AIの進歩やグローバル化により変化の激しい現代社会において、企業の競争力を高めるには社員のレベルアップが欠かせません。そのために多くの企業で導入されている「社内研修」ですが、以下のような悩みがよく聞かれます。
- 効果的な研修を実施するためにはどんなプログラムにすべきか
- 例年研修を実施しているので、内容が同じものになりがち
- 社員教育を見直したいが何から取り組めばいいのかわからない
この記事では、社内研修を「外部委託せずに社員が講師となって、社内で実施する研修」と定義して、その詳しいやり方や扱うべきテーマ、効果を高める方法などをご紹介します。プログラム設計をステップごとに解説しながら、講師を選ぶときの注意点・研修コストを抑える方法まで、社内研修のやり方を網羅的に解説します。
研修の手法について
社員研修の基本的な手法として、次の3つがあります。
- 社内の人間が講師を務める研修
- 外部から講師を招いて行う研修
- SD(Self Development)
それぞれの特徴や、メリット・デメリットについて以下で詳しく解説します。
社内の人間が講師を務める研修
日常業務を行いながら、先輩社員や人事部・管理職・経営幹部が講師となって、社内で必要な知識や技術を指導する研修です。OJT(On-the-Job Training:現任訓練)と呼ばれることもあります。新入社員や部署異動者、中途採用者に有効で、個々の能力や理解力に合わせた指導ができるのが特徴です。
講師である社員と距離が近いため、わからないことをすぐに解決できるメリットがあります。一方で、多忙な部署の場合は十分な教育時間の確保が難しく、教育係となった社員にかかる責任と負担が大きくなるというデメリットもあります。
外部から講師を招いて行う研修
社内外の会議室などで行われる集合研修で、OFF-JT(Off The Job Training:職場外教育)と呼ばれます。グループワークや座学を通して、業務に必要な基礎知識を学びます。最近では、eラーニングやオンライン講座を活用する企業も増えました。
育成対象者のレベルに合った講師と研修内容を選べること、普段は顔を合わせない社外講師のため参加者に緊張感が生まれ、学びに集中できることがメリットです。ただ、講師とのスケジュール調整などが煩雑で、研修を設定する担当者に負担がかかる場合があります。また、社員の能力により研修の理解度が異なるため、効果に差が出るのもデメリットです。
補足:SD(Self Development)
SD(Self Development)は「自己啓発」を意味し、社員が自主的に取り組む方法です。社内外のセミナーへの参加、書籍や通信教育で学ぶ、資格を取得するなど方法は多岐に渡りますが、個人のスキルアップを目指した活動を指します。
社員が興味のある内容を学ぶので『やらされている感』がない一方で、個人のモチベーションに依存する方法のため、途中で挫折してしまう可能性もあります。会社で学びにかかる費用の支援をしたり、上司が定期的に面談で取り組み状況を確認したりして、やる気が継続する仕組みを作ることが重要です。
社内講師 | 外部講師 | SD(Self Development) | |
---|---|---|---|
メリット | ・実践力が身に付く ・指導がタイムリーに行える ・個人の課題が明確になる ・コストがかからない ・指導される側のモチベーションを保ちやすい |
・大人数を対象にした集団教育が可能 ・受講者全員で知識の共有ができる ・研修内容をマニュアル化できる ・現場では伝えきれないことも学べる ・学ぶことに集中できる |
・学ぶ内容の幅が広い ・学び方の選択が多い ・企業側の手間が少ない ・時間を有効活用できる ・学ぶモチベーションを保ちやすい |
デメリット | ・体系的に行いにくい ・教育担当者の確保が難しい ・指導する側とされる側のコミュニケーションが必要 ・仕事量に教育内容が左右される ・教育担当者に指導力が必要 |
・時間の確保が必要 ・実施の定着が難しい ・コストがかかる ・実践に結びつきにくい ・参加者の意識により効果が左右される |
・個人の意識により結果が変わる ・仲間がいなく孤独感を感じやすい ・強制力がない ・学習内容を他の人が把握しにくい ・目標が立てにくい |
優秀な人材の確保はどの企業でも大きな課題です。企業と個人がお互いに成長し続けるために、環境や状況に合わせて継続的に育成計画を立てることが大切です。社会を牽引する優秀な人材を育成する人材育成研修を紹介します。
社内研修のプログラム設計方法
社内研修を最大限に有意義なものにするには、受講者の持つ悩みや現場の課題に沿ったプログラムづくりが重要です。研修の準備を進めるうえで欠かせない要素について、準備のステップごとに詳しく解説します。
STEP1:研修の目的を定める
研修を実施する際には、まず現場や社員が抱える課題を明らかにしたあと、ゴールを設定する必要があります。
- 課題の洗い出し(チームの課題、社員自身の課題、解決の優先順位)
- 受講対象となる社員の範囲を決定(年齢、階層、知識レベルの整理)
- 研修ゴールの設定(研修後に社員にどうなっていて欲しいか)
特に研修のゴールは最も重要な要素です。ゴールがはっきりすれば、研修の効果が高まるとともに、この後のプログラムづくりのステップもスムーズに進められます。
STEP2:大まかな流れの決定・時間の調整
研修のゴールが決まったら、次は日時などの研修の実施に関することと、プログラムの大まかな流れを考えていきます。
- 研修のテーマ
- 実施方法(集合型、オンラインなど)
- 研修の回数、日時、場所、人数
- テーマに沿って、研修で扱うコンテンツを整理
もしコンテンツが多くなりすぎたり、反対に少なすぎたりする場合は、もう一度STEP1で整理した「自社の課題解決や研修のゴール」に近づける内容かどうかを精査しましょう。
STEP3:講師選定、研修内容の詳細を詰める
研修のコンテンツが決まれば、次は講師選定です。社内講師の決定方法は、詳しくは後述しますが、受講者に学んでもらいたいことを的確に伝えられ、研修内容に説得力を持たせられる講師を選ぶのがポイントです。講師と打ち合わせをしながらプログラムを組み立てるうえで、「講師の過去の体験談を話してほしい」などの要望があれば、この時点で伝えておくと良いでしょう。
STEP4:事前の動機づけ、上司にも実施内容を把握してもらう
プログラムが整理できたこの段階では、ある程度受講者も決定して、あとは実施を待つのみです。実施までの間に、受講生へ「なぜ今回の研修を実施するのか」をしっかりと事前説明し、研修への動機づけを行いましょう。これをするかしないかで、研修の効果や理解度はぐんと変わってきます。できれば受講生の上司にも研修の概要を伝え、現場においても研修に参加するモチベーションを高める工夫をしてもらえればなお理想的です。
STEP5:研修実施後のアンケート作成
研修を実施した後、やりっぱなしになってしまっては意味がありません。しっかりと効果を検証し、受講者をフォローアップするためにも、研修後に時間をあけずにアンケートを実施すると良いですよ。アンケートに感想を書いて考えを言語化する作業は、受講生の頭の中を整理し、学びをより深める効果も期待できます。
社内研修の効果を高めるポイント
社内研修は実施することが目的ではなく、研修を通して社員が知識やスキルを身につけ、日々の業務へのモチベーションをアップさせることが最終地点です。ここでは、社内研修の効果を高めるためにチェックしておきたいポイントを解説します。
研修のゴールを決め、そこに近づける仕組みをつくる
社内研修を実施する前に、「研修が終わったら社員にどんな姿になっていて欲しいか」という具体的なゴールを定めることが大事です。研修で一般的にゴールとして定められる内容は2つあります。
- 知識の定着をゴールにする
- 社員の行動の変化をゴールにする
以下では、研修の受講者がゴールの姿に近づくために大切にすべきポイントをまとめます。
1.知識の定着を目指す場合:確認テストを実施する
業務に必要な知識を伝える研修の場合は、受講者がどのくらい理解したかを数値化する方法として、テストを実施するのが効果的です。研修の内容をもとに社内独自のテストを受けるのも良いですし、資格試験のチャレンジを促すのも良いですね。理解度が数値で把握できれば、次回以降の研修内容の改善にも役立てることができるのでおすすめです。
2.行動の変化を目指す場合:実践的な内容中心のプログラムにする
社内研修を実施する際に、よく以下のようなゴールを設定しがちですが、これらはあまりおすすめできない例です。
- 部下指導の必要性を認識させる
- ハラスメント対策の重要性をわかってもらう
なぜなら、受講者に「何かを気付かせる・わかってもらう」というゴールでは、個人の熱量に依存する形になってしまい、残念ながら研修の効果は薄まるからです。知識として知っていることと、実際にできることには大きな壁が存在します。研修ではできるだけ、「明日から実践できる具体的な行動」まで落とし込めるような内容を伝えましょう。
受講者と上司が一緒に取り組む
いくら独自のプログラムを設計したとしても、受講者が「なぜこの研修を受けるのか」を理解していなければ研修を受ける意味は半減します。研修前に、人事部や受講者の上司からしっかりと動機づけを行いましょう。
研修の目的や得たいことを受講者本人に決めてもらうのも良いですが、できれば上司や社長からのメッセージとして「研修を受けて、こうなることを期待している」と伝えるのがおすすめです。また、研修での学びを業務に活用するためにも、研修内容は上司も把握しておくと良いですよ。受講者本人と「研修を受けて何を学んだか」について対話の場を設ければ、より学びが深まるきっかけとなります。
アンケートで研修効果を測定する(アンケート例あり)
研修効果の測定方法として、「カークパトリックの評価方法」を用いるのがおすすめです。これは、受講者が研修で得た学びをレベル1から4に区分し、それぞれの視点から効果を測る方法です。
多くの研修担当者がまず知りたいのは、受講者の反応や満足度です。レベル1の研修後に実施するアンケートの項目例は以下の通りです。
- 研修はわかりやすい内容でしたか
- 研修でわかりにくかった部分はありましたか
- 研修で新しい知識は身につきましたか
- 研修で一番印象に残っている内容は何ですか
- 研修で学んだことを、職場に戻ってどんな風に活かしたいですか
これらの質問を通して受講者が研修内容をどう感じていたかを調査できれば、研修の良し悪しを測ることに役立ちます。
社内講師の決定方法
社内研修で一番の悩みどころは、「誰に講師をお願いするか」ではないでしょうか。より良い研修を行うために、社内で講師を選ぶ際のポイント2つについてお伝えします。
研修に説得力を持たせられる年齢・階層の人物を選ぶ
研修のテーマによって講師を変えるのは多くの企業が取り組んでいることだと思いますが、講師選びで大切なのは「研修に説得力を持たせられるか」そして「受講者に寄り添う、または手本となれる人物か」ということです。
例えば新入社員が対象で、自社の各部署について知識を深める研修を行うとします。各部署の上司が概要を語るのも良いのですが、将来新入社員自身が配属される可能性があると考えれば、年齢の近い先輩社員が語る方がより働く姿をリアルに想像でき説得力は増します。一方で、経営理念への理解を深める研修では、社長や経営幹部が理念への想いを語った方が受講者の心に響く内容となるでしょう。
このように、研修の内容に深みを持たせられるか、受講者との関係性、年齢・階層などの要素を踏まえて、より効果が高まる講師を選ぶことが重要です。
仕事で成果をあげる人が優秀な講師とは限らない
知識や技術を教える研修の場では、仕事で実績を上げている社員を講師として選ぶ場面が多く見られます。しかし、必ずしも成果の高い社員が良い講師とは限りません。受講者の知識レベルにあわせてわかりやすくレクチャーができるか、受講者へ適切なアドバイスができるかなど、講師に求められる素質と仕事の成果はイコールではないからです。講師を選ぶ際は仕事の成果は一旦置いておき、受講者の学びを促す空間づくりや関係性づくりができる人物を候補に入れましょう。
階層別 社内研修におすすめのテーマ
社内研修では社員の階層に合わせたプログラムを実施する必要がありますが、そうは言っても「何をすれば効果的なのかわからない」と毎年頭を悩ませている担当者の方も多いのではないでしょうか。ここでは階層別におさえるべきポイントと、おすすめのテーマをご紹介します。
新入社員
新入社員を自社で将来活躍する社員に育てるためには、土台を固めなければなりません。基本的なマナーや電話・顧客対応の方法、仕事を進める上で重要な時間の使い方など、ビジネスの基本となる要素をしっかり学びましょう。
- ビジネスマナー研修
- 接遇研修
- タイムマネジメント研修
中途入社社員
中途採用の社員は、ある程度のビジネススキルはあるものの、前職とのギャップがあればあるほど環境の変化に戸惑う場合も少なくありません。自社のビジネス戦略を理解できる研修とあわせて、職場でのコミュニケーションのコツや、壁にぶつかったときの対処法が学べる研修がおすすめです。
- マーケティング研修
- コミュニケーション研修
- アンガーマネジメント研修
若手社員
仕事に慣れてきた若手社員は、人によっては中だるみが生じる年次でもあります。仕事へのモチベーションを維持しつつ、将来を思い描き目標に向かって進み続ける人材になるために、研修で今一度初心にかえるのも良いですね。また、プレゼンテーション研修などでスキルをさらに高めると、社員の自信につながります。
- キャリアデザイン研修
- プレゼンテーション研修
- メンタルヘルス研修
プレゼンテーション研修では、プレゼンテーションの専門家から高度な技術を習得することができます。社内全体のボトムアップにつなげることができるため、売り上げの向上に悩む経営者や幹部のみならず多くの階層の社員を対象にした研修です。
中堅社員・リーダー層
現場をまとめる役割を担う中堅社員には、チームづくりやリーダーシップに関する研修がおすすめです。自分の仕事だけでなく、後輩の指導をしたり、チームの士気を高めたりと、周囲の人の能力を最大化しながら成果を上げる方法をしっかり学んでおく必要があります。
- チームビルディング研修
- ファシリテーション研修
- リーダーシップ研修
微妙な立場の中堅社員をどのように育成していけば良いのか、困っている経営者や人事担当者は多いですが、中堅社員を育成することこそ、組織の成長につながるのです。中堅社員の育成方法について、理解を深めていきましょう。
管理職・経営幹部
管理職以上の社員は、会社の中枢となる経営層により近い存在として、社員の手本となり導いていく意識を高める必要があります。法令を守りながら社員の生産性を高めるポイントを学び、業績の向上に貢献できる社員を育てましょう。
- コンプライアンス研修
- マネジメント研修
- ハラスメント研修
優秀な人材が管理職への転向をスムーズに行えるように、そして管理職としての任務を存分に果たしてもらえるようにサポートするのも企業の大切な役割です。管理職が安心して働けるように必要な管理職向け研修の内容について紹介します。
社内研修のコストを抑える方法
社内研修を実施したいが、コストはあまりかけられないと悩む担当者は多いものです。研修にかかる主なコストは以下の通りです。
- 会場費
- 受講生の交通費や宿泊費
- 講師費用
- 運営担当部署の人件費
これらのコストを抑えるおすすめの方法についてまとめます。
オンライン開催で会場費・移動費を削減
集合型の研修を実施すると、どうしても受講生の交通費などの諸経費がかかりますが、オンラインで開催すればコストが安く済む場合があります。大きな会場の用意は不要で、社員は自分のデスクや自宅から研修に参加できるので、移動のために業務時間を調整しなくても良いからです。コストの面・社員の業務時間を有効利用できる面で、オンライン開催はおすすめの方法です。
社内勉強会を開催する
「研修のできる社内講師がいない」とお悩みの場合は、社内で勉強会をする風土を作るのがおすすめです。社員が持ち回りで指導役や発表者になり、テーマを決めてグループディスカッションをしたり、人前で話したりする機会を作ります。最初は緊張するかもしれませんが、次第に伝える力は上達しますし、社内のコミュニケーションが活性化するため職場の雰囲気も良くなります。結果として、社内講師が自然と育つ環境づくりにつながりますよ。
外部の研修企業に委託する
社内研修をすぐに実施したいが、「教えられる社員がいない」「講師ができる社員を育てるのは大変そう」という悩みを持っていませんか。そんな場合は、外部の研修会社に任せる方法もあります。
社内で業務時間を削って講師となる社員を育てたり、研修準備のために担当部署の工数がかかってしまったりすると、結局人件費が膨らんでいきます。外部委託をする方が総合的に見てコストが安い場合もありますので、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
優秀な人材の確保はどの企業でも大きな課題です。企業と個人がお互いに成長し続けるために、環境や状況に合わせて継続的に育成計画を立てることが大切です。社会を牽引する優秀な人材を育成する人材育成研修を紹介します。