顧客と直に接する営業担当者には、さまざまな悩みがあります。なかでも、
「お客さんと仲良くはなれるけど、契約に結び付かない」
「契約を断られるのが怖くて、踏み込んだ話ができない」
こうしたクロージングにおける悩みを抱えている営業担当者が多いです。
この記事では、営業におけるクロージングの方法や具体的なトーク例を紹介していきます。契約に直結するクロージングの方法を身につけ、営業の成果を高めましょう。
目次
クロージングとは
クロージングとは、「終わりにする」「締めくくる」といった意味の英語です。ビジネスの商談や営業の場面で使う場合、営業の最終段階、つまり顧客と契約を締結することを意味します。
ただし、単なる契約という意味ではなく、「契約にいたるまでのプロセス全体」を指しています。アイスブレイクやヒアリング、オファーと営業にはいろいろな段階がありますが、これらはすべて最終的には契約に結び付けるために行います。それぞれの段階を経て顧客の購買意欲を高めていくので、契約に向かうプロセス全体を指してクロージングといいます。
クロージングは顧客の最終判断に直結するため、営業において最も難しいパートです。クロージングの技術を高め、成約率を向上させましょう。
クロージングの流れ
顧客の悩みのヒアリング、商品やサービスの提案が終わったら、いよいよクロージングです。いきなり「契約しますか?」と迫るのではなく、以下のような流れで自然に進めていきます。
1. 顧客の不安・疑問を解消する
商品やサービスの説明が終わった段階では、顧客の頭の中ではさまざまな疑問が浮かんでいます。例えば、以下のような疑問です。
- 金額が高すぎないか
- 今すぐに購入するべきなのか
- 本当に効果があるのか
- いつまで使えるのか
- 他社の製品やサービスと比べてどうか
これらの疑問は、ヒアリングで聞きだした顧客の悩みをもとに考えていきます。ヒアリング時に顧客の興味関心の方向性をよく確認し、顧客が不安に感じていそうなことを想定して、クロージングで改めて疑問を解消します。
2.契約後のメリットをイメージさせる
顧客の不安を解消させる一押しとして、契約後のメリットをイメージさせる会話をします。
- この商品やサービスを導入すると、顧客の悩みがどのように解決するのか
- 商品やサービスによって、顧客のビジネスがどのように変わるのか
- 商品やサービスを導入しない場合と比べ、どれくらい利益が上がるのか
顧客が契約に対して前向きになれるよう、こうしたトークで将来像をイメージさせていきます。
3. 契約プロセスを確認する
商談相手が決裁者であれば、その場で契約するかどうかを聞きだすことは可能です。しかし、一般的には商談相手は決裁者ではなく、「社に持ち帰って検討します」と言われてしまうことが多いです。
その場合は、契約プロセスを確認し、次の行動を決めておきます。以下のような質問で、次の段階を確実なものにしましょう。
- 決裁者が同席する商談はいつ行えるか
- 次の商談までに誰が何を準備するのか
- 顧客の社内の稟議のため、営業が準備することは何か
最終的な契約につなげるためにも、次回の商談を確実に行えるよう、上記のような必要事項を確認しておきましょう。
営業で成約率を上げるクロージングテクニック
営業フローの中で最も難易度が高いクロージングですが、今すぐに活用できるテクニックが存在します。テクニックを意識しながら営業を実践し、クロージングを得意に変えていきましょう。
BANT情報を確認する
顧客のニーズに合うと考えた商品やサービスを提案したのに、顧客は契約をためらっている…という場合、BANT情報が揃っていないケースが多いです。
BANT(バント)情報とは、以下の4つの項目の頭文字を取ったものです。
- Budget(予算):プロジェクトの予算
- Authority(決裁):導入を承認する決裁者や決裁のプロセス
- Needs(需要):企業にとっての需要・ニーズ
- Timeframe(導入時期):いつからいつまで必要か
いずれも、企業が他社と契約を結ぶときの判断材料となる情報です。顧客のBANT情報を聞き出し、いかに自社の商品やサービスが顧客の現状にマッチしているかをアピールしましょう。
よくあるミスが、商談相手にアピールすることに集中するあまり、決裁者の視点が抜け落ちていることです。良い雰囲気で商談を終えたのに、あとで「私は良いと思ったのですが、上がダメだと言うので…」と断られた経験はないでしょうか。
決裁者が商談相手の上司なら、その人を説得できる材料をそろえなければなりません。商談相手と一緒に上司を説得するつもりで提案を練りましょう。
テストクロージングをする
テストクロージングは、小さな合意を積み重ねるテクニックです。営業の最後にいきなり「契約するかどうか決めてください」と大きな決断を迫られても、商談相手は困ってしまいます。決断に対するハードルを下げるため、小さな決断を積み重ねていく必要があるのです。
テストクロージングでは、以下のように「はい・いいえ」で答えやすい質問を活用します。なおかつ、「はい」で答えられる質問にすると効果的です。
- 商品について、詳しくご説明してもよろしいですか?
- ここまで説明したことを、ご理解いただけましたでしょうか?
- この商品に魅力を感じていただけましたか?
- 仮にご契約いただけた場合、このように進めてよろしいでしょうか?
このような質問はクロージングの段階だけでなく、商品やサービスの説明を行うオファーやプレゼンの段階から行います。
「はい」で答えやすい質問にすることも重要です。会話の相手は、「はい」の回答を重ねるうちに、次の質もにも「はい」と回答しやすい心理状態になるからです。このテクニックは「イエスセット話法」と呼ばれ、何度もイエスの返事を繰り返すうちに、イエスと答えやすくなってしまうという心理学に基づいています。参考:JPCPA 日本実践コミュニケーション心理学協会「イエスセット【NLP実践集】
初対面の相手とラポールを築く」
二回に分けてクロージングをする
大きな決断を迫るときは、一回で決断させるのではなく、二段階に分けて決断してもらうテクニックが使えます。一回目では高い要求を示し、相手に一度否定させるのです。二回目では難易度を下げた要求をすることで、相手が承認しやすくなります。
例えば、顧客の予算感が100万円だった場合、まずはオプションをフルセットでつけた高額なプランを提案します。200万円など、予算を大幅にはみ出す価格の場合、顧客は「契約できない」と否定するでしょう。
次に、顧客にとって必要なオプションを厳選し、不要なものを取り除いていきます。予算も顧客の希望に応じ、100万円に収めます。こうすると、顧客は「かなり安くなってお得だ」「自社のニーズに最適化されている」と感じるため、合意へのハードルはかなり低くなります。
イエスバット法を用いる
イエスバット法(YES BUT法)とは、相手の意見を頭ごなしに否定することなく、認めた上で自分の意見を伝える話法です。顧客が「値段がちょっと高すぎるなあ」「うちの会社には難しいんじゃないかな」といったネガティブな反応を示したときに活用できます。
ネガティブな反応があっても、いきなり「ですが」「しかし」と顧客を否定してはいけません。「たしかに、お気持ちはよくわかります」と、まずは受け止めるのです。これがイエスバット法における「イエス」の部分です。
顧客の意見に一旦頷いたあと、「ですが、この商品にはこのようなメリットがあり~」というふうに、デメリットを上回るメリットがあることを伝えます。これがイエスバット方における「バット(=しかし)」の部分です。
イエスバット法では、クッション言葉をうまく活用し、顧客の意見を否定せずに自分の意見を伝えます。顧客がデメリットを気にする素振りを見せたら活用してみましょう。
顧客の沈黙を尊重する
商談や営業において、沈黙の時間があると不安になる方は大勢います。顧客がなにかを考え込んで黙っていると不安になり、ついペラペラと喋ってしまうと心当たりのある方は多いでしょう。
しかし、顧客は黙っている間、商品やサービスを導入するかどうか真剣に考えています。顧客が考えている時間は尊重し、沈黙を邪魔しないようにしましょう。これもひとつのテクニックです。
顧客がせっかく真剣に考えているのに、営業が喋り始めて思考を妨害したら、顧客は「せっかく考えているのに邪魔をされた」「考える時間を与えてくれない」と迷惑に感じます。これでは制約率が下がってしまうのも当然です。顧客が黙って考えているときは、沈黙を尊重しましょう。
ただし、沈黙の時間が長すぎる場合は、顧客が悩みすぎている可能性があります。「ご不明点があれば、何でもご説明するので、遠慮しないでおっしゃってください」といった声かけをして、顧客の判断を手助けしましょう。
段階別:明日から使える具体的なトーク例
クロージングでは、顧客の検討段階に応じたトークが肝心です。段階別に、すぐに使える具体的なトーク例を紹介していきます。
導入するメリットを押さえる
まず、顧客が商品に魅力を感じ、導入したいと思ってもらえる段階を目指します。ここでは、以下のようなトークでメリットを伝えましょう。
営業「この商品を御社で使っているところをイメージできますか?」
顧客「うーん、わからないですね」
営業「たとえば、○○という使い方ができます。ほかにも、他社では△△に役立っています」
顧客「そうなんですか」
営業「導入前は××だったのに、導入によって◎◎という効果が出た、という話も伺っています」
このように、具体例を出して商品やサービスが役に立つことを訴求します。事例は具体的であるほど説得力を持つので、他社の導入実績やフィードバックは、可能な範囲でセールストークに盛り込みましょう。
価格に納得してもらう
営業の成否を決める重要な要素が価格です。顧客がその商品やサービスに疎い場合、営業が提案する価格が高いのか安いのかわからず、契約するのが損なのか得なのか判断できません。そこで、以下のようなトークでお得であることをアピールしましょう。
営業「価格は○○円ですが、いかがでしょうか?」
顧客「うーん、ちょっと高いような気がします」
営業「そうですね、確かに安くはないですよね。ですが、業界の相場としては平均的です。他社の製品と比べて△△のような機能があるのが弊社製品の特徴ですが、これがついてこの価格というのは、むしろお安いほうかと」
顧客「なるほど…」
営業「これより安い商品ですと、旧式のタイプになるので、不具合が出やすいです。修理やアフターサービスにかかる費用を考えれば、新商品を買ったほうがお得ですよ」
このように、自社の商品やサービスが特別高価なわけではないことを伝えます。ただし、事実に基づいて説得してください。他社のほうが低価格なのに、「弊社が一番お安くできます」などと言うのはNGです。
契約しないデメリットを訴求する
顧客が商品やサービスを導入するメリットを把握し、価格にも納得できたのに、なぜか契約を渋っている…という場合に考えられるのは、「今まで欲しいと思ったことがないから、これからもいらない」と感じているからです。顧客にとって、営業が紹介する商品やサービスは、今まで不要だったものです。いくらメリットがあるといっても、今までいらなかったものを買う理由にはなりません。
そこで、契約しない場合にどんなデメリットがあるのかを訴求します。以下のようなトークで進めていきましょう。
顧客「良い商品なのはわかったけど、わざわざ導入するほどの必要性は感じられないですね…」
営業「確かにそうですよね。ですが、今導入しなかった場合、○○というリスクが考えられます。御社にとって大きな損害になるのではないでしょうか?」
顧客「なるほど、確かにそのリスクは困るな…」
このようなトークで契約しなかった場合のデメリットを伝え、顧客の心を動かします。商談や営業に臨む際は、商品やサービスのメリットだけでなく、契約しない場合のデメリットも準備しておきましょう。
お悩み別:クロージングのポイント
営業は対面だけで行うとは限りません。メールや電話で顧客とコミュニケーションを取ることもありますが、どうしたら上手にクロージングができるのか、悩んでいる人は多いです。そこでこの章では、お悩み別にクロージングのポイントを解説していきます。
メールでのクロージング方法を知りたい
メールで営業するときは、1通のメールを簡潔にまとめるようにしましょう。あれもこれも言いたくなって長文になりがちですが、文章が長くなればなるほど、顧客は読んでくれなくなります。
メールの場合、1通でクロージングまで持っていく必要はありません。何度もメールのやりとりを重ね、顧客のことを知り、自社の情報も開示していきます。クロージングを目指す前に、信頼関係を構築しましょう。
クロージングに行動を移すのは、顧客から積極的なアクションがあったときです。例えば、メールで質問が来たり、悩みの相談があったタイミングです。こうしたアクションがあったら、クロージングに向けて営業を進めましょう。
電話でクロージングする時のポイントを知りたい
電話の営業は、基本的には対面の営業と同じように進めていきます。ただし、気を付けなければならないのが声の表情です。対面と異なり、電話は相手に声しか届けることができないからです。
疲れた声やいら立っている声、または早口で聞き取りにくい喋り方で営業をしても、商品やサービスの魅力は伝わりません。顔の筋肉をほぐして、明るい声でゆっくりと話しましょう。
ハキハキと喋ることに加え、重要なことを復唱するのも有効です。電話だと情報が顧客の耳を通過してしまうことが多いからです。重要なことはゆっくり話し、場合によっては繰り返して伝えることで、クロージングをうまく運ぶことができます。
このようなテクニックを使えば、ある程度は上手にクロージングができるようになります。しかし、一般的な例になるため、あなたの業種・業界で本当に役に立つ営業力が身につくとは限りません。
会社全体として営業力を底上げしたいなら、営業研修を導入するのがおすすめです。研修会社が主催する営業研修は、カリキュラムを自社に合った内容にカスタマイズしてくれるからです。会社や業界に合った営業力を社員に身につけてもらうためにも、研修会社に相談してみましょう。
営業成績が上がると社員のモチベーションが上がり、業績を非常に良くなります。優秀な営業マンを育てるために営業研修を導入しましょう。より実践的で効果の高い営業研修を紹介します。
オンライン営業のクロージングの違いとコツ
コロナ禍に突入してから、対面での営業にかわり、オンラインでの営業が増加しました。しかし、従来の営業スタイルが通用しないオンラインでの営業にやりにくさを感じている人は大勢います。
基本的には対面での営業と同じ流れで進めていきますが、オンラインの場合は以下のポイントに特に気を配りましょう。
- 1回の商談を短く、簡潔にする
- パソコン画面でも見やすい資料を作成する
- 顧客の会社や業界を深く理解する
画面越しだと、人は集中力が持続しにくい傾向があるので、1回の商談は短くまとめるようにしましょう。短時間で顧客と深いやり取りをするためにも、パソコン画面で見やすい資料を作成したり、顧客のことを事前に理解しておく必要があります。
失注になったときの対応のポイント
100%成功するクロージングの方法は存在しないので、努力しても失注になってしまうことはあります。落ち込んでしまう営業担当者もいますが、失注こそチャンス。次の成果につなげるため、これから解説するような対応をしましょう。
顧客を丁寧にフォローする
契約に結び付かなかったとき、落ち込むのは営業だけではありません。顧客のほうも、「いろいろと教えてくれたのに、契約できなくて申し訳ないな…」という気持ちになっています。
こんなときこそ、以下のようなトークで丁寧に対応し、良い印象を与えましょう。
- 今回は残念でしたが、御社とは長くお付き合いさせていただきたいです
- お困りのことがございましたら、いつでもご連絡ください
間違っても、顧客に対して嫌味や文句を言ってはいけません。丁寧に対応すれば、顧客に「申し訳ないことをしたのに、親切な営業だな。次回はこの会社にお願いしたいな」と思ってもらえる可能性があります。
失注の理由をヒアリングする
顧客に選ばれなかったときは、必ず理由があります。なぜ失注したのかを聞いて自社に持ち帰り、商品やサービスの改善やマーケティング・営業方法の改善につなげましょう。
失注の原因としては、例えば以下のようなものがあります。
- 予算が合わない
- 納期が間に合わない
- 他社の商品・サービスのほうが魅力的または低価格
- 今すぐに導入する必要はない
こうした原因に加え、以下のように営業担当者の原因も考えられます。
- 営業担当者が信用できない
- 失礼な発言をされて気分を害した
- 時間や期限を守らないので、取引したくない
このような原因がある場合、顧客は営業に対して本音を言わず、「上司が承認してくれなくて…」などの建前を使います。失注した本当の原因をヒアリングするためには、直接の営業担当者だけでなく、その上司などが出向いたほうが良い場合があります。
顧客と丁寧なやり取りを続ける
一度失注すると自信をなくし、その顧客とは連絡を取らなくなる営業担当者は多いです。しかし、これは見込み客をわざわざ自分から切り捨てているのと同じこと。失注後こそ、顧客と丁寧なやり取りを続け、親密な関係を維持しましょう。
失注したとはいえ、顧客は一度、自社の商品やサービスを検討してくれています。乗り換えや買い替えのチャンスがあるので、顧客が気軽に相談しやすい関係を維持しておくようにします。