クレームは、単なる苦情ではなく課題発見・スタッフ育成・商品改善につながる貴重な経営資源です。お客様の不満を抑え込む対応ではなく、原因を解消し将来に活かすことこそが、組織として取り組むべきクレーム対応の本質です。2025年6月に改正労働施策総合推進法が成立し、カスタマーハラスメント対策の実施が企業に義務化された今、クレーム対応を従業員を守りながら組織の成長に変える仕組み化の重要性は、いっそう高まっています。
この記事では、社員研修の導入支援を行っているKeySessionが、組織力向上の観点からクレームの概要・発生原因・理想的な対処法を解説します。
この記事でわかることは次のとおりです。
- クレーム・苦情・クレーマーの違いと定義
- クレームが起こる4つの原因
- クレームを課題発見・育成・商品開発に活かす方法
- クレームを増やさない組織づくりの実践策
クレームとは?

ビジネスにおいて「クレーム」は頻繁に耳にする用語です。とはいえ、正確に意味を理解しないまま「苦情」という意味で用いている方が多いようです。クレームを組織作りに生かすためにも、最初に正確な意味を把握しておきましょう。
クレームの意味・苦情との違い
日本国内では「クレーム」と「苦情」とは同じ意味であると考えても問題ありません。
すなわちクレーム・苦情とは、お客様が商品やサービスに不満や怒りを感じ、その思いを担当者やコールセンターなどに伝えることです。
しかしながら、クレームの元々の意味は異なります。
クレーム(claim)とは、「1.(事実や権利)を主張する/2.~を要求する」などの英語です。実際に、アメリカやイギリスでは日本でいうところの「クレーム」は、「コンプレイン(complain)」という単語が用いられます。
つまり、本来「クレーム」とはお客様が自分自身の権利を主張し、賠償や返金などを主張するという意味合いから用いられていた用語であるということです。
対して、「苦情」にはお客様が怒りや精神的なダメージなどを主張するという意味です。
企業によっては、「苦情」にはネガティブな響きがあるということから「お言葉」「ご指摘」「お叱り」などの用語が用いられることがありますが、基本的に表現が異なるだけで本質的には同じものと考えて問題ありません。
クレーマーとは
「クレーマー」は「クレーム」よりも、よりネガティブな意味をもっており、クレームを繰り返す顧客・ハードなクレームを長々としている顧客などを指します。いわゆる「モンスタークレーマー」のように、確かに多くの顧客が問題視しないことに対して強い意見や不満を主張する顧客が存在することも確かです。
とはいえ、ビジネスをしている以上は、いかなるクレームを受ける可能性もあります。したがって、理不尽なクレーマーに対しても、適切な対処法を抑えておく必要があります。
クレームが起こる原因
組織としてクレームの対応法・対処法を考えるためには、クレーム原因を考えることからはじめる必要があります。クレームは、次の4つの原因のいずれか・あるいは複数に該当する場合に発生します。
| 原因 | 主な内容 |
|---|---|
| 品質不良 | 商品の不良・不備・不足、配送ミス、納期遅れ、高額請求などの事象 |
| 接客態度 | 言葉遣い・身だしなみ・態度の悪さ、長時間待たせたなどの対応 |
| 自社目線の案内 | 規定の一方的な提示、たらい回しなど、お客様視点の欠如 |
| 勘違い・誤解 | 説明不足や重要事項の周知不足による認識のずれ |
4つの原因に共通するのは、商品やサービスがお客様の期待を下回ったときに発生するという点です。また、クレーマーについては、期待値や要求が高いためにクレームが発生しやすいという特徴をもっています。
品質不良
商品の不良・不備・不足・配送ミスや梱包ミスなどによる商品違い・納期遅れ・高額請求などの問題はすべて品質不良に分類されます。一言でいえば、商品やサービスがお客様の期待どおりに提供・準備されなかったことにより起こる問題です。
品質不良は、提供者側としては完成品をしっかりと提供したにもかかわらず発生するケースと、ミスにより完全な状態のものを提供できなかったパターンの2種類があります。
接客態度
サービスを提供される以上、顧客側は質のよいおもてなしサービスを期待します。従って、言葉遣い・身だしなみ・態度などが悪い・要望を聞き入れてもらえない・長時間待たされた・ほかの顧客よりも軽く見られたなどの対応は、クレームを招く要因になります。また、お客様からの軽いクレームや指摘に対して悪い接客態度をとった場合、怒りを倍増させ大きなクレームに発展することもあります。
担当者が自社目線での案内を繰り返した
例え正しいことであっても、自社目線での主張を繰り返すとお客様の怒りを招くことがあります。例えば、「自社規定では、今回のケースは返品不可です」「その件については、こちらの部署の担当ではありませんので、応対いたしかねます」などのケースです。
これらのケースでは、お客様目線での応対が欠けたことにより、不満を招いています。例え、結論は同じであっても、お客様に寄り添った言い方や接し方をするだけでクレーム案件化することを防げる可能性があります。
勘違い・誤解
お客様が勘違いにより商品を購入したり、カタログや仕様書の情報をきちんと把握していなかったりすることにより食い違いが発生し、クレームに発展することがあります。
販売時の説明が不十分であったり、重要事項が小さな文字で書かれていたりするなどの不備がある場合はもちろんですが、提供者側に落ち度がないと思われる場合も、お客様が勘違いをしてしまった原因が存在するかもしれません。
クレームの価値を高める方法

クレームを単に「苦情」として捉えた場合には、ネガティブな意味合いが大きくなります。スタッフは、少しでも速くお客様の怒りが収まり、円満に解決することだけを願うことになるでしょう。しかし、クレームを意味のある主張だと捉えて有効活用できた場合には、クレームは自社の成長や売上拡大に大きな役割を果たします。
この章では、クレームの価値を高めるための方法を解説します。
課題発見の指標とする
ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)によると、1件の致命的な失敗の裏には29件のクレームを招くレベルの失敗があり、さらにその裏には300件のクレームには至らない軽度な失敗があるとされます。
クレームが1件生じた段階でスピイーディーに適切な対応を取れば、1件の致命的なクレームや28件の同程度のクレームを未然に防ぐことにつながります。
もちろん、クレームに至る前の軽度な失敗から業務改善を実施することがベストですが、致命的なクレームにより会社の存続を脅かされる前に対処することも非常に重要です。
スタッフのレベルアップにつなげる
クレームを業務に反映し、スタッフ全員で共有することにより、スタフ一人ひとりの対応レベルを上げられます。重要なことは、クレームの発端になったスタッフだけではなく、会社全体でクレームの原因・結果・対策を共有することです。
また、コールセンターのクレーム対応窓口などでは、特定のスタッフに電話対応が集中しないように分散させることで、過度にストレスをかけずに全員をバランスよくレベルアップさせられます。
商品・サービス開発に反映させる
クレームを商品やサービスの開発に結びつけられれば、自社にとっても顧客にとっても理想的な結果につながる可能性があります。クレームの原因となっている問題は、声をあげていないほかのお客様にとっても不満・ストレス要因であるケースがあるためです。
クレームを開発に結びつけるためには、クレームの声を一つひとつ貴重なデータとして扱い、関連部署との連携をスムーズにおこなう必要があります。
クレームを増やさない組織づくり
クレームが貴重なお客様からの声であるというスタンスは重要ですが、クレームを最小限に抑える努力は不可欠です。なぜなら、クレーム対応はスタッフにとって負荷のかかる業務であり、心身のストレスを招いてしまうためです。クレームが頻発すると、顧客離れも避けられません。
そして、クレームを最小限に抑えるためには、会社が組織的に対策に取り組むことが大切です。この章では、組織としてのクレーム対策を紹介します。
マニュアル・事例集の共有
組織としての理想的なクレーム対応は、スタッフ全員が同じように対応を取れる状態です。そのためにおこなうべき対策は、以下のとおりです。
- マニュアルや業務フローの周知・徹底
- クレーム事例・対策の共有
これらの情報共有に加えて、個別のクレーム事案については責任者・担当者を明確にすることも重要です。スタッフにとっても、責任の所在が明らかになることにより自分自身で対応するという意識が強くなり、案内ミスの軽減につながります。
対応履歴の記録
録音や書類により対応履歴を記録することは、以下の点でメリットがあります。
- クレームを「お客様の声」としてデータベース化できる
- 発生したクレームに対しての対応事例として、新人教育や商品対策の題材に活用できる
- 顧客からの誤解・食い違いが生じた場合に、録音や書面のデータにより事実確認できる
対応履歴を記録しなければ、クレーム対応はどうしても属人化しがちです。必要に応じて電話録音用の機器などをそろえて、対応履歴を記録できる体制を整えましょう。
組織として対応する
クレームは、必ず全社的に共有しましょう。そして、原因と対策を分析して再発防止に努めることが重要です。このとき、直接業務に関連していない部署に対しても情報共有しましょう。全社的に対応することで、クレームが入ったときに担当部署が不在でも、スムーズに案内できます。
このとき、クレームを受けた社員が上司や同僚に報告をしないことが問題になることがあります。特にクレームの原因が自分自身にある場合、報告が避けられがちです。報告やコミュニケーションの問題は難しい問題ですが、効果的な対策は以下のとおりです。
- クレームを受けたことに対して、スタッフを過度に責めたりネガティブな人事評価をしたりしないことをあらかじめ伝える
- クレームを報告しなかったことに対しては、厳しい態度を取る
- 上司と部下の間で日頃からコミュニケーションを増やし、報告・連絡・相談をしやすい雰囲気を作る
クレームに対して組織として対応するためには、コミュニケーションやチームビルディングの課題も関わってくることを理解しておきましょう。
クレーム対策研修を受講する
クレーム対策は、ビジネスにおいては最も重要なポイントの一つであるため、多くの研修会社がクレーム対策研修を提供しています。階層別(若手社員向け・マネージャー向けなど)に、事例や実践などを交えながら体系的にクレーム対策が学べる内容が設定されており、自社の業種や受講者の役割に合わせて選ぶことが可能です。
クレームというストレスが高まる場面で、適正な行動を選択できるスキルを持つことは、社員のメンタルを守ることにつながります。それは社員のやりがいや自信となり、定着率の向上にも貢献します。
社員一人ひとりのクレーム対応力を高めるために、定期的にクレーム対応研修を実施しましょう。悪質な要求への対処力を強化したい場合は、カスタマーハラスメント研修の組み合わせも効果的です。


