必要なのは、不正を不正と知りながら起こす行為をどう防ぐかということです。
「不正のトライアングル理論」における3つの要素について考えてみましょう。

1.動機・プレッシャー

この要素に関しては、多分に個人的な欲求が影響していますのでコントロールするのはとても難しいです。

その中でも、上司が部下に対して過度なプレッシャーを与えないことと徹底することや、何でも相談できるような職場環境づくりを行うことは、対策として実現可能です。

管理職研修やリーダー研修のカリキュラムの中に、コンプライアンス違反につながらないようなコミュニケーションの取り方について組み込むと良いでしょう。

2.機会

業務がブラックボックス化したり、内部統制や監査が機能していないと、コンプライアンス違反を行う機会を作ってしまいますので、社内体制の見直しと整備を徹底して行いましょう。

また、情報管理など、IT分野でのセキュリティが脆弱の場合、不正に情報を得ることができる環境であることが行動に移させてしまう可能性を高めますので強化が必要です。
ITリテラシーを高めるための研修と称して、自社のセキュリティ対策がいかに屈強であるかを全社員に理解させるということも効果的であると考えられます。

3.姿勢・正当化

倫理感の欠如であったり、部下を精神的に追い込んだりといった行為は、現時点での社内の雰囲気や文化に大きく影響していることが考えられます。
過去に起こっている事象や、同業他社で発生している事件などを徹底的に分析して、対策を取るようにしましょう。

特に各種ハラスメントに関しての事象が発生しているのであれば、それを許容する風土が蔓延している可能性があります。
教育体制を見直し、ハラスメントについての研修を再構築するようにしてください。

「不正のトライアングル理論」における3つの要素については、個人の感じ方や感性に大きく左右されるので、全ての人に対して完全な対策を実行することは困難です。
しかし、それぞれの要素について、丁寧に問題点をつぶしていくことは可能です。

そういった細かな対応を続けていくことによって、3つの要素が揃ってしまうことを防ぐことはできます。
大事なことは、現状分析と分析結果に対しての対策を、徹底的に早急に実施することです。
外部のプロによる、制度改革へのアドバイスや研修実施などを上手く活用して、コンプライアンス違反を未然に防ぎましょう。

おすすめのコンプライアンス研修

コンプライアンス研修

コンプライアンスに違反すると会社の信用を失い、最悪の場合、倒産という最悪の事態を招きます。そのような事態を避けるためにも、社員全員がコンプライアンス研修を通してコンプライアンスの重要性を理解し、ルールを遵守しなければなりません。


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