アダプティブリーダーシップとは、ハーバード大学の名物教授であるロナルド・A・ハイフェッツ氏が提唱するリーダーシップです。複雑さを増す現代社会において、会社やチームをうまくかじ取りするリーダーのための方法論として、注目を浴びています。
ハイフェッツ氏はIBM、マイクロソフト、マッキンゼー、世界銀行、CIAなどの企業、政府、NGOのアドバイザーも務め、日本ではNHK教育テレビ『リーダーシップ白熱教室』でも知られる専門家です。経験と知識を活かした独自のリーダーシップ論は名だたる企業のリーダーや優秀な学生を惹きつけ、ハーバード大学での講義は卒業生の「最も影響を受けた授業」に選出されました。
ハイフェッツ氏に加え、ビジネスやリーダーシップの専門家であるマーティ・リンスキー氏、アレクサンダー・グラショウ氏の3名による著書『最難関のリーダーシップ』で、アダプティブリーダーシップが詳しく解説されています。この記事では、本書を読む前にざっくりとアダプティブリーダーシップについて理解したい、自分にもできそうか考えたい、という方のために、アダプティブリーダーシップの概要を解説していきます。
アダプティブリーダーシップを身につけるなら、研修の実施がおすすめです。既存の方法で解決できない課題と向き合うからこそ、インプットするだけでなくケーススタディでの実践的な習得が重要です。
キーセッションではハイフェッツ氏から直接学んだ講師による研修など、貴社にぴったりなアダプティブリーダーシップの研修をご紹介できます。予算と目的を頂ければ無料相談が可能です。
あらゆる課題を解決できる人材を育成するアダプティブリーダーシップ研修 (3日間)
アダプティブリーダーシップ研修は、既成の手段では解決できない『”アダプティブな問題”解決のために発揮するリーダーシップ』を学ぶための研修です。このリーダーシップは技術的な問題に対しても活用することができます。
目次
アダプティブリーダーシップとは
アダプティブリーダーシップは「適応型リーダーシップ」とも訳されます。従来の企業が取り組んできた課題を「技術的課題」とすると、現代の多くの課題は「適応課題」であるとし、適応課題を解決するためのリーダーシップを「アダプティブリーダーシップ」と呼んでいます。
技術的課題・適応課題とは何か、アダプティブリーダーシップはどのような場面で効果を発揮するのか、詳しく解説していきます。
技術的課題・適応課題の違い
まずは従来の課題である「技術的課題」と、現代の課題の大部分を占める「適応課題」の意味と違いについてです。
技術的課題とは、技術や知識といった科学的なアプローチで解決できる課題のことです。例えば、テレワークの実現という目標における技術的な課題は、社員が自宅でパソコンを使える環境の整備、自宅のネットワークを使用した際のセキュリティー整備、ウェブ会議のためのカメラ導入などが挙げられます。いずれも技術で解決できる問題であり、技術的課題です。
適応課題は、技術で解決することができず、メンバーの価値観やものの見方、考え方を転換し、行動を変えなければ解決しない課題のことです。
同様にテレワーク実現という目標を仮定すると、適応課題には、
- 育児・家事と仕事の線引きがしにくくなる
- 共働きの夫婦がひとつの家で仕事をするためスペースの分け方を考えなければならない
- 長時間自宅にいるため外でストレス発散ができない
といった課題が挙げられます。
こうした課題は基本的には技術で解決できず、現場の社員から経営層までが自分の考え方を見直したり、周囲との関係性を変えたりしなければ解決しません。
少し前までの日本は技術的課題が多く、例えば電化製品を進化させたり新たな鉄道路線を開通させるなど、進歩する方向で課題を解決してきました。しかし、21世紀の現代はある程度は居心地のよい社会が出来上がっており、大きな技術的課題はあまり見られません。
したがって、これからは技術的課題を見つけるのではなく、適応課題を見つけて取り組まなければなりません。むしろ、今までの経験や知識を捨てて価値観を変革し、適応課題に取り組む必要があります。よって、現代社会のリーダーにはアダプティブリーダーシップが必要なのです。
不確実な社会に適応できるリーダーシップ
現代社会は移り変わりが非常に早く、先行きが不透明で不確実です。業績が好調な企業ですら現状を維持するのも難しく、常に新たな事業を考えなければなりません。
このような社会を生き抜くために必要なのが、アダプティブリーダーシップによる適応です。ここで要求される「適応」とは、動物の進化に似ています。
人類の始まりは数万年前にさかのぼりますが、四足歩行から二足歩行への進化、脳の拡大という進化など、膨大な時間をかけてその時代に適応するために進化してきました。我々は火を発見したり機械を発明したりして科学にも頼って進歩してきましたが、今、再び進化しなければならないのです。科学に頼って解決できる技術的課題が少なくなり、不確実な社会における適応課題が残っている状態だからです。
すなわち、アダプティブリーダーシップの根本には変化があります。変化を恐れないだけでなく、積極的に過去の知識や経験を捨て去って新しい価値観を受け入れることが、アダプティブリーダーシップの基本です。
メンバー一人一人の価値を引き出す
アダプティブリーダーシップとは、多様性に富んだメンバー一人一人の価値を引き出すことでもあります。チームのメンバー全員が活躍する組織につながります。
適応のお手本として自然を見てみると、この世界には多様な動植物がいます。全く同じ種はおらず、体の大きさや強さ、食べるもの、習性などがすべて異なります。もし地球環境が大きく変化したら、滅亡する種もあるかもしれませんが、生き残る種もあるはずです。一種類の生物しかいなければ、環境の変化で生命が滅亡してしまうかもしれませんが、そうはならないと考えられます。多様な種がいることで、地球上の生物全体としては多少の危機は乗り越えられると言えます。
会社を始めとする組織も同様で、異なる価値観を持った多様な人材がいたほうが、存続できる可能性が高まります。もし同じような価値観のメンバーしかいなければ、1人しかいないのと同じだからです。大人数が集まって変わり映えしないアイディアや企画が持ち上がるなら、不確実な社会では全滅してしまう可能性があります。
そこで、異なる価値観を持つメンバーでチームを編成するのが、不確実な社会への有効な対応策となります。とはいっても個性を潰すようなリーダーでは本末転倒なので、リーダーにはメンバーの価値を引き出すアダプティブリーダーシップが必要なのです。
アダプティブリーダーシップを身につける方法・実践方法
続いて、アダプティブリーダーシップを身につける方法について解説していきます。ここで解説する内容は、そのままアダプティブリーダーシップを現場で発揮するやり方でもあります。以下で解説することをビジネスの現場でも実践し、理論だけでなくアダプティブリーダーシップを自分のものとして身につけましょう。
周囲の出来事を観察する
アダプティブリーダーシップを発揮するには、まず適応課題を見つけなければなりません。そのためには、周囲の出来事を観察することから始めます。
ここで問題となるのが、観察する人の経験や知識によって、観察される内容が変わることです。例えば、美術に詳しいAさんと詳しくないBさんが美術館に行き、同じ作品を見ても異なる感想を抱くのと同じです。Aさんの理解度に対し、Bさんの理解度は低くなってしまうでしょう。
このように、観察は主観に引きずられやすいことを理解しておかなければなりません。その上で、リーダーは客観的な観察を目指します。『最難関のリーダーシップ』では、このことを「バルコニーに上がる」と表現します。現場から少し距離を置き、外側から自分と他者を見つめ直します。
そうは言っても、会議やビジネスの現場で自分がプレーヤーを務めながら、さらに客観的な観察をするのは難しいです。あえて、会議を外側から見ているオブザーバーのような立場を設けるのも有効です。
何が起きているのか仮説を立てる
観察の結果に基づき、どのような適応課題があるのかを話し合います。しかし、観察された事実に対し、何が問題であるかは人によって解釈が異なります。極端な例を出すと、Aさんは「この問題はBさんが原因だ」と言い、Bさんは「Aさんが原因だ」と言うような矛盾した状態もあり得ます。
誰かが正しいかもしれませんし、全員が間違っているかもしれません。リーダーはメンバーの誰かに肩入れしたり、自分の考えと近い人を擁護したりするのではなく、全体を冷静に見て観察します。話し合いでは発言の内容だけでなく、ボディランゲージや表情など言葉ではない表現にも気を付けます。
温厚な日本人は意見のぶつけ合いによって雰囲気が悪くなることを不安視しますが、このような意見交換は悪いことではありません。多様な視点を把握できるので、歓迎してもよいくらいです。一人では思いつかないくらいの解釈が生まれるからです。リーダーは多様な考えを理解し、いくつかの仮説を立てます。
特定した適応課題に取り組む
仮説を立てたら、その課題の解決のために小さなアクションを取りましょう。いきなり会社や組織全体を動かすのではなく、小規模なチームで解決策を試し、うまく行ったら大きな組織に広げていくのです。
適応課題への解決策は、既存の価値観を変えることでもあります。新しい価値観にすぐに馴染めるメンバーもいれば、受け入れられず孤立したり、仕事が滞ったりするメンバーもいるでしょう。彼らとコミュニケーションを取って意見を聞いたり、どうしてほしいのかをヒアリングしましょう。新しい価値観は彼らにまったくメリットがないのか、一緒に考えるのです。
それでも対応策がうまく嵌らなければ、対応策を考え直したり、別の仮説を立てたりします。課題を解決できたら、次の適応課題に取り組むため、また観察からスタートします。この繰り返しが、アダプティブリーダーシップそのものと言えます。
アダプティブリーダーシップ研修を受講する
最先端のビジネス理論に強い研修会社の中には、アダプティブリーダーシップ研修を主催する企業があります。理論を理解しても、具体的にどのように実践したらよいのか悩んでしまう方は、アダプティブリーダーシップ研修を受講するとよいでしょう。
アダプティブリーダーシップ研修では座学だけでなく、実際のビジネスの現場を想定したケーススタディやロールプレイングにも取り組みます。現場でありがちなシチュエーションにおいて、アダプティブリーダーシップの観点からはどのように振る舞うのがよいのか理解することができます。
実践形式でアダプティブリーダーシップを学びたい方は、アダプティブリーダーシップ研修の受講を検討しましょう。
あらゆる課題を解決できる人材を育成するアダプティブリーダーシップ研修 (3日間)
アダプティブリーダーシップ研修は、既成の手段では解決できない『”アダプティブな問題”解決のために発揮するリーダーシップ』を学ぶための研修です。このリーダーシップは技術的な問題に対しても活用することができます。
アダプティブリーダーシップを学び常に結果を出せる組織へ
アダプティブリーダーシップの意味と身につけ方、実践方法を解説してきました。技術的課題が少なくなり、適応課題が増えてきている現代社会において、アダプティブリーダーシップは不可欠な概念です。
不確実な社会で結果を出し続けるためにも、メンバーの多様性を最大限に生かして組織をかじ取りする必要性が高まっています。アダプティブリーダーシップを学び、常に結果を出せる組織に成長しましょう。
あらゆる課題を解決できる人材を育成するアダプティブリーダーシップ研修 (3日間)
アダプティブリーダーシップ研修は、既成の手段では解決できない『”アダプティブな問題”解決のために発揮するリーダーシップ』を学ぶための研修です。このリーダーシップは技術的な問題に対しても活用することができます。