これまでパワハラの経験があっても我慢する傾向が強くありましたが、2020年からのパワーハラスメント防止法施行に伴い、行動を起こしやすくなりました。
経営者や人事担当者は、相談を受けた時に迅速に対処しなければなりません。
ここでは、相談を受けた時にすべき具体的な対処について、様々な視点から解説しています。
パワハラに関する相談を放置すると大変なことになりますので、平時から備えておきましょう。
社員からパワハラ被害の相談があったら
パワハラの相談を受けた場合は、大きなトラブルに発展しないよう迅速かつ丁寧な措置が必要です。 具体的な行動の一例をご紹介します。
事実確認をおこなう
まずは被害者の話を聞き、相談者の了承を得て加害者への聞き取りをします。
被害者の中には相談したことが加害者の耳に入り、状況が悪化することを恐れている方もいますので、どこまでの対応を希望するのかなどの意向を確認します。
この時、被害者と加害者が直接会わない、連絡を取らないなどの配慮をするとともに、外部に漏れないように配慮が必要です。
パワハラの証拠の確認
次にパワハラを立証する証拠を集めます。
被害者がすでに証拠を持っている場合はすべて提出してもらい、明らかな証拠がない場合は、プライバシーを保護できる範囲でメール等の文章、目撃者などからパワハラの裏付けをします。
パワハラの判定
ヒアリングや調査から本当にパワハラがあったかの検討をおこないます。
被害者、加害者共に主観で話をしますので、嫌がらせや行き過ぎた指導がなかったか、立場や職務に必要な指導だったかなど、就業規則や厚生労働省の定義などと照らし合わせて総合的に判断します。
被害者・加害者への対応
パワハラの確認ができたケースと確認できなかったケースでは対応が変わりますがどちらににしても、両者に対しての指導とフォローが必要になります。
特に被害者が体調不良をきたしている場合は、医師と相談をしながら休職や職場復帰への支援が必要です。
また、加害者へも言動を責めるのではなく、今後改善するための指導が必須です。
パワハラ再発防止への取り組み
パワハラは秘密裏に調査や対処をするのが難しい問題です。
他の社員への影響も少なからずあり、同じことが繰り返さないように企業としての取り組みを再度見直し、監督する義務があります。
パワハラの実態調査をする時の注意点
パワハラはどこでも起こり得ることですが、とても繊細な問題です。そのため実態調査やヒアリングは次のような注意を払うことが大切です。
プライバシーへの配慮
被害者の名前や被害状況が漏れると二次被害の可能性が出てきます。
安心して相談し、解決までの時間を過ごせるようにプライバシー保護は最優先です。
相談窓口を利用する時の既定の中にプライバシーへの配慮を盛り込むのはもちろんですが、相談をしに来た時点でも改めて伝えることで安心感を与えることができます。
中立な立場を保つ
相談を受ける者は、被害者や加害者の勤務状況や態度などから先入観を持たず、中立でいなければなりません。
『どちらかの味方』という印象を与えてしまうと、被害者や加害者はもちろんですが、同僚への調査でも今後の仕事に支障が出るのではないかと思い、事実把握が難しくなります。
話しやすい環境を整える
被害者は精神的ストレスを抱えていますので、安心して話せる環境と言葉かけが必要です。
話す部屋も圧迫感のない空間で、担当者1人が対応するようにするとリラックスできます。
1回の相談時間は長くならないように気をつけましょう。1回1時間を目安にして、数回に分けて話を聞くのが理想です。
パワハラ加害者への対処方法
パワハラは加害者への対処もとても重要です。パワハラは被害者だけではなく加害者も精神的苦痛を感じる可能性がありますので、注意して対処しましょう。
パワハラ調査の結果確認
パワハラに該当する行為や発言について、本人が納得できるように説明をします。
ハラスメントでは加害者自身に自覚がないケースも多いため、結果報告と確認はとても重要です。
再発防止のための指導・教育
加害者を叱責するのではなく、同じことを繰り返さないように目的を明確にした教育が必要です。
定期的な面談をする、業務中の様子を確認する、パワハラについての研修を受けるなど、継続できるプログラムを作成します。
就業規則等に従った処分
パワハラの内容や程度、本人の意思などを考慮し処分を下します。
処分には降格や減給などが多く、悪質な場合は解雇などが考えられます。両者の要望を聞き、必要に応じて部署異動や配置転換などの対処も必要です。
就業規則当に従い、被害者も加害者も他の従業員も納得できる適正な処分が求められます。
パワハラ相談を無視・対処遅延で起こりえる企業リスク
パワハラは個人の問題として放置すると企業に多大なる損害が発生します。特に3つの重大なリスクが考えられます。
訴訟の恐れ
嫌がらせやいじめが理由の裁判は増加の一途をたどっています。
個人を訴えてたとしても、企業が十分な対応をしていないと判断されると、加害者だけではなく経営者や企業が損害賠償を請求させる可能性があります。
職場でのパワハラは決して個人だけの問題ではなく、企業の責任でもあるのです。
参考:厚生労働省『「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します』
企業のイメージダウンの恐れ
SNSの普及により誰でも簡単に情報を流し拡散できる時代になりました。
一度広がった噂を否定しても払拭するのは簡単ではありませんし、ネガティブな印象は人の心に残りやすいため信頼は一気に損なわれます。
人材流出の恐れ
パワハラは周囲も気づいていることが多く、対処の遅れが企業への信頼損失の原因になります。
社員を守ってくれない会社に見切りを付け、退職する人が増える可能性があります。
パワハラを起こさせないために
パワハラ対策は起こる前から行動しなければ効果がありません。経営者や人事が中心となって取り組み、パワハラが起こらない職場作りを進めましょう。
正しい注意指導方法を理解する
研修等でパワハラにならない指導方法を、管理職だけではなく全社員で学び共有することが大切です。
正しい知識と対処方法を知ることで、職場全体で共通認識ができ注意喚起が可能です。
一人ひとりが「パワハラをしない、させない、見過ごさない」意識を持つことが最強の対策です。
信頼関係を築ける社内環境
パワハラは日ごろの人間関係に左右されることが多く、良い人間関係が築けている職場では注意したことも素直に受け入れられたり、注意後のフォローがしやすくなります。
パワハラ防止には、職場のコミュニケーションを良くするための工夫や知識習得が必須です。
早期発見できる仕組みづくり
相談しやすい環境、相談後の速やかな対応ができる体制を整えるのはもちろんですが、定期的な面談やアンケート等で現状を把握することで、パワハラの早期発見につながります。
企業の規模や従業員数、業種により適切な仕組みづくりが変わってきますので、専門家からのアドバイスを求めることも必要です。
ハラスメントは現在70を超える種類が存在しています。ハラスメントを起こさない、起こさせないために、企業全体でハラスメント研修を通して正しい知識と行動喚起を進めていくことが大切です。
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