パワーハラスメント防止法施行により、企業での教育や指導に対しての意識が変わってきています。
現場からは「反抗的な部下への叱り方がわからない」「きつく注意が必要な場面での叱り方に困る」などの声が聞かれるものの、経営者や人事担当者もどうアドバイスをすべきか、戸惑いを持っています。
ここでは叱るとはどういうことなのか、叱り方のポイント、ケース別の叱り方について解説しています。実践しやすい内容になっていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
「怒る」と「叱る」の違い
まず「怒る」と「叱る」の違いを理解しましょう。
ここを間違ってしまうと、適切な指導ができないばかりではなく、部下との信頼関係も揺らいでしまいます。
「怒る」は、私情をそのままぶつける行為で、「叱る」は相手に何かを伝える行為です。
自分の思い通りの結果にならずイライラして、そのイライラを部下に言葉や態度で表現すると「怒り」になります。
それに対して、思い通りの結果にならなかった事実と改善策を伝えるのが「叱る」です。
デキる上司の叱り方4つのステップ
叱り上手の上司は部下からの信頼も厚く、パワハラと誤解されることはありません。次の4つの段階を意識するだけでも叱り方が変わります。
場所とタイミングを決める
第一のステップは「叱る場所と時間の決定」です。
落ち着いて話せる場所と時間を確保します。あらかじめ話がある旨を伝えておくことで、部下の心の準備もできますし、上司の気持ちも冷静になれます。
事実を伝える
第二のステップは「客観的に話す」です。
上司の感情や私情を交えず事実だけを伝えます。
ミスをした原因やその結果、今後の問題点など、客観的データがあればそれを使いながら話をします。
改善点を具体的に伝える
第三のステップは「具体的に」です。
アドバイスは1つずつ具体的なやり方を伝えます。
行動を1つクリアするごとに達成感が生まれ、自信回復にもなります。
前向きな気持ちになる言葉で締める
第四ステップは「部下のモチベーションを上げる」です。
必ず伝えたいことが伝わっているかを確認し、最後は前向きになる言葉で締めます。
ミスをした部下はその重みを本人が一番良くわかっています。フォローの意味も込めて言葉選びは慎重にします。
参考:Taro-資料『リフレーミング辞典』
優秀な人材を育成する叱り方3つのポイント
叱り方で社員の成長を止めることも促すこともできます。良い人材育成につながる叱り方のポイントは3つです。
承認とセットで叱る
叱る時は承認と必ずセットにします。
叱る時の構成として、
- 日ごろの行動を褒める
- 今回のミスを注意する
- 期待していることを伝える
まじめな人ほど1回のミスで「失敗した!もうダメだ!」と悩みがちです。評価していることを伝え、部下のやる気を奮起させます。
叱る時はマンツーマンで
叱る時の基本は1対1です。
みんながいる前では恥ずかしさや情けなさを感じ、指導されている内容がまったく頭に残りません。
これは周囲の社員への気遣いでもあります。
他の人が叱られているのを聞いたことでメンタル不調をきたし、パワハラと認定されたケースがありますので、細心の注意を払いましょう。
メリハリをつける
注意すべき時ははしっかり叱るようにします。そして叱った後は気を使いすぎず、普段通りに接することが大切です。
行動や言葉にメリハリをつけることで、言いたいことが伝わりやすくなりますし、部下に良い緊張感を与えることもできます。
部下を混乱・不快にさせる間違った叱り方
叱る時に絶対にしてはいけないNG行動があります。NG行動を繰り返すとパワハラと言われてしまいます。
気分で叱り方を変える
同じミスでも上司の気分によって注意されたりされなかったりすると、信頼は一気に崩れます。
管理職とはいえ人間ですから部下との相性もあると思いますが、相手によって態度を変えるのも絶対にしてはいけないことです。
否定の言葉を使う
「馬鹿!」
「使えん奴だ!」
「小学生でもできる!」
など、人格を否定するような発言は以ての外です。
否定の言葉を言われるとどんどん委縮し、次のミスを招くだけです。
人と比べる
他の社員と比べるような言い方をするのはNGです。
「あいつならもっと上手くできる」
「前の担当者はこんなミスはしなかった」
など、比べることでその人の能力すべてを否定しているのと同じです。
シチュエーション別の叱り方
叱り方もシチュエーションにより少し変える必要があります。叱るポイントや叱る強さを変えることで効果的な叱り方になりパワハラ対策につながります。
遅刻
まずは遅刻した理由を聞きます。その上で、遅刻することで会社に与える損害やチームへの影響を伝えます。
対策は本人に考えてもらい、自分自身と仕事への責任を持ってもらうことが重要です。
「クビだ」「仕事辞めてしまえ」というような脅し文句は逆効果です。
身だしなみ
人によって『きちんとしている』基準が違うため、指摘されてもピンとこないことがあります。
他の社員との違いを伝えたり、雑誌などを参考に改善点を示すと納得が得られます。
「もう少し小さめのアクセサリーで」
「あまり派手過ぎない色で」
というような、曖昧な表現はNGです。
何度も同じミスを繰り返す
ミスした仕事の目的や意味を理解できているかを確認します。
理解できていれば、ミスをした仕事を細かく分解し、どの部分でミスが起こるのかを明確にすることが大事です。
理解できていない場合は、叱っても伝わらないことが多いため、この仕事がなぜ必要なのかから説明します。
できて当たり前、知っていて当たり前という意識で叱ると、部下は質問もできなくなるのでいつまで経ってもわからないままミスが続きます。
反抗的な態度を取る
上司や会社に言いたいこと、思っていることはないかを聞くことから始めます。
その内容を踏まえて、どうしたいかを言ってもらいます。対応できる部分は対応し、できない部分は理論的に説明をします。
反抗的な部下は、上司を下に見ている場合がありますので、叱ることでさらに反抗的な態度になる可能性があります。感情的に話をしたり、上司の立場を誇張すると逆効果です。
ケガや事故につながる行動への注意
安全に関わることは、「あなたの安全が気がかり」であることを強調した注意の仕方が必要です。これが伝われば少しくらい強く注意をしても伝わります。
また、自社他社問わず、事故の事例や経験があればそれを引き合いに出しても効果的です。
理論なき「ダメ」「やるな」では説得力はありません。
普段からの信頼関係構築がカギ
パワハラは注意をされた側の捉え方が重要となるため、職場内のコミュニケーションが大きく関わってきます。
人間関係が良ければ言いたいことは伝わりますし、少しキツイ表現や口調になったとしても「心配してくれている」と好意的に捉えてもらえます。
職場での信頼関係の築き方や正しい叱り方については、企業研修を導入しましょう。専門知識を持った講師からの指導は、「自分はできている」と勘違いしていたり、「自分はずっとこれでやってきた」と考えを変えない管理職への気付きに繋がります。経営者や人事担当だけが問題に取り組むのではなく、社員ひとりひとりにハラスメントをしない・させない意識付けをしていきましょう。
ハラスメントは現在70を超える種類が存在しています。ハラスメントを起こさない、起こさせないために、企業全体でハラスメント研修を通して正しい知識と行動喚起を進めていくことが大切です。