企業のコンプライアンス違反は、組織や経営に大きなダメージを与える深刻な問題です。
本記事では、
- コンプライアンス違反の定義
- コンプライアンス違反の具体例
- 予防策
- 違反発生時の対応手順
まで、実務に即して分かりやすく解説します。
近年、東芝の不適切会計や日産の品質検査問題など、大手企業でも違反事例が相次いでいることから、企業がどのようにコンプライアンスリスクに向き合うべきかを、経営者から実務担当者まで、それぞれの立場で必要な知識を網羅的にお伝えします。
この記事を読むことで、コンプライアンス体制の構築・運用に必要な実践的な知識が得られ、自社のコンプライアンス対策を見直すためのヒントを見つけることができます。
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目次
コンプライアンス違反の基本的な意味と種類
コンプライアンス違反の定義
コンプライアンス(compliance)とは「法令等の要求や規則に従うこと」を意味し、企業におけるコンプライアンス違反は主に以下3つへの違反を指します。
区分 | 具体例 |
---|---|
法令違反 | 労働基準法、個人情報保護法などの法律違反 |
社内規定違反 | 就業規則、セキュリティポリシーなどの社内ルール違反 |
社会倫理違反 | 社会通念や道徳に反する行為 |
コンプライアンス違反の具体例
近年発生している主なコンプライアンス違反は以下のようなものがあります。
- 個人情報の漏洩・目的外利用
- パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント
- 不正会計処理・経費の私的流用
- 品質データの改ざん・偽装
- 過重労働・残業代未払い
- 取引先との利益相反行為
- インサイダー取引
- 贈収賄・リベート
- 不適切な情報発信・SNS投稿
- 著作権侵害
法令違反と社内規定違反の違い
法令違反と社内規定違反には、以下のような重要な違いがあります。
項目 | 法令違反 | 社内規定違反 |
---|---|---|
罰則 | 刑事罰や行政処分の対象 | 懲戒処分などの社内処分が中心 |
影響範囲 | 社会全体に影響 | 主に組織内部の問題 |
規定元 | 国や地方自治体 | 会社・組織 |
両者は密接に関連しており、社内規定違反が結果的に法令違反につながるケースも少なくありません。例えば、社内の情報セキュリティ規定違反が個人情報保護法違反を引き起こすなどです。
組織の人材育成においては、これらコンプライアンスに関する正しい理解と遵守意識の醸成が重要です。特に研修を通じて、実践的なスキルとして身につけることが求められます。
代表的なコンプライアンス違反事例
近年、企業のコンプライアンス違反事例が相次いで報道されています。ここでは主な4つの違反類型について、具体的な事例とともに解説します。
個人情報の不適切な取り扱い
個人情報保護法に違反する不適切な情報管理や漏洩は、企業の信用を著しく損なう重大な違反事例です。
2014年には、大手通信教育会社が顧客情報を委託先に不正に提供していた事例が発覚しました。
違反の種類 | 具体的な事例 |
---|---|
情報の紛失 | 従業員による顧客リストの置き忘れ |
不正アクセス | セキュリティ対策不備による情報流出 |
目的外利用 | 営業目的での個人情報の無断使用 |
パワーハラスメント・セクハラ問題
職場におけるハラスメントは、従業員の人権を侵害し、組織の生産性を著しく低下させる深刻な問題です。
2023年には、厚生労働省の調査によると、パワハラの相談件数が過去最多を更新しました。
不正会計と経費の不正使用
企業の財務報告の信頼性を損なう不正会計や経費の私的流用は、投資家や取引先との信頼関係を破壊する重大な違反です。
不正の種類 | 具体的手法 |
---|---|
売上の水増し | 架空取引の計上 |
経費の不正 | 領収書の改ざん、私的流用 |
資産の過大計上 | 在庫の水増し計上 |
品質データの改ざん
製品やサービスの品質に関するデータ改ざんは、消費者の安全を脅かす重大な違反行為です。
製造業を中心に、以下のような事例が報告されています。
- 製品の強度試験データの改ざん
- 環境基準値の虚偽報告
- 品質検査の省略や偽装
- 原材料や産地の偽装表示
これらの違反を防ぐためには、組織全体での品質管理体制の確立と、定期的な研修による意識向上が不可欠です。
▼ コンプライアンス違反の詳しい事例については以下をご参照ください。
コンプライアンス違反の事例10選!要因や対処法も解説
コンプライアンス違反がもたらすリスク
コンプライアンス違反は企業に深刻な影響をもたらします。主なリスクを3つの観点から解説します。
企業の信用失墜と経営への影響
コンプライアンス違反が発覚すると、企業の信頼は一気に失墜します。顧客離れによる売上減少、株価の下落、取引先からの契約解除など、経営を揺るがす重大な事態に発展する可能性があります。
実際に、2015年に発覚した東洋ゴム工業の免震ゴムデータ改ざん事件では、数百億円規模の特別損失が発生。2016年には三菱自動車の燃費不正問題により約1,000億円以上の特別損失を計上しています。
影響項目 | 具体的な内容 |
---|---|
売上への影響 | 顧客離れ、不買運動、取引停止 |
財務への影響 | 株価下落、格付け低下、資金調達困難 |
組織への影響 | 人材流出、採用困難、モチベーション低下 |
法的制裁と罰則
法令違反に対しては、刑事罰や行政処分など厳しい制裁措置が科されます。企業には巨額の罰金が課され、経営陣や従業員個人も懲役刑の対象となる可能性があります。
たとえば、独占禁止法違反では売上高の10%を課徴金として徴収され、個人でも5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。
違反の種類 | 主な罰則 |
---|---|
個人情報保護法違反 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
労働基準法違反 | 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
不正競争防止法違反 | 10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金 |
社会的制裁と風評被害
SNSの発達により、企業の不祥事は瞬時に拡散され、長期にわたって企業イメージを損なう結果となります。取引先からの信用も失墜し、事業継続が困難になるケースもあります。
人材育成の観点では、コンプライアンス意識の低い組織として認識され、優秀な人材の確保が困難になります。社内の士気も低下し、研修や育成プログラムの効果も期待できなくなってしまいます。
制裁の種類 | 具体的な影響 |
---|---|
メディア報道 | ニュース報道、記事掲載による企業イメージ低下 |
SNS拡散 | 不買運動の呼びかけ、批判的投稿の拡散 |
組織への影響 | 採用活動への支障、従業員のスキル開発意欲低下 |
コンプライアンス違反の予防と対策
企業におけるコンプライアンス違反を予防し、健全な組織運営を実現するためには、体系的な対策が不可欠です。以下では、経営層から一般社員まで、組織全体で取り組むべき予防策と対策について詳しく解説します。
経営層に求められる取り組み
経営層には、コンプライアンス重視の企業文化を醸成し、具体的な施策を実行する強いリーダーシップが求められます。
取り組み項目 | 具体的な施策 |
---|---|
経営方針への組み込み | ・企業理念やビジョンへのコンプライアンスの明記 ・経営計画での具体的な目標設定 |
推進体制の構築 | ・専門部署の設置 ・担当役員の任命 ・必要な予算の確保 |
率先垂範 | ・定期的なメッセージ発信 ・研修への参加 ・違反事例への厳格な対応 |
社内教育と研修の実施方法
効果的な社内教育と研修を実施することで、従業員のコンプライアンス意識を向上させ、スキルの定着を図ることができます。
教育・研修プログラムの例。
- 新入社員向け基礎研修
- 管理職向けマネジメント研修
- 部門別専門研修
- eラーニング
- ケーススタディワークショップ
- 外部講師による特別セミナー
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内部通報制度の整備
不正や違反行為を早期に発見・是正するために、実効性のある内部通報制度の整備が重要です。
整備のポイント
- 通報者の匿名性確保
- 不利益取扱いの禁止
- 外部窓口の設置
- 迅速な調査・対応体制
- フィードバックの仕組み構築
コンプライアンスマニュアルの作成と運用
具体的な行動指針を示すマニュアルを作成し、定期的な見直しと更新を行います。
- 法令遵守の具体的な手順
- 判断基準とチェックリスト
- 違反事例と対応方法
- 相談・報告の手順
- 罰則規定
リスクアセスメントと監査体制
定期的なリスクアセスメントを実施し、問題点の早期発見と改善に努めることが重要です。
監査項目 | チェックポイント |
---|---|
業務プロセス監査 | ・法令遵守状況 ・社内規定の運用状況 |
内部統制監査 | ・管理体制の有効性 ・報告体制の機能状況 |
システム監査 | ・情報セキュリティ対策 ・アクセス権限管理 |
サプライチェーン・取引先のコンプライアンス管理
取引先も含めた包括的なコンプライアンス体制を構築します。
- 取引先の選定基準の明確化
- 定期的な監査実施
- 契約条項への明記
- 共同研修の実施
透明性の確保と社外への情報開示
ステークホルダーへの適切な情報開示により、信頼関係を構築します。
- コンプライアンス報告書の公開
- 取組状況の定期報告
- 問題発生時の適時開示
コンプライアンス委員会の設置と運営
全社的なコンプライアンス推進の中核となる組織を設置します。
委員会の役割と構成
以下のメンバーで構成し、定期的に会議を開催します。
- 担当役員(委員長)
- 各部門の責任者
- 法務部門代表
- 人事部門代表
- 外部有識者
定期的な監査とチェック体制
組織の成長や社会情勢の変化に応じて、監査項目や基準を見直し、実効性のある監査を実施することが重要です。
- 年間監査計画の策定
- 監査結果の分析と報告
- 改善提案の実施
- フォローアップ体制の確立
コンプライアンス違反が発生した場合の対応手順
コンプライアンス違反が発生した場合、組織として適切な対応手順を踏むことが重要です。以下、具体的な手順について解説します。
違反事実の確認と初動対応
コンプライアンス違反の疑いが生じた場合、まず事実関係の確認を行います。初動対応を誤ると、企業の信用失墜や法的リスクが高まる可能性があるため、速やかな事実確認と証拠の保全が不可欠です。
確認項目 | 具体的な内容 |
---|---|
基本情報 | 発生日時、場所、関係者、違反の概要 |
被害状況 | 人的・物的被害の有無、影響範囲 |
証拠保全 | 関連文書、データ、写真等の収集 |
経営層・コンプライアンス委員会への速やかな報告
違反の事実が確認された場合、直ちに経営層およびコンプライアンス委員会へ報告を行い、組織として対応方針を決定する必要があります。報告は以下の内容を含めて行います。
- 発生した違反の概要と経緯
- 現時点での被害状況
- 想定されるリスク
- 緊急対応の必要性
- 関係機関への報告要否
詳細調査・原因究明
事実関係の詳細な調査と原因究明を行います。必要に応じて以下の手法を用います。
- 関係者へのヒアリング
- 内部文書・データの精査
- 外部専門家による調査
- 社内研修記録の確認
- 組織体制・管理体制の検証
是正措置と再発防止策の策定
調査結果に基づき、問題の是正措置および再発防止策を策定します。この際、組織の人材育成方針や研修体制の見直しも含めて検討します。
対策の種類 | 具体的な内容 |
---|---|
即時対応 | 違反行為の即時停止、被害の拡大防止 |
制度対応 | 社内規定の改定、チェック体制の強化 |
教育対応 | コンプライアンス研修の実施、意識改革 |
社外への報告・情報開示
重大なコンプライアンス違反の場合、以下の関係先への報告や情報開示が必要となります。
- 監督官庁・行政機関
- 取引先・顧客
- 株主・投資家
- 報道機関
処分・懲戒の検討
違反行為に関与した従業員に対する適切な処分を検討します。この際、人事部門と連携し、就業規則に基づいた公平な判断を行うことが重要です。
改善策の実施・モニタリング
策定した再発防止策を確実に実行し、その効果を継続的にモニタリングします。具体的には以下の項目を実施します。
- 定期的な実施状況の確認
- コンプライアンス委員会による監査
- 社内教育・研修の実施状況確認
- 組織体制の見直しと改善
- 社内コミュニケーションの活性化
まとめ
コンプライアンス違反は企業の存続を左右する重大な問題であり、適切な予防策と対応体制の構築が不可欠です。
東芝やオリンパスの不正会計問題、日産自動車の品質検査問題など、大手企業でも重大な違反事例が発生しており、企業の信用失墜や経営危機につながるケースが後を絶ちません。そのため、経営層主導での内部通報制度の整備や、全社員への定期的なコンプライアンス研修の実施、コンプライアンス委員会の設置など、組織的な取り組みが求められています。
違反が発生した際は、速やかな事実確認と対応、ステークホルダーへの適切な情報開示、実効性のある再発防止策の実施が重要となります。コンプライアンスの遵守は、持続可能な企業経営の基盤であり、社会的責任を果たすための必須条件といえるでしょう。
コンプライアンスに違反すると会社の信用を失い、最悪の場合、倒産という最悪の事態を招きます。そのような事態を避けるためにも、社員全員がコンプライアンス研修を通してコンプライアンスの重要性を理解し、ルールを遵守しなければなりません。