
近年、ビジネスのグローバル化が加速する中で、「グローバル・コンピテンシー」という概念が注目を集めています。これは、多文化環境に適応し、異なる価値観を持つ人々と円滑に協働するための知識・スキル・態度の総称です。
本記事では、グローバル・コンピテンシーが求められる背景、具体的なスキルの構成要素、日本企業における課題とその克服策について詳しく解説します。特に、日本企業は言語の壁や異文化対応の難しさに直面しており、EF英語能力指数での日本の順位低下はその一例です。さらに、異文化ギャップの管理やデジタルリテラシーの向上も重要な課題として挙げられます。
これからの時代、グローバル市場で競争力を維持するためには、企業として戦略的にグローバル人材を育成し、組織全体でグローバル・コンピテンシーを高めていくことが求められます。そのための具体的な取り組みや研修の活用方法についても、実践的な視点からご紹介します。
目次
グローバル・コンピテンシーとは?
グローバル・コンピテンシーという言葉をご存知でしょうか。これは一言で言えば、「グローバルな環境で効果的に働くための知識・技能・態度の総称」です。
ある定義では、グローバル・コンピテンシーとはグローバルで多文化的な課題を多様な視点から批判的に分析する力、自己や他者の物の見方の違いを理解する力、そして多様な背景を持つ他者と人間的な尊厳を尊重し合いながらオープンかつ効果的に関わる力であると説明されています。
グローバル・コンピテンシーが重要視されている理由
では、なぜ今この能力が重要視されているのでしょうか。その背景には近年のビジネス環境の大きな変化があります。
グローバル化が進み、日本企業も海外市場でビジネス展開する機会が増えています。デジタル技術の発展とともにオンラインで世界中の人とリアルタイムに仕事をすることが当たり前となりつつあります。コロナ禍以降はオンライン会議やリモート協働が定着し、直接会ったことのない海外の同僚とプロジェクトを進めるケースも珍しくありません。
物理的な距離を超えた連携が可能になった一方で、時差や文化差を乗り越えて成果を出すためには高度なコミュニケーション力が求められます。
国内の少子高齢化により需要低迷が予測される中、海外市場の開拓を目指す企業が増えており、グローバルに活躍できる人材への需要は今後ますます高まるとされています。
グローバル・コンピテンシーに関する課題
一方で、日本企業の社内には言語の壁や異文化対応の難しさといった課題が依然残っています。英語力に関して言えば日本人の平均的な習熟度は国際的に見て低く、2024年のEF英語能力指数では日本は非英語圏116か国中92位と大きく出遅れている状況です。
このように、日本企業がグローバル展開を進める上で人材面の課題が浮き彫りになっており、それを克服する鍵としてグローバル・コンピテンシーの強化が注目されています。
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グローバル・コンピテンシーの主要要素
グローバル・コンピテンシーを構成する要素にはさまざまなものがありますが、特に重要とされる主な要素を以下に整理します。
語学力(英語力を中心に)
世界共通語となっている英語の運用能力は、グローバル人材にとって基礎中の基礎です。国際ビジネスでは会議やメール、契約交渉に至るまで英語で行われる場面が多く、語学力が不足していると活躍の場が制限されてしまいます。日本人にとっても英語力向上は長年の課題です。実際、EF社の調査によれば日本の英語力は「低い英語力」のグループに属し、韓国(50位)など近隣国よりもかなり下位に位置しています。
2011年には世界40か国中14位だったのが年々順位を下げ、2024年には116か国中92位という過去最低の水準にまで低下しています。
この数字は単なる語学力の問題だけでなく、「自分の意見や理念を英語で伝え、異なる文化の人と本音で議論する力」の弱さを示すものだと指摘する声もあります。
こうした背景から、日本政府も英語教育の強化に力を入れており、文部科学省はグローバル人材に求められる語学力として「交渉ができるレベル」の英語力を持つ人材層を継続的に育成する必要性を強調しています。
異文化理解・コミュニケーション能力
言葉が通じても文化や価値観の違いを理解し尊重できなければ、真の意思疎通は図れません。異文化理解・コミュニケーション能力とは、自分とは異なるバックグラウンドを持つ相手の考え方やコミュニケーションスタイルを理解し、それに適応しながら効果的に協働する力です。
ビジネス上の意思決定一つとっても国によってプロセスや重視するポイントが異なります。会議での発言の仕方、上司・部下間の関係性、交渉での駆け引き、さらには商習慣(契約書の扱いや納期感覚など)まで、多様な違いを理解して対応する必要があります。異文化コミュニケーションでは相手の非言語メッセージ(沈黙の意味、表情・ジェスチャーの解釈など)を読み取る力も重要です。
このような異文化対応力はグローバルチームをまとめ成果を出す上で不可欠ですが、日本の人材について見ると必ずしも十分とは言えません。企業への調査でも、語学力・コミュニケーション能力が「向上した」と感じる企業が約6割である一方、異文化理解の精神が向上したと感じる企業は約5割にとどまりました。
このギャップは、異文化理解力の育成が語学以上に十分でない現状を示唆しています。実際、企業が大学教育に求めることとして「海外留学の促進」(49.7%)に次いで「異文化理解に関する授業の充実」(48.1%)を望む声が多く寄せられており、産学双方で異文化対応力向上への期待が高まっています。
異文化ギャップマネジメント研修 (1日)
株式会社コムPLUSの異文化ギャップマネジメント研修は、異なる文化背景から生じるコミュニケーションの誤解や困難を解消します。このプログラムでは、言語や考え方の違いが仕事の進行に与える影響を体系的に学び、対話力を高め、職場の生産性向上に貢献します。
ビジネススキル(リーダーシップ、問題解決能力など)
グローバル環境で成果を上げるには、語学や異文化対応だけでなく基本的なビジネススキルも欠かせません。中でも、多様な人々をまとめ目標達成に導くリーダーシップ、未知の問題に直面しても解決策を見いだす問題解決能力、そして組織や地域を超えて協働するチームワークや高い倫理観が重要です。
文部科学省の定義でも、グローバル人材の要素として
「幅広い教養と深い専門性」
「課題発見・解決能力」
「チームワークとリーダーシップ」
「公共性・倫理観」
などが挙げられており、総合的なビジネス力を磨く必要性が示されています。
特にリーダーシップに関しては、単に国内で部下を指揮する能力以上に、異なる文化や価値観を持つメンバーをまとめ上げる力が求められます。ある企業では、「様々な国や文化や価値観の人と働いても常に成果を出せる人」が優れたグローバルリーダーであり、文化や国を超越した「メタカルチャー」なマネジメントスキルを持つ人だと定義しています。
グローバルな舞台では、リーダーは自ら異なる意見に耳を傾け、相手の立場を洞察しながら意思決定することが重要になります。そうした姿勢がチームの信頼を生み、多様なメンバーから力を引き出すことにつながります。問題解決においても、各国の法規制や市場動向、地政学リスクなど様々な要因を勘案した判断力が必要です。
デジタルリテラシーとテクノロジー活用
現代のビジネスはデジタル技術抜きには語れません。グローバルに活躍する上でも、ITツールやデータを駆使して効率的にコミュニケーション・意思決定を行うデジタルリテラシーがますます重要になっています。
ZoomやTeamsといったオンライン会議ツール、Slackのようなコラボレーションツール、あるいはデータ分析プラットフォームなどを使いこなし、遠隔地の同僚とも円滑に協働できる能力が求められます。
例えば、東京の本社チームがホストとなり、インドのITベンダー、シンガポールのリージョナルマネージャー、タイの現地法人責任者がオンラインで集まりデータに基づき議論を進める――こうした状況が珍しくなくなりました。
このようなマルチロケーションのプロジェクトでは、複数国の人々を同時に巻き込み連携するスキルとともに、デジタルツールを活用したスピーディーな仕事の進め方への適応力が不可欠です。日本企業では近年DX(デジタルトランスフォーメーション)推進が国家戦略ともなり、社員のITスキル向上が急務となっています。
実際、Economist Impactの調査(2023年)では、日本の社員の65%が「今後習得したいトップスキル」としてデジタルスキルを挙げており、この割合はアジア太平洋地域平均(57.6%)を上回っています。
高度IT人材の不足も深刻で、経済産業省の試算では2030年に約45万人のIT人材が不足する可能性が指摘されています。
デジタル活用力の不足は企業の生産性や国際競争力を低下させかねず、グローバルビジネスにおいても弱点となりえます。
そのため、人事施策としても社員のデジタル研修を充実させたり、最新テクノロジーを取り入れた業務改革を進める動きが広がっています。グローバル・コンピテンシーの一部として、テクノロジーを使いこなす力を含めて定義する企業も増えており、語学・異文化適応とあわせて「デジタル対応力」を備えた人材がこれからの国際舞台で活躍できる人材像と言えるでしょう。
日本企業におけるグローバル人材育成の現状
では、日本企業では現在どのようにグローバル人材育成に取り組んでおり、どんな課題があるのでしょうか。本章では企業の直面する課題と、先進的な取り組み事例を見ていきます。
企業の課題と現状
多くの日本企業が、グローバルに活躍できる人材の不足に危機感を抱いています。総務省が海外展開企業約1000社を対象に行った調査では、海外事業に必要な人材が「不足している」または「どちらかといえば不足している」と回答した企業が約7割に上りました。
特に人材規模の小さい中堅・中小企業ではその傾向が顕著で、グローバル対応可能な人材の確保が容易ではない状況です。実際、「ここ10年でグローバル人材に該当する新卒採用者が増えた」と感じる企業は、大企業では約6割にのぼるのに対し、中小企業では約3割にとどまっています。また、新卒入社の若手社員について、語学力やコミュニケーション力が向上していると感じる企業は多いものの(約60%が向上またはやや向上)、異文化理解の精神が向上したと見る企業は約50%、主体性・積極性の向上に至っては約30%にすぎないとの結果も出ています。
これは、多くの若手社員が海外経験に乏しく、自らチャレンジする姿勢が十分育っていない可能性を示唆しています。実際、日本の若者全体を見ても国際経験の少なさが指摘されています。OECDの統計によれば、日本において大学在学中に海外留学を経験する学生の割合は0.8%に過ぎず、加盟国中最下位という水準です。
社内公用語が日本語中心の企業では、会議で英語が飛び交う環境に戸惑いや萎縮が生じ、結果として日本人社員が意見発信できない、といったケースも散見されます。さらに、日本企業特有の組織文化もグローバル化の障壁となる場合があります。意思決定が本社集中で現地の裁量が小さい、年功序列的なコミュニケーションが海外のフラットな文化と衝突する、といった問題です。
日本企業のグローバル人材育成の現状は「必要性は痛感しているが、供給が追いついていない」状態です。人材面での弱点を克服しない限り、せっかく海外展開のチャンスがあっても十分に活かせない恐れがあります。こうした課題を解決すべく、先進的な企業は試行錯誤しながら様々な施策を講じ始めています。
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成功事例・企業の取り組み
グローバル人材育成に積極的な企業の事例をいくつか紹介します。まず語学面の取り組みで有名なのは楽天グループです。
楽天の事例
楽天では2010年、「グローバルイノベーション企業になる」というビジョンのもと、思い切った施策に踏み切りました。全従業員を対象に社内公用語を英語に変更したのです。当初、社内の平均TOEICスコアは526点でしたが、社内研修や学習支援を徹底し、社員の平均TOEICスコアを5年で800点まで引き上げたと報告されています。
英語公用語化は当時大きな話題を呼びましたが、その結果、社員一人ひとりの英語力が飛躍的に向上しただけでなく、社内の意識も変わり「英語で発信・議論するのが当たり前」の文化が根付いたといいます。英語化により海外から優秀な人材を採用しやすくなり、事業のグローバル展開も加速するなど、楽天の施策は語学研修の枠を超えた人事戦略の成功例として注目されています。
日立の事例
日立は日本を代表するグローバル企業の一つですが、2011年に「グローバル人財本部」を新設し、人材マネジメントの体制を抜本的に改革しました。それまで日立では日本本社が海外拠点を統括する従来型の構図でしたが、発想を転換し、グローバル人材マネジメント戦略のもと日本を含めた世界6極をフラットに位置付ける体制に切り替えました。
この一環として、各国の人事情報を一元管理するシステムを導入し、国境を越えた適材適所を推進しています。また、幹部社員のグローバル研修や人事ローテーションを積極的に行い、日本人であっても海外現法の経営に携わる、一方で外国籍社員が日本本社の要職に就く、といった事例も生まれています。
その他の事例
その他にも、多くの企業が自社の状況に合わせた工夫を凝らしています。
大手商社では新入社員を入社早々に海外支店へ配属し現地業務を経験させる研修制度を敷いています。また自動車メーカーや総合電機メーカーの中には、若手のうちに海外大学への留学や海外MBA取得を支援する制度を持つところもあります。
化粧品大手の資生堂はグローバル人材育成の一環で経営幹部の国籍多様化を進め、社内共通語を英語にする取り組みを行いました。社内の公募制度でグローバルプロジェクトのメンバーを募り、手を挙げた社員に海外拠点との共同プロジェクトを任せるといった企業も出てきています。
このように「待ち」の姿勢ではなく自社で人材育成を行い確実な人材確保を狙う企業が増えているのは、優秀なグローバル人材ほど市場で奪い合いとなり採用が難しいという現実があるからです。
各社の成功事例を見ると、語学力強化、異文化研修、海外経験の付与、組織体制の見直しなどアプローチは様々ですが、共通しているのはトップダウンで明確な方針を打ち出し、全社的な仕組みを整えている点です。グローバル人材育成は一部部署や個人に任せるのではなく、経営戦略として取り組むことが成果につながると言えるでしょう。
人事施策におけるグローバル・コンピテンシーの取り入れ方
グローバル・コンピテンシーを高めるために、企業の人事部門として具体的にどのような施策を講じれば良いでしょうか。ここでは、研修・教育、評価制度の観点から、企業が取り入れるべき施策を整理します。
研修プログラムの設計
計画的な研修プログラムは、社員のグローバルコンピテンシーを底上げする有力な手段です。
語学研修
語学研修については、新入社員研修での英語集中講座やオンライン英会話の提供、業務時間内での英会話レッスン実施など、企業の状況に応じて様々な形態が考えられます。
社員の英語力を客観的に把握するためTOEICなどの試験を定期的に受験させ、その結果に基づいてクラス分けした研修を行うケースもあります。社内に英語ネイティブの講師を招いて実践的な会話練習をする、海外出張時に使えるビジネス英語を学ぶコースを開設する、といった取り組みも有効でしょう。
業務で英語を使う機会が少ない社員には、オンライン教材やアプリを使った自習を促し、学習進捗を人事がフォローアップする仕組みも効果的です。
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異文化対応研修
異文化対応研修も重要な柱です。海外ビジネスの成功例・失敗例をケーススタディで学ぶ研修や、異文化コミュニケーションの専門家によるワークショップなどが考えられます。
「欧米とアジアでこれだけ違う会議の進め方」「文化の違いによる誤解を防ぐには」といったテーマでディスカッションを行ったり、ロールプレイを通じて各国の部下との接し方を体験するプログラムなどがあります。
異文化理解は頭で理解するだけでなく、疑似体験や対話を通じて「気づき」を得ることが大切です。海外赴任経験者の社員が講師となり、自身の体験談(苦労したこと・成長したこと)を共有する社内セミナーも有益です。
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実践的な海外経験の機会提供も強力な施策です。選抜した若手社員を海外の現地法人や海外提携先企業に数か月から1年程度派遣する「海外トレーニー制度」は、その典型と言えます。
実際の海外ビジネスの現場に飛び込み業務を行うことで、机上の研修では得られない生きた異文化適応力や語学力の飛躍的向上が期待できます。
帰国後は本人の成功体験・苦労話を周囲と共有させることで、他の社員への刺激にもなります。近年はオンラインで海外企業のプロジェクトに参加するバーチャル留学のような試みも登場していますが、可能であれば若いうちに一度は海外に実際に赴かせる機会を作るのが望ましいでしょう。
研修プログラムを設計する際には、単発で終わらせず継続性を持たせる工夫も重要です。新入社員研修で基礎を学んだら、半年後にフォロー研修を行って定着を図り、その後も年次に応じて段階的に高度な内容に発展させていく、といった長期計画を建てます。社内の研修だけでなく、外部のグローバル人材育成プログラム(異文化体験研修、留学支援制度など)を活用することも検討しましょう。
社員自身が主体的に学べるよう、eラーニング教材を整備したり、研修受講を評価や昇進に絡めて動機付けする仕組みも考えられます。研修は費用も時間も投資になりますが、計画的・体系的に実施することで着実に社員の力を伸ばすことができます。
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評価基準の設定
人事評価や昇進の基準にグローバル・コンピテンシーの要素を組み込むことで、組織全体にその重要性を浸透させることができます。
具体的には、語学力や異文化対応力を評価項目に明示的に加える方法があります。
例えば、
「TOEIC○○点以上を管理職昇格の目安とする」
「海外プロジェクトでの成果を評価に反映する」
といった形です。
異文化理解力やリーダーシップといった定性的な能力については評価が難しい面もあります。近年では、多面的評価(360度評価)で部下や同僚、海外拠点の上司からのフィードバックを集めてリーダーシップを測ったり、行動評価項目に「異なる価値観を尊重しているか」を盛り込む企業も出てきています。
評価制度として定義することが難しい場合でも、人事面談の中でグローバル対応力に関する目標設定を行い、上司と部下で定期的に進捗を確認するような仕組みを作ることもできます。重要なのは、評価基準に組み込むことで社員に「会社が何を重視しているか」を明確に示すことです。グローバルな活躍を評価・昇進につなげる仕組みがあれば、社員も自身のスキル向上に前向きになりますし、社内のモチベーション喚起にもつながります。注意点として、評価に用いる指標は公平かつ納得感のあるものにする必要があります。
語学スコア偏重になりすぎて「点数は高いが実践で使えない」といったことがないように、あくまでビジネス上の成果や行動と結びつけて総合的に判断することが大切です。評価制度は企業文化にも影響を与えるため、グローバル・コンピテンシーを評価に反映させる際は慎重に設計しましょう。
グローバルキャリアパスの確立
最後に、社員が長期的視点でグローバルに成長できるようキャリアパスを設計することも大切です。せっかく研修でスキルを身につけても、その力を発揮する機会が社内になければ社員はモチベーションを維持できません。
そこで、若手~中堅~管理職といった各層でグローバルな経験を積めるキャリアパスを明示することが有効です。
若手社員のグローバルキャリアパス
若手社員には海外関連業務に早い段階から携われるようにする施策が考えられます。新人研修後に一定期間海外拠点でOJTを行う、新規事業開発プロジェクトに海外市場調査チームの一員として参加させる、あるいは社内の公募制度で「海外プロジェクト要員」を募り若手にもチャンスを与える、などです。実際に「海外で成果を上げれば評価する」というメッセージを発信している企業では、20代で海外赴任を経験する社員も珍しくありません。
中堅社員のグローバルキャリアパス
中堅社員には、本格的な海外赴任や現地法人管理職への登用など、より責任あるグローバル経験を積ませます。例えば30代で海外支社の副支社長や工場のライン長を任せる例もあります。このような経験を通じて、実践的なリーダーシップや現地でのネットワーク構築力が養われます。
中堅以降であっても海外MBA留学や長期研修に派遣し、更なる視野拡大を図る企業もあります。社員にとってはキャリアの中だるみを防ぎ新たな挑戦となり、会社にとっても将来の経営人材を育てる投資となります。
管理職層のグローバルキャリアパス
管理職層については、国内外を問わず適材適所で配置し、グローバルに通用するマネジメント経験を積ませます。日本人管理職を海外子会社のトップに送り出す一方で、外国人管理職を日本本社に受け入れるなどの人事交流も有効でしょう。これにより組織内の多様性が高まり、相互理解が深まります。
グローバルキャリアパスを描く際には、「海外に行ったら終わり」ではなく帰任後の処遇やさらなる活躍の場を用意することも重要です。海外で培った知見を活かせるポジションに戻す、あるいは次の海外案件を準備してステップアップさせることで、社員は安心して海外に挑戦できますし、企業も投資した人材を有効に活用できます。
総じて、社員一人ひとりのキャリアの中に計画的にグローバル経験を織り込んでいく発想が大切です。そのためには、人事部門が主導して「グローバル人材育成プラン」を策定し、経営層のコミットメントを得ながら運用していく必要があります。キャリアパスの整備は一朝一夕にはできませんが、社員の定着率向上や採用面でのアピールにもつながるため、中長期的な視点で取り組む価値があります。
今後の展望と企業が取るべきアクション
グローバル・コンピテンシーの強化は、日本企業がこれから国際競争を勝ち抜く上で避けて通れないテーマです。国内市場の縮小や労働力人口の減少が進む中、海外の成長市場を取り込んだり、多様な人材の力を結集したりできる企業が生き残り、発展していくことは間違いありません。
そのためには、人材面で従来の延長線上にとどまらない変革が必要です。企業の経営層・人事部門がまず取り組むべきは、グローバル人材育成を人事戦略の中核に据えることです。
単発の研修や一部社員だけの海外赴任といった対応ではなく、前章で述べたような体系的な研修プログラム設計、評価制度への組み込み、キャリアパス整備を一貫して進め、全社的にグローバル対応力を底上げしていくビジョンを描く必要があります。
その際、経営トップが自らメッセージを発し後押しすることが極めて重要です。「我が社は人づくりでグローバル化を成し遂げる」という強い方針を示すことで、社員も安心して挑戦できますし、社外に対しても企業のコミットメントを示せます。
グローバル人材研修は、海外進出を予定している企業だけではなく、外国企業との取引をしている企業や外国人人材を雇用している企業などに必要とされています。グローバル研修のポイントとおすすめの研修プランを紹介します。